蒼空学園

　ヴァイシャリー近郊の草原。
「きゃははー、待て待てー」
　上園　エリス（かみぞの・えりす）がトンボを追いかけて一人で駆け回っていました。
　そこへ現れたるは、黒塗りの大きなワンボックスカー。
　ワンボックスカーはエリスのすぐ近くで停車し、中から人がぞろぞろと降りてきます。
　男も女も皆、黒で固めたスーツにサングラス。いかにも怪しげな人たちです。
　その一人が、エリスにプリンを差し出して言いました。
「お嬢ちゃん、お菓子をあげよう。ちょっと顔を貸してくれないかね？　可愛い女の子もたくさんいるよ」
　エリスはしばらく考えた後、元気にうなずきました。
「うん、分かった！」
　黒服たちと一緒に車内に入るエリス。
　途端、薬品臭のするハンカチを押しつけられ、意識が遠のいていきました。


　意識を取り戻したときには、エリスは薄暗い部屋でベッドに寝かされていました。
　随分と広い部屋。魔法薬の原料らしき不気味な匂いが漂っています。窓はなく、外の様子は分かりません。
　そばに立っているのは、和服姿の女性。どぎつい口紅をさして眼光鋭く、一見して堅気ではありません。
　その女性が凄絶な笑みを浮かべて言いました。
「目が覚めたようだねえ。あたしは紅鶴。キマクの一角を仕切ってるもんさ。ヴァイシャリーでの騒ぎのこと、聞いたよ。なかなか素敵なオツムを持ってるようじゃないか。今日はそれを見込んで、嬢ちゃんに頼みたいことがあるんだ」
「頼み？　お菓子は？　女の子は？」
　エリスはきょとんとして尋ねました。
「そんなものは後でいくらでもあげるさあ。その前に、嬢ちゃんの脳みそをあたしらの研究に役立てもらわないとねえ」
「面白い研究ならするけど？　なーに？」
　紅鶴と名乗った女性は人差し指を立てて口角を上げます。
「人の心から、良心なんて面倒なものを消しちまう魔法薬の開発さあ。それがありゃ、優秀な殺し屋を大量に作れる」
「そんな研究しないもん！」
「嫌でもしてもらうよ。ほれ、もう実験用の素材も準備してるしねぇ」
　紅鶴がキセルで指した先には、たくさんの寝台が置かれていました。寝台には人や人でない者が昏睡状態で横たわっており、口には麻酔マスクを着けられ、腕には点滴の針が刺されています。
　エリスの悲鳴が部屋に響き渡りました。


　エリスは見張りの隙を突き、こっそり使い魔にＳＯＳの手紙を送り届けさせました。
　宛先はヴァイシャリー。超速達で。


　百合園にヘトヘトになってたどり着いた使い魔から手紙を受け取ったのは、校長の桜井　静香（さくらい・しずか）でした。
「これ、本物なのかな？」
　静香の疑問に、ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）が顎をひねって答えます。
「悪戯という可能性もありますわね。ですが……、最近妙な噂を聞きましたの。どうもキマク周辺で、若者ばかりが次々と行方不明になっているらしいと。この醜悪な研究に使うためだとすれば、辻褄は合いますわ」
「……どうしよ？」
　怖々、目を見開く静香。
「とりあえず現場に向かいましょう。あそこは危険な犯罪都市ですし、仲間を集めないといけませんわね」
　ラズィーヤは表情を厳しく引き締めました。

こんにちは、センチメンタルな秋の夜長に箸が転んでも泣きたくなる年頃のゲームマスター、天乃聖樹です。
今回は犯罪都市キマクを舞台にした捜査シナリオです。


■紅鶴の組織は裏社会で幅を利かせている大規模な集団で、侠客の紅鶴を含め強力な犯罪者が揃っています。
　彼女のアジトを発見した際には、激しい戦いになることが予想されます。


■情報収集できる場所を幾つか紹介します。


【闘技場】
力自慢の猛者が集まる場所です。危険ですが、裏社会の情報も集まりやすいところです。
背後に注意していないと生き延びられません。

【酒場】
飲んだくれの犯罪者が集まっています。上手く機嫌を取れば情報収集に打ってつけですが、あまりおおっぴらに聞き込みをやると怖い人が出てくるかもしれません。

【路地裏】
ジャンキーや浮浪者だらけのゴミ溜めです。ここではお金がモノを言います。

【ブラックマーケット】
非合法の魔法薬や武器が多数取引されています。妙な薬を盛られないようご用心を！

【ブラック幼稚園】
裏社会の子供ばかりが通っている幼稚園です。純粋なだけに、大人の犯罪者よりも危険かもしれません。


捜査が失敗した場合、エリスが良心を消す魔法薬を完成させ、凶悪な殺し屋たちが野に放たれるでしょう。
死なないよう気をつけながら、皆さんの捜査手腕で見事誘拐犯を捕まえてください！

・闘技場で捜査する

・路地裏で捜査する

・殴り込みする