蒼空学園

※このシナリオはフリーシナリオです。アクションを掛ける際に必要な情報は、全てマスターコメントに記載してあります。フリーで楽しみたい場合はマスターコメントを参照いただければ問題ありません※

「もう、２０２４年が近いんですねー……」

　フィアレフト・キャッツ・デルライド（ふぃあれふと・きゃっつでるらいど）が２０２３年８月１１日のパラミタに現れてから早４ヶ月。
　――早４ヶ月。
　彼女が告げた怪しげな“彼”なる男――呼び方からして男性でしょう――は未だ現れずに平穏な日々は過ぎ去って。
　気付けばもう、真冬です。
　――真冬です。

「やっぱり、私が８月１１日に此処に来れたのは何かの運命だったんです。神様が、私の前途を応援してくれるつもりであの日を選んでくれたんですよ！　……まあ、神様なんていない事は知ってるんですけど。でも、パラミタって結構何でもありだし、いてもおかしくないですよねー」
「あんまり不用意な事を言うなよフィー。今のお前はひとことひとこと、『えっ、ここヒント？　それとも伏線？』とか勘ぐられる立場なんだからな。ほら、現にアクアが眉間に皺を……」
「あっ！　先生違うんです！　今のはただの妄想というか願望みたいなもので！　深い意味は全然無いので……！」
「……本当ですか？」

　１２月某日。
　ラス・リージュン（らす・りーじゅん）の家のリビングにでん、と置かれたこたつの一辺を埋めていたフィアレフトは、ミンツの言葉を聞いて慌ててみかんの皮を剥く手を止めました。疑わしげな視線を外さないアクア・ベリル（あくあ・べりる）にこくこくと頷き、そして言います。
「本当です！　本気の本気でこれは本当です！　そんなに皺を寄せてると老けますよ！」
「老けません！」
「……まあ、そうですよね」
　機晶姫のアクアが老ける事は有り得ない。それを知っているフィアレフトは再びみかんの皮を剥き始めました。どこか冷めた風に白い筋を取り除いている彼女に、つい声を荒げたアクアは息を整えてから問い質します。
「第一、貴女は何者なのですか？　私達の前に現れて妙な事を言い連ねてから２つの季節が終了しました。夏も終わり、秋も終わり……そろそろ、名前以外の出自を明かしても良い頃でしょう」
「と、言われても……私の体感では１ヶ月位しか経ってないんですよねー……」
「体感の問題ではありません！」
　同じく、体感では１ヶ月位にしか感じていませんでしたがアクアは客観的視点から突っ込みます。
「それに、どうして貴女は私を『先生』と呼ぶのです？　そのくせファーシーの前では『アクアさん』と名前で……」
「何だお前、まだ気付いてなかったのか？　案外鈍いな」
「…………！」
　そこで、今まで黙っていたラスが口を開きます。アクアの隣に座るよりはと向かいを選んで寝転がっていた彼は、横目で彼女を見遣っています。
ちなみに、ピノ・リージュン（ぴの・りーじゅん）はこのリビング内には居ません。アルバイト中のファーシー・ラドレクト（ふぁーしー・らどれくと）から預かった彼女の１人娘、イディア・Ｓ・ラドレクトとお風呂に入っている最中です。アクアもイディアと、加えてラドレクト家の飼い猫の世話を手伝う為に渋々この家の敷居を跨いだのですが、浴室の敷居まで跨ぐのは何となく憚られてこたつの温もりに浸かっています。猫はこたつで丸くなっています。
　浴室からはピノと１歳児の楽しそうな声が漏れてきていて、２人が不在だからでしょうか。フィアレフトは彼女達を『彼女本来の呼び方』で呼んでいました。アクアは、それを改めて言及しようとしていたのですが――
「で、では、貴方は判っているのですか？　彼女が何者で、何故私を『先生』と呼ぶのか……」
「大体は。こいつも隠す気が無いみたいだし、だからこそのその呼び方だろうし……つーかお前、俺の『おじさん』呼ばわりは疑問に思わないのか？」
「９歳前後の年頃であれば、２３歳は充分におじさんだと思いますよ」
　若干顔を赤くしていたアクアは、少し冷静さを取り戻して言い返します。テレビから空京神社のコマーシャルが流れたのはその時で、可愛らしい巫女服を着た女の子が『新年の初詣は空京神社で！』と笑顔でアピールしています。
「…………」
　２人の会話を聞きながらやっと１個目のみかんを口にしたフィアレフトは、その映像が終わった後もじーーっとテレビから目を離しませんでした。それから、おもむろに提案します。
「あの。今年中に“彼”が現れなかったら……今のうちに初詣に行きませんか？」
「「初詣？」」
　同時にそう言ったラスとアクアは、やはり同時にこたつ本体に注目しました。『まさかこれで……』とでも言わんばかりである２人の様子は特に気にせず、フィアレフトはにこやかに続けます。
「ほら、おじさんにとっては最後の初詣になるかもしれませんし」
　ぴた、とラスはこたつを見ていた顔を固まらせました。苦々しげに彼女に言います。
「……それ、どこまでが冗談だ？　お前が言うと冗談に聞こえねーんだよ」
「勿論、全部冗談ですよ！　話を聞いたところ、このまま時が経てば大丈夫な筈ですから」
　８月１１日――あの日から、フィアレフトはラスの家に居候しています。あの日の夜は地球からパラミタにやってきていたサトリ・リージュン（旧名：砂糖　覚）もこの家に宿泊していました。その時にサトリから聞いた話を――その結果、父と息子が出した結論を思い出しながら――フィアレフトは言います。
　ラスはそれを聞いて、口元を引きつらせました。素晴らしい程に、全く大丈夫な気がしません。
「つまり、全部は冗談じゃないんだな？　それは“彼”の件と関係があるのか？　それとも……」
「……聞きたいですか？」
　ニコニコと言うフィアレフトにどこか気圧され、彼は言葉を詰まらせます。『聞きたい』というのも『聞きたくない』というのも確かな本音であり、咄嗟に答えが出せませんでした。
　そこで、よちよちと歩くイディアと一緒にピノが浴室から出てきます。
「あー、いいお湯だった！　あれ、どうしたの？　おにいちゃん、フィアちゃん」
「何でもありませんよー。今、皆さんで初詣に行きませんか？　って話していたところだったんです。ピノさんとイディアちゃんも一緒に行きましょう！」
　湯気すら見えそうな感じにほかほかとしているパジャマ姿のピノに、フィアレフトは明るく言います。切り替え早く、先程までの雰囲気を完全に払拭しています。
「初詣？　うん、もちろん行くよ！　おみくじ引きに行かないとね！」
　ぴんぽーん、と呼び鈴が鳴ったのはその時で、まだ座っていなかったピノは「はーい！」と元気に玄関に向かいます。
「あっ、ファーシーちゃん！」
「こんばんは、イディアを迎えに来たわ。あ、お風呂に入れてくれたのね！」
　そんな簡単な遣り取りの後、ピノに続いてリビングに入ってきたファーシーは、抱き上げたイディアの濡れた頭を撫でながら皆に言います。
「ねえ、元旦になったら初詣行かない？　環菜さんとルミーナも誘って……後、フィーちゃんも、一緒に！」
「はい！　喜んで！」
　誘われたのが余程嬉しかったのか、フィアレフトは笑顔を輝かせて即答しました。

「じゃあ、預かってくれてありがとう！　アクアさん、今日はうちに泊まらない？」
「そうですね。それでは……」
　用も無いのに長居するような場所でもありません。こたつから抜け出したアクアは、猫を抱いたファーシーがイディアを連れて外に出たのを確認してからフィアレフトに言いました。
「念の為に訊きますが……貴女が私を『先生』と呼ぶのは、鏖殺寺院とは関係の無い事なのですよね？」
「寺院ですか？　……はい！　私も“彼”も鏖殺寺院とは関係ありませんから。それは安心してください」
　アクアに過去、何があったのか。フィアレフトは詳しい事情までは知りません。アクアとファーシーが仲違いしていたというのも信じ難く、御伽噺的な認識しか持っていないのが実際のところです。けれど、彼女が寺院に特別な恐れを持っているのは何度も感じてきていたから。
　――せめて、この“アクア”の不安は取り除きたいと、フィアレフトはふんわりと笑いました。
　

※本シナリオのリアクション公開は下記表示とは異なり２０１４年１月７日を予定しております。あらかじめご了承ください。※

『初詣』をテーマとしたフリーシナリオとなります。
基本的に、いつも通りの「四季の彩り」シリーズと同様に過ごしていただければと思います。
初詣期間中に行われている行事であれば、大体何でもＯＫです。

ただし、今回はこれまでの同シリーズとは異なり、公式ＮＰＣを誘うことはできません。ガイド内に出ているＮＰＣと、私のマスターページ内で名前記載がある「現在生存している」ＮＰＣのみを可とします。

シナリオ内日付は２０２４年１月１日から（正しくは２０２３年１２月３１日カウントダウン前から）終日、となります。
初詣は別に元旦だけの行事ではないのですが、１日限定にした方が流れが組み易いというマスター側の極個人的な事情により元旦のみとさせていただきます。ＰＣ達には頑張って休みをもぎ取ってきてもらってください（ちなみに私は仕事のよて……聞いてないですねそうですね）。
ガイド本文内ＮＰＣが実際に神社に行くのは２０２４年１月１日の日中となります。
また、ご希望があればむきプリ君はいつでもホレグスリを配りに参上致しますのでお気軽にお申しつけください。

シナリオの舞台は、
ＰＣのみでアクションをかける場合→シャンバラ内であれば空京神社以外の他の地区でも可能です。
ガイド本文内ＮＰＣを誘う場合→空京神社

となります。

☆フィアレフト・キャッツ・デルライドの回答内容について☆
このシナリオでは、フィアレフトに今後の質問をする事も可能です。
ただし、現時点で彼女が明確に答えられるのは「自分の正体」についてのみです。それも、ファーシーがいる前では絶対に明かしません（ピノがいる場合は状況によります）。
それ以外では、ガイド本文にあるように思わせぶりな事を言うのみにとどまりますのでその点だけご留意ください。
（彼女の記憶に当て嵌まらない質問が来た場合は、アクアさんに答えたように「違う」という意味の発言はしますが）

以上になります。それでは、よろしくお願いいたします。

・おみくじを引く

・お賽銭を投げてお参りをする。