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記憶が還る景色

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シナリオガイド

それは、あなたの中にあるもう一つの風景
シナリオ名:記憶が還る景色 / 担当マスター: 保坂紫子

 空京。某所。

 ある晴れた日、孤児院『系譜』の子供達にせがまれて空京へと遊びに来ていた破名・クロフォード(はな・くろふぉーど)は、呼ばれたような気がして蒼空を見上げ、小さく「あ」と声を漏らします。
「どうしました?」
 足を止めて振り返った反応の早い手引書キリハ・リセンに向ける破名の紫色の瞳は既に銀の色へと変色しつつあります。
「――あの?」
「任せる」
 保護者達の足が止まったことに気づいた子供達が振り向く前に破名は身を翻しました。
「どちらに?」
「さっき通りかかった公園にでも、収まったら戻る」
「待って、クロフォード!」
 場を離れる事に思わずと声を上げたシェリー・ディエーチィ(しぇりー・でぃえーちぃ)に利き手を上げて答えた破名の後ろ姿は、空京の雑踏に紛れて少女の視界からすぐに消えてしまいました。
「キリハ」
「問題無いみたいですし、すぐ戻るそうですから、そうですね、待つついでに私達も少し休みましょうか」
 困った顔でシェリーに名前を呼ばれたキリハは仕方ないですねと肩を竦めます。
「あいす? きりは、あいすたべるの? ふぇおるはたべたい!」
 あとは帰るだけだと聞いていた院で最年少の獣人のフェオルはキリハの提案に目を輝かせました。
 アイスとは一言も発していないキリハはそうですねとシェリーと顔を見合わせます。



 座標さえ指定できれば距離も場所も問わない瞬間移動を可能にする『転移』の能力。
 その能力を行使する前に、うっかりとソレを許してしまった破名は、上手く制御出来ず自分の周囲に出現し始めた古代文字に完全に銀色に変色した目を細めました。
「できれば人目につかない場所に……」
 歩きながら思考する部分まで占領されて独り言が増える自分に気付き、とにかく落ち着ける場所へと急ぎます。
 破名はこの暴……もとい『現象』には過去に覚えがありました。



…※…※…※…




『簡単に言ってしまうと副作用ですね』
 あっけらかんと、当時破名の担当をしていた博士は答えました。
『いえ、悪いものではないです。そうですね、どう説明しましょうか。
 私達が研究し完成させた文字が生き物に作用する事は知っていますよね?
 そして『資格者』として文字と共存している貴方も同じなんですよ。影響を与えてしまうんです。


 人には誰しも帰りたいと描く風景があります。

 懐かしいと呟いてしまう景色があります。

 それは此処ではない何処かであり、

 これから訪れる未来かもしれず、

 二度と立ち戻ることの出来ない、

 名前を呼ばれたら忘れてしまう、

 思い出にも残されない命に刻まれた刹那の記憶(メモリー)があります。


 貴方にはそれを呼び起こす影響といいますか……、 これもひとつの″共鳴現象″と言えますね』
 言われて破名は訝しみました。
『共鳴現象って……』
 危険ではないのかと問われて、博士は否定に緩く首を振りました。
『貴方のは問題ありません。何も覚えていない白昼夢を見るようなものですから』
『俺は何も見えないぞ?』
『それは発生源だからですよ。それ以前に全てを差し出してくれた貴方にはそれさえ存在しないというのもあるのでしょう。
 しかし、いつもそんな状態が続くのはうざったいですね、調整の仕方を変えてみましょう』
『……暴走だな?』
『嫌ですね。副作用だと言いませんでしたか? 私の研究成果が暴走なんてふざけた醜態を晒すわけがないでしょう。そんな事より調整しますから服を脱いで下さい。あと、出せる分だけでいいので情報も下さい』
『だから、暴――』
『こちらから無理矢理引き出してもいいんですよ?』
『…………問題ないのならいい』
 笑顔で繰り返されて破名は追求を諦めました。



…※…※…※…




「さて、どこから始めたものか」
 ぼやく破名はベンチに座ります。
 集中しようにも久々過ぎて感覚が上手く掴めません。性能が上がるというのは装置としては喜ばしいのかもしれませんが、慣れていない内はどうしても慎重になってしまいます。
 破名は、どんな手順だったかとぼんやりと思い出しつつ、目の前を浮遊する一文字を摘むように掴みます。
「焦る必要は無いとは言え、あんまり長いと目立つだろうし……どちらにしろ、やるしかないか」
 破名の周りには次から次へと文字が浮き出ては、分裂し増えて何処へともなく散って、あちらこちらへと遠くを目指し分散していきます。
 常なら銀色に存在を主張するかの如く輝き明滅するそれらは、今はとても薄く半透明で、重なりを得ると霞のように視界にフィルターをかけていくようでした。
 そして、自分の足元すら見えない深く濃い霧のように姿を変えます。
 程なくして、公園内は無限とも思える文字の白霧に満たされるのでした。



…※…※…※…




 五千年程前に掲げられた壊獣計画の研究のおり、作られた古代文字は生きている存在に作用します。


 真夏の日に、公園内に漂う深い霧は、知らないけど知っている風景(記憶)を思い出させる白昼夢を見せることでしょう。


 名前を呼ばれれば全て忘れてしまう、一滴の水の様にうっすらと心に懐かしさ染み込ませ、陽光に綺麗に蒸発し消えてしまう儚いものですが、
 これもまた、ひとつの、この世に生を受けた存在を認め鳴り響く、

 ――共鳴現象でした。

担当マスターより

▼担当マスター

保坂紫子

▼マスターコメント

※こちらのリアクションの公開予定日は、下記の記載と異なり、10月16日の予定となります。※

 はじめましての方もお久しぶりな方も、こんにちは。保坂紫子と申します。
 どうぞ宜しくお願い致します。
 今回は、
 その忘れられない風景は、それを見たことすら忘れるだろう。
 をテーマに持ってきていますが難しく考えなくても大丈夫です。
 アクション上必要と判断された場合MCLCの別行動は可能ですが、必ずしも全てを描写するというお約束もできません。
 また、当シナリオでのリアクション結果は他のシナリオに影響を与えることは全くありません。
 また、以下はPL情報も含まれておりますのでご注意下さい。


■今回発生した共鳴現象について
 特に危険という類のものではないです。(これは今までの共鳴現象の発端が古代文字『系図』であったのに対し、今回のは古代文字『楔』が発生源となっている為です)
 触れた対象に白昼夢を見せるようです。
 どんな風景、景色、情景を見せるかはそれぞれで、内容は陽光を浴びれば全て忘れてしまう儚いもののようです。
 白昼夢の内容に関しては特にこちらで指定いたしませんが、場合によっては保坂の方で表現の限界があるかもしれませんのでご了承いただけると嬉しいです。
 注意していただきたいのが、白昼夢は個人しか見れないという点です。他のMCやLCと同じものを見ることはできません。また、それは夢でしかないという事です。
 そして、必ず忘れてしまうものです。
 ガイド内で「生き物に作用する」「生きている存在に作用する」と表現していますが、MCLC共に制限するつもりはありませんので気にせずアクションをかけていただければと思います。


■各NPCの状況
破名・クロフォード
 共鳴現象の中心地です。公園のベンチに座って状況を収めようと調整と制御を繰り返しています。
 特に大変という事もなく、ただ懐かしさに心なしか楽しげに作業しているようです。

シェリー・ディエーチィ、手引書キリハ・リセン、及び、孤児院『系譜』の子供達
 公園よりやや離れた場所でアイスを食べながら破名が戻ってくるのを待っているようです。

▼サンプルアクション

・公園内。

・公園外。

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2014年09月11日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2014年09月12日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2014年09月16日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2014年10月16日


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