空京で連続して起きた「女神像レプリカ」の破壊事件とその犯人探しから始まったイルミンスールでのひと騒動。
犯人として追われていたカンバス・ウォーカーと、追っていたクイーン・ヴァンガードとの関係は、誤解があったことが判明し落ち着きを見せたものの、真の実行犯と見られる剣の花嫁の来襲により一部の生徒が洗脳されてしまうという結末を迎えました。
そして――
「ほんとうに、このアクセサリーは、予想外の大活躍ですわね」
剣の花嫁を洗脳するために用意した機晶石の額飾り。
剣の花嫁自身の気絶によって洗脳を解かれそうになった場合、近くにいる剣の花嫁にアクセサリーを装着させ、洗脳するというもの。逆に言えば、それが可能な状況でなければ戦闘を行わないというプログラム。
天秤座《リーブラ》のティセラは、自分が施したアイデアに満足そうな表情を浮かべました。
「今度洗脳されたのは学校の生徒たち――なるほど」
アクセサリーの気配をたどったティセラの口許を小さな笑みが彩ります。
「蒼空学園の生徒も洗脳できたみたいですし――そのまま生徒達に空京で暴れ回っていただければ――学校の評判は失墜。騒ぎが広がれば、クイーン・ヴァンガードもそちらに手勢を割かざるをえなくなり、小うるさく動かれることも少なくなりそうですわね」
小さな笑みは、酷薄な笑いへと広がりました。
「洗脳された何人か、イルミンスールにいらっしゃるのですわね。イルミンスールと蒼空学園の関係悪化も面白そうですけれど――ここはひとつ、空京で暴れていただきましょう。引き続き女神像のレプリカの破壊――いえ、もう少し美術品の種類を広げてみましょうかしら。それから、ちょっと派手に建物も壊してしまって構いませんわ。ことは、大きくなった方が面白くなりそうですもの。ついでにもう五人ばかり、制服を用意してきて暴れ回っていただくのもよろしいですわね」
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「ティセラだ。ティセラが動いてる」
イルミンスール魔法学校。
洗脳された剣の花嫁による襲撃騒動を見て、クイーン・ヴァンガードの皇彼方は悔しそうに歯がみしました。
「狙いは、なんだろう?」
「ティセラが狙ってるとすれば、やっぱり……五獣の女王器……? まだ見つかっていない女王器が、古美術品に混ざってるのかもしれないわ」
彼方の隣では十二星華《サダクビア》のテティス・レジャが厳しい顔で言葉をこぼしました。
「像の破壊そのものが目的じゃなかったってことか?」
しばらく、腕を組んで考えていた彼方でしたが、決意を決めたように顔を上げ、集まった生徒達に語りかけました。
「洗脳された生徒が引き上げてった方向は空京……よし、クイーン・ヴァンガードはすぐに空京へ向かう。騒ぎを、止めなくちゃな。それから、たぶん、人数が必要だ。イルミンスールを騒がせておいてムシがいいのは承知だけど……頼む。協力してくれないか?」
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「ぼくもっ、ぼくも空京へ行くっ! ぼくが『助けて』なんてイルミンスールに来たから……巻き込んだんだ。関係ない人まで、洗脳なんてさせちゃったんだっ!」
美術品に宿る想いが具現化した存在、カンバス・ウォーカーは、彼方の言葉に答えて叫びました。
「それに、五獣の女王器っていうのがティセラって人にとってどれだけ大事なものか、ぼくには分からないけどっ! でもっ! これ以上美術品が壊されるのは嫌だよっ! 誰かの想いが壊されるのは……嫌だよ……」
言って、カンバス・ウォーカーは潤みそうになる瞳にキッとばかりに強い力を込めます。
「もし、空京の剣の花嫁がまだ古美術品を狙うんなら、ぼくと、ぼくの持っている像を狙わせればいい。ぼくを――囮に使ってよ」