空京南西部、葦原島の葦原明倫館校舎。早朝。
その隠密科の教室付近をひとりの男子生徒がドッタンドッタンと足音立てまくりで走っていた。
「はぁ、はぁ。急がないと間に合わないでござるよぉ……」
彼の名は、内谷利経衛(うちや・りへえ)。その名にちなんだあだ名は『ウッチャリ君』である。
実際体格は十五歳ながらかなり大きく太めで、ニンジャとしての成績は下の下に位置していた。
「かはは。蘭香(らんか)、ウッチャリのヤローが走ってるぜ」
「くふふ。塵丸(ちりまる)、ニンジャとは思えない無様さね」
と、教室からうりふたつの容姿をした同級生から嘲りの声が浴びせられる。
利兵衛は何も言えぬまま走り去るしかできなかった。
職員室では、漆黒の忍び装束を着た教師がひとり待っていた。
「利経衛、特別試験を申し渡す。詳細は以下の通りだ」
やや中性的な声色のその教師は、それだけを告げドロンと姿を消してしまった。
いきなりのことで困惑気味の利経衛だが、机に置かれた一枚の紙に目を落とす。
特別試験内容
明日の日の出までに、校舎内に潜む以下の者達を探し出し、所持している道具を奪取せよ。
この私の巻物 『以下は、各々の意気込みを記しておいた』
蘭香・塵丸の足袋 『叩きのめすわよ』『せいぜい覚悟しとけ』
シェイドの羽 『僕の捕獲など誰にも不可能でございます』
SABAKI三号の忍者刀 『セイセイドウドウノ、ショウブヲシヨウ』
サクラの秘伝丸薬 『私の薬の実験台になるなら丸薬あげるわ』
スィの頭巾 『ぶくぶく……ぶくぶく……捕まらないよ』
アレキサンダーの眼鏡 『ニンジャ同士の戦いが見れるといいなぁ』
卍子(まんじこ)の卍手裏剣『手裏剣いいよね! このフォルムがね!』
アキラの手甲 『オマエの血はマズそうだからいらないな』
たつろうの鱗 『おらの鱗、剥すと痛いだから、あげない』
コジの筆 『わしの幻術をお主が打ち破れるかのう?』
光(ひかる)のかんざし 『あ、その、ど、どうぞ、よろしくですぅ』
連中には試験ゆえに簡単に誰にも渡さぬよう言い含めてある。
他校の生徒に協力を求める等、手段については問わない。奪取できた数によって合格か否かを判定する。
貴様の資質を生かせ。以上。
そこに記載されていた名に利経衛は愕然とした。
シン先生は勿論のことながら、他の生徒達も――
驚異の脚力で分身を可能にしたヴァルキリー姉弟、蘭香と塵丸。
空を駆け獲物を仕留めるシノビ守護天使、シェイド。
自身をニンジャ仕様に改造した機晶姫、SABAKI三号。
忍の薬と毒のエキスパート魔女、サクラ=ド=ラ=クラン。
水を使わせれば天下一品と噂のガマガエルのゆる族、スィ。
ニンジャ観賞が趣味のシャンバラ人、アレキサンダー。
自らを手裏剣の花嫁と呼称するほどの手裏剣好き、卍子。
あらゆる意味で血を好む暗殺得意の吸血鬼、アキラ。
忍犬、忍猫、忍鼠などを操るドラゴニュート、たつろう。
果心居士(かしんこじ)の英霊を自称する男、コジ。
僅か9歳ながら罠を仕掛ける天才であるアリス、光。
と、各々個性的ながら、それなりの実力を持つことを利経衛は把握していた。
「どう考えても無理でござるよ……そもそも、拙者の資質? そんなものがあるのでござろうか……?」
それでもとりあえず協力を求めるメールを各学園の掲示板に載せ、奔走を始めるのであった。