イルミンスール魔法学校

　時は、“黒髭”が泉　美緒（いずみ・みお）に取り憑き、空賊団と共に飛空船を襲った日まで遡ります。
　羽交い絞めにされたまま、毒粉を吸い込み力の抜けていく美緒からコートと帽子が脱がされる直前のことです。
（くそっ！　このままでは！）
　依り代であるコートを奪われ、処分されようものなら、己の存在が消えてしまう――。
　そう考えた“黒髭”は、己の意識をコートから美緒の内へと無理矢理ねじ込みました。
　多少の抵抗がありましたが、“黒髭”の意識は美緒の身体の奥底へと移ることが出来ました。
　ただ、依り代を移り変えたことで、力を多く消耗し、“黒髭”はなかなか美緒の意識を乗っ取ることが出来ませんでした。

＊＊＊

　それから数週間――。
　身支度を整えるため、鏡に向かっていた美緒は、鏡に映る自分の顔が妖しい笑みを浮かべたことに気付きました。
『寄越せ……』
「な、にを……？」
　問い返す美緒に、鏡の中の美緒が告げます。
『お前の身体、寄越せっ！！』
　声を荒げる鏡の中の美緒が、美緒に向かって手を伸ばします。
「いやあっ！」
「何事ですか、美緒！」
　美緒の叫びに、ラナ・リゼット（らな・りぜっと）が、勢い良く扉を開けました。
　怒気を当てられ、倒れ込む美緒を見つけたラナは咄嗟に駆け寄り、彼女の身体を支えます。
「お、お姉様、助け……、……えぇい、邪魔だ！」
　弱々しく差し伸べられた手が一変、ラナの手を払い、身体を支える腕すら振り解こうとしました。
「あなた、誰です？」
　振り解かれようとした腕だけは離さず、ラナは問いかけます。
「誰、か。忘れたとは言わせないぞ、この“黒髭”様をなあ！？」
　くつくつと笑いながら、美緒――“黒髭”が答えました。
「“黒髭”ですって！？」
「それは聞き逃せない名乗りですわね。詳しくお話を聞かせてくださいます？」
　愛用の剣を抜きながら繰り返すラナの言葉に、いつの間にか騒ぎを聞きつけて駆けつけていた学生たちの人だかりの後方から丁寧で、良く通る声が聞こえてきました。
　道を譲る学生たちの後方から現れたのは、ラズィーヤ・ヴァイシャリー（らずぃーや・う゛ぁいしゃりー）です。
「わたくしの執務室で」
　有無を言わさぬラズィーヤの微笑みと突き付けられた切っ先に、ラナに掴まれたままの“黒髭”は抵抗を止め、執務室へと踵を返す彼女の後に続きました。

「なるほど。あのコートを燃やされる前に、取り憑く先を美緒さんに変えた……というのですわね」
「そうだ。この“黒髭”様が負けて、消えるワケにはいかないからな！」
　掻い摘んで話された“黒髭”のその後を聞き、ラズィーヤが納得するように頷きます。
「今はまだ、本来の力を出せぬが故、こうしてお前の話に付き合ってやっているがな。何れ、力を取り戻したあかつきには、このようなところから出て行き、この身体を使って、再び、“黒髭”空賊団を作るのだ！」
「美緒の身体で、そのようなことさせません！」
　声を荒げる“黒髭”に、ラナが言います。
「あら？　思い切って美緒さんと“黒髭”さんが契約してしまうのも１つの手だと思いますわ」
「ラズィーヤ様！？」
　ラナは驚き、目を見開いて、“黒髭”に向けていた視線をラズィーヤへと向けます。
「俺がこの小娘と契約だと？　笑わせてくれる」
　“黒髭”も、応えながら、鼻で笑いました。
「美緒さんが“黒髭”さんを身体から追い出さないのは、もしかしたら美緒さん自身がそれを心の奥底で望んでいるからかも知れませんわ。スリルとサスペンスに満ちた、自分の知らない世界を、ですわね。それに“黒髭”さんもシャンバラで活動する身体が必要ですもの」
「……最終的な判断は美緒に任せますが……」
　ラズィーヤの言葉に、ラナは視線を“黒髭”へと戻しました。
「そこで１つ、“黒髭”さん、提案がありますわ」
　その様子を見つつ、ラズィーヤが口を開きます。
「空賊ではなくなってしまいますけれど、パラミタ内海で他の海賊を退治する『海賊』となる気はありませんか？」
「海賊、だと……？」
　繰り返す“黒髭”に、「ええ」と頷き、ラズィーヤは言葉を続けます。
「ご存知……かどうかはこの際置いておきますが、我がヴァイシャリーは海軍を持っております。けれど、小さな海賊１つ１つに海軍を動かしていたらキリがありませんの。そこで、それら海賊を退治する存在――公的に認められた海賊が居たら、海軍を動かすまでもなく、パラミタ内海の平和は守られるでしょう？」
「私掠船ねえ？」
　ラズィーヤの言いたいことを汲み取り、“黒髭”が呟きます。
「……いいぜ、乗ってやろう。そうと決まれば、さっさと船を用意し、なっ……！？」
　暫し考えた後、答えを出した“黒髭”は、突然、身体から力が抜けていくのを感じました。
「……、……あ、あら？」
　目の前のラズィーヤと、傍らのラナを見て、目をぱちくりと瞬きを繰り返す様子は、“黒髭”ではなく、美緒です。
「美緒……戻ったのですね？」
　ずっと警戒をしていたラナが、美緒の様子にほっと胸を撫で下ろします。
「ええ。けれど……『彼』が消えたわけではないようですわ。ただ、不安定なだけで、また入れ替わってしまうことも……」
「美緒さん、今回のことは覚えていて？」
　以前、“黒髭”に乗っ取られたとき、彼女は乗っ取られて以降の記憶を忘れていました。
　けれど、今回の口ぶりから、記憶があるのではと踏んで、ラズィーヤは問いかけます。
「完全にとは言いませんけれど、夢の中でラズィーヤ様と彼が話をしている様子を見ていたような気がしますわ」
「では、私掠船の話も？」
「はい。大変なことになりましたけれど、彼が今までに犯した罪を償わせるためにも、“黒髭”空賊団、改め、海賊団は、ラズィーヤ様の指示の元、パラミタ内海の平和のために動きますわ」
「“黒髭”に自由にさせないために、その折は私も同行しましょう」
　こうして、ヴァイシャリーに認められた海賊――“黒髭”海賊団が誕生したのです。

＊＊＊

　それから幾日か経った、ある晴れた休日の日のことです。
　雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）は、パラミタ内海をぐるりと周回する遊覧船に乗っていました。
　その遊覧船に近付く黒い影があります。
「あれは……？」
　ゆっくりと近付いてくる影は１艘の大きな船でした。
　風を受けてはためくのはドクロと交差する２本の骨――海賊旗のようです。
「海賊！？」
「そういえば、最近、内海で『ブラッドレイ海賊団』とかいう新しい海賊が、暴れまわっているとか聞いたよ！！」
　デッキに出ていた客たちも近付いてくるその海賊船を見つけて声を上げました。
　そうしているうちに、海賊船から砲弾が放たれ、遊覧船の傍に着弾すると、水柱が上がります。
「かーっかっかっかっかっ！　聞け、愚民ども！　俺はブラッドレイ海賊団、３番隊隊長、アーダルベルト・グアハルドだ！　大人しくしていれば命までは取らん！」
　海賊船の前方に立ち、高笑いと共に現れた大柄で筋肉質の男――アーダルベルトが叫びます。
「近付いて乗り込め！！」
　アーダルベルトの指示と共に、海賊船が徐々に距離を詰めて来ました。横付けされるのも時間の問題です。
「と、とりあえず、お客様を船内へ！」
　騒ぎ始めた客たちを誘導すべく、船員が声を上げます。
「どうにか……でも、どうすれば……」
　雅羅はデッキに佇んだまま、海賊船を見つめ、呟きました。
「何だ、あれは！？」
　別の客が、海賊船とは違う方向を指しました。
　そこには別の船影が見えます。
「こっちも海賊旗！？」
　揺れる旗を見て上げられた声に、雅羅も海賊旗を確認します。
　そこに掲げられているのは、
「“黒髭”！？」
　見覚えのあるドクロマークでした。

　こんにちは、朝緋あきらです。
　このシナリオは『美緒が空賊！？』の内容を継いでいるシナリオです。
　上記シナリオに参加していなくても楽しめる内容ですが、目を通していただくと面白さも倍増すると思います。

　皆さ〜ん、“黒髭”が帰って来ましたよ〜。
　前回のシナリオにてアクションに挙げられていた私掠船の提案が面白そうだったので、頂きました。
　今後“黒髭”は、美緒と入れ替わりつつ、パラミタ内海の治安を守るよう、駆り出されるようです。

　さて、今回の事件ですが、またまた雅羅さんの行く先で事件が起こりました。
　今度の遊覧船は、海賊に襲われてしまいました。
　そこに更に現れたのは、“黒髭”率いる海賊船。
　傍から見れば、海賊に挟み撃ち状態ですが、“黒髭”は仮にも私掠船です。
　もう一方の『ブラッドレイ海賊団』を退治するために、現れたのです。

　皆さんには、以下の立場から参加いただければ、と思います。

１：遊覧船の客として、現場に居合わせた。
　雅羅同様、襲われる遊覧船に乗り合わせていたことになります。
　即座に対応できますが、どちらが敵なのか分かりません。

２：“黒髭”と共に、ラズィーヤからの依頼を受けてきた。
　“黒髭”海賊団の一員としてでも、今回だけ依頼を受けたでも構いません。
　海賊とはいえ、私掠船だということを忘れず行動してください。
　遊覧船を襲うようなアクションをした場合、“黒髭”な美緒を心配して同行するラナに止められます。

３：その他。個人的に……など。
　現場に合流できるに値する理由を明記することが出来れば、上記以外の方法からでも合流することが出来ます。

　なお、『ブラッドレイ海賊団に所属していた』という立場からの参加はご遠慮ください。
　このシナリオで、接触を図るのは可としますが、すぐに所属できるかはアクション次第です。

　なお、雅羅はデッキに残って、乗り込んでくる海賊たちを迎撃し、“黒髭”美緒は船内から指示、ラナは傍に控えている予定です。

　皆さんの参加、お待ちしております。

・雅羅の助っ人をする

・ブラッドレイの海賊船へ乗り込む

・“黒髭”の護衛をする