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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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●第1章 襲撃

「綺麗ね……」
 デッキから見えるパラミタ内海の景色に、リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)はほう、と息を漏らした。
「確かに美しい光景だな」
 中原 鞆絵(なかはら・ともえ)に憑依した木曾 義仲(きそ・よしなか)も頷きながら応えた。
(……巴の誘いに乗ったのも、心のどこかで争いに明け暮れる毎日に疲れていたからかも知れん。わしも少し落ち着いて己の在り方を考えるのも……)
「何あれ?」
「海賊よっ!!」
「む、賊か!」
 景色を見ながら、納得するように頷いていた義仲は、聞こえた悲鳴と指差されたその先に反応を見せる。
(ようやく騒ぎのいくつかが収まって義仲様と色々見て回れると思ったのですが、なかなかうまくはいかないものですね)
 鞆絵は、折角ゆっくりと出来るのだろうと思っていたがために、騒ぎが起こってしまったこと、そして、義仲の心が既にその賊へと向けられていることを残念に思う。
「近付いて乗り込め!!」
 ブラッドレイ海賊団、3番隊隊長、アーダルベルト・グアハルドの号令の下、海賊船が次々と遊覧船に近付いてくる。
 遊覧船の方も近付かれまいと移動するけれど、小回りの聞く海賊船たちにあっという間に横付けされてしまった。
「入ってくるぞ!」
「お客様、早く中に……!」
 ボーディングの準備をしている海賊船の様子に、デッキに出ていた乗船客やスタッフたちが声を上げあう。
「乗客を落ち着かせないとね」
 デッキから船内へと通じる出入り口に群がる乗客たちの方へとリカインが向かう。
「皆さん、落ち着いて! 押し合わないで、ゆっくりと……!」
「わ、あれ、蒼空歌劇団のリカインさん?!」
「ほんとだぁ……」
 スタッフを助けるように声を上げると、彼女の声に気付いた一部の乗客が、リカインの姿を見て、悲鳴とは別の大きな声を上げた。
「リカインさんが言うとおりね、落ち着きましょ、皆」
「ええ」
 リカインの蒼空歌劇団の一員としての名声が役立ったようで、一部の乗客たちは出入り口に向かうのを譲り合うようになる。
「ゆくぞ巴!」
 騒ぎの間にも名乗り上げたブラッドレイ海賊団に向かって、義仲が駆け出す。
(義仲様、先に名乗りを挙げたほうと違ってもう一隻からはディテクトエビルの反応がありません。変化があればお伝えしますから、それまではあちらに集中していてください)
「ああ」
 義仲の内から声を掛けてくる鞆絵に、彼は頷く。
「気をつけてね、2人とも」
 リカインは、駆け出す鞆絵と義仲に声を掛けて、2人を送り出した。
「前線を乗り越えてわざわざ私の歌を聞きたいなんて熱心なファンには全身全霊を込めた私の歌、聞かせてあげるわよ」
 ボーディングしようとする海賊を睨みつけ、リカインは告げる。

「行くよ、ベアトリーチェ」
「用意は出来てますよ、美羽さん」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の声に、タカの名を持つ空飛ぶ箒、ファルケに跨りながら、ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が応える。
 後方に美羽を乗せ、ベアトリーチェは、遊覧船の甲板を飛び立った。

(やれやれ、せっかくののんびりとした休日ですが厄介事ですね)
 御凪 真人(みなぎ・まこと)は、一つため息を吐き出しながらもアウィケンナの宝笏を構えつつ、海賊船の見える位置へと移動していく。
(ま、なれてますからさっさと片付けましょう)
 休日だというのに、賊を迎撃できるほどの完全武装であるのは、パラミタで過ごすうち、『備えあれば憂いなし』や『こんなこともあろうかと』など、積んできた経験から来るものだろう。
 遊覧船と海賊船の間に板を渡し、乗り込んでこようとする海賊たちに向かって天から稲妻が落ちてくる。渡ろうとしていた海賊は、その一撃にバランスを崩して、間の海へと落ちていく。
「よくもっ!」
 仲間が落ちるのを見た海賊が、向こう側の甲板から銃口を向けてくる。
「遅いですよ」
 真人の一言と共に、彼が引鉄にかけた指に力を込めるより早く、彼とその周りの海賊たちを巻き込んで、向こうの甲板に、雷が降り注いだ。
「あっちに気を取られすぎだったな」
 近くで声がしたと、反応すると同時に、腹部を大きな痛みが襲い、その場から弾き飛ばされる。
 真人が向こうの甲板に注意している間に乗り込んだ他の海賊が、彼へと拳を入れたのだ。
「くっ……ウェンディゴ、頼みます」
 残る鈍痛に呻きを漏らしつつ、告げた真人の一言に、大きな雪男が召喚された。
「な、何だ……ぐふっ!?」
 海賊が驚き声を上げるのを待たず、雪男が殴りかかる。少しよろめきながらも倒れる前に踏み止まった海賊は、雪男に向かって、殴り返し始めた。

 手にした薙刀を義仲が憑依した鞆絵は続けざまに海賊の男に向かって繰り出す。
「くっ!」
 男が手にした短剣を手に、反撃を試みた。
「見えぬとでも思ったか」
 その一撃を軽々と薙刀で払い落とした義仲は念による力を男に向けた。
「ぐはっ!」
 薙刀による切り返しが来るかと構えていた男はあらぬ方向からの一撃に、吹き飛ぶ。
「そう易々と見切れると思うな!」

「あーもう……この前の空賊といい、今度の海賊といい」
 2人にとって船旅は鬼門なのではないか。セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はぼやく。
「何かしら縁はあるのかもしれないわね」
 苦笑を漏らしつつ、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が応えながら、2人は船内に逃げてくる乗客たちの流れに逆らうようにデッキへと向かった。
 走りながら、セレンフィリティとセレアナは古代女王の加護を受け、身に迫る危険を第六感的に感知しやすくし、更にセレンフィリティは精神力によるバリアを己の周りに展開して炎熱などによる抵抗力を得る。
 デッキに出ると、横付けした海賊船から乗ってくるブラッドレイ海賊団の海賊たちに、既にスタッフや学生らしい乗客たちが迎え撃っているのが見える。
「私たちに祝福を……」
 セレアナが、2人の攻撃力を高める。
 そうして準備を整えた2人は、乗り込んでくる海賊たちに向かって、駆け出した。
「……人様のデートを邪魔するなんて、あんたらって本当にいい根性しているわね」
 セレンフィリティは両の手にそれぞれ構えたマシンピストルの引鉄を引き、海賊たちが手元を撃ち抜き、武器を落とさせる。
「あら、今度はセレンがご機嫌斜めなのね?」
 以前邪魔されたときはセレアナが機嫌悪くなったものだが、此度はセレンフィリティの方が機嫌が悪いようだ。
 武器を落とした海賊に向かって、セレアナがトライデントを振るうより早く、セレンフィリティの構えるマシンピストルから次々と銃弾が放たれる。
「人の恋路を邪魔するからこうなるのよ」
 完全にのびた海賊に、吐き捨てるように彼女は告げた。
「別にこっちの事情なんて考えてないんじゃない」
 苦笑しつつセレアナが応える。
「てめぇらよくも仲間を!」
 気付けば後から乗り込んできた海賊たちが、のびた仲間を目にして、怒り、2人を囲んでいた。
「本当に、船旅って退屈だけはしないわね」
 皮肉も込めてそう告げながら、セレンフィリティはマシンピストルを構える。
「……じゃ、今夜はいつもよりもっと愛し合いましょう」
「悪くないわね」
 セレアナの返事に微笑んで、彼女は海賊に向かって、引鉄を引いた。