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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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ブラッドレイ海賊団1~パラミタ内海を荒らす者たち~

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●第2章 “黒髭”海賊団

 ラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)の用意した船に、“黒髭”の旗が掲げられる。
 船長は、泉 美緒(いずみ・みお)に憑依した“黒髭”で、彼女のパートナーであるラナ・リゼット(らな・りぜっと)を初めとした各学校の学生たちが私掠船となった“黒髭”海賊団の下に集まっていた。
 最初にラズィーヤから話されたのは、最近、新たにパラミタ内海を荒らし始めたというブラッドレイ海賊団の悪事を突き止めることだ。
 少しでも情報を掴もうと、“黒髭”海賊団はパラミタ内海を航行する。

「俺様を差し置いて“黒髭”の名を一団につけるたぁ、相変わらず良い度胸してやがるじゃねぇか」
 依頼を受けて集まった学生たちが、次々とブラッドレイ海賊団の船へと乗り込んでいく。
 その様子を船内から様子を見ていた“黒髭”に黒髭 危機一髪(くろひげ・ききいっぱつ)が声を掛けた。
 かつて空賊をしていた危機一髪は、もう既に足を洗っているため、間違われることはないだろう。
「だが、同じ黒髭を名乗るてぇなら、それなりの事やってもらわねぇとな?」
「あん?」
 危機一髪の言葉に、“黒髭”は怪訝そうに首を傾げた。
「お前のやり方を見せてもらおう。そのネーチャンは勿論だが、カタギと俺様にも迷惑かけるんじゃねぇぞ?」
 『そのネーチャン』と言いながら危機一髪が指すのは“黒髭”が憑依している身体の主でもある美緒のことだ。
「この身体を使うのに、迷惑かどうかを決めるのは、この小娘だろう? まあ、同じ“黒髭”だったってなら、お前の“黒髭”と混同されねえよう、やってやろうじゃねえの」
 “黒髭”がくつくつと笑いながら答えると、納得したのか危機一髪も笑い返した。

「責任……というのも変な話ですけど。こちらとしても美緒ごと戻られると面倒なので」
 タシガン空峡から“黒髭”を叩き出した身として、再び戻ってこられても、いろいろと面倒なことになるため、彼がパラミタ内海で海賊団の船長として活動することをきちんと見分けるため、護衛へと志願したリネン・エルフト(りねん・えるふと)は、“黒髭”に向かう。
「一応、護衛につきます。美緒ごと殺す、という人も出てくるでしょうし」
 そう告げて、“黒髭”が行動に出るまで、パートナーのヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)と共に、傍に控える。
「身体は美緒さんで手伝ってもらってる立場なんだから無茶させるなよ」
 如月 正悟(きさらぎ・しょうご)も美緒の身体のことを気遣い、“黒髭”へと声を掛けた。
 彼の周りで、彼女のことを見守り、フォローする学生たちは多いようなので、正悟は目立たず、けれど、いざというときに助けに入れるよう、待機しておく。

(エリュシオンとも和解して、今が一番大事な時期だって言うのに私掠船だなんて、一体何を考えてるのかしら)
 ラズィーヤの考えに崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は首を傾げながらも、“黒髭”の監視のため、船に乗っていた。
「周辺民族との外交関係に傷が付いたりしたらどうなるか……くれぐれも余計な摩擦は起こさないようにね」
 監視役らしく、“黒髭”に忠告する。
 けれども、監視というのは表向き。亜璃珠の狙いは、彼を弄ることであった。
「ところで!」
 力強く声にしてから、口元に笑みを浮かべて“黒髭”へと近付く。
「……“黒髭”さんの『感度』はどんな感じなのかしら?」
 亜璃珠の両手は、豊かな2つの膨らみへと触れ、少し力を入れて揉んでみる。
「ッ!?」
 驚き、“黒髭”は彼女の手を振り払って、後ずさった。
「性別変わっちゃったら付いてるものも付いてないし、何かと不便じゃない?」
「んなもん、知るかっ!」
 笑みながら訊ねる亜璃珠に“黒髭”は吠えるように返した。

 紆余曲折あって、お尋ね者のような立場にあるため素顔を晒すことが出来ないグンツ・カルバニリアン(ぐんつ・かるばにりあん)はパワードマスクで顔を隠して、乗り込んでいた。
 私掠船という公的に認められた立場とは言え、所詮は海賊団だ。
 グンツのようなお尋ね者のような存在でも受け入れて貰えるのではないか、“黒髭”海賊団の一員として居場所が出来るかもしれない、と思い、この場に居る。
「話を聞いてもらえないか?」
「ああ、何だ?」
 訊ねかけるグンツの姿を見ても気にした様子も見せず、“黒髭”は問い返す。
「今のように表に出ていないときは美緒の深いところに居ると噂に聞いた。それは、美緒の強い意志によって抑えられ、意思のせめぎ合いに敗れれば消滅してしまう恐れもあるのではないか?」
「どうだか、な。深いところに居たのは、小娘に取り憑いてすぐの頃だ。今はこうして出てくることが出来るようになった。だから、すぐにすぐ、消えてしまうことないとは思うがな」
 応える“黒髭”に、グンツは言葉を続ける。
「ペンダントや装飾品を依り代にするのではなく、美緒の長い髪を依り代にしてはどうだろうか? 髪はよく女の命と言うからな。灯台下暗しで肉体の一部になってしまえばより強く黒髭本来の力も出せると……」
「んー? 今のところは物に取り憑くつもりはないな。既に小娘の肉体そのものには取り憑いている。だから、髪だけなど特定の部位に移る必要はないだろう」
 提案をするグンツに、“黒髭”は手足を軽く動かして見せて、応える。
「そうなのか。それなら、消える心配はなさそうか」
 この海賊団を己の居場所に、そう願うグンツは“黒髭”の答えに安心し、頷いた。

 航行する先に、遊覧船を襲う海賊船の姿を捉え、その船に掲げられたドクロマークがブラッドレイ海賊団の一味であることを知り、
「早速見つけたぞ、ブラッドレイ海賊団ッ! 行け、野郎ども!!」
 “黒髭”は、海賊船へと近付き、退治することを告げた。

***

「私掠船って要は合法的に相手の物をもらってていいってことだよね。色々といただいちゃうからね」
 船がブラッドレイ海賊団の船と接舷すると、冬蔦 千百合(ふゆつた・ちゆり)は弾んだ声でそう告げながら、乗り込んでいく。
「合法的にって……私掠船って……そういうの、だっけ……? あれぇ……?」
 パートナーの後を追い、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)も首を傾げつつ、乗り込んだ。
 早速日奈々は全身が火に包まれた鳥――フェニックスと、電気を帯びた巨大な鳥――サンダーバードを召喚しておく。
 接舷してきた黒髭の海賊船に警戒して、ブラッドレイの海賊たちも遊覧船側だけに船員を割いているわけには行かず、十数人ほど駆けて来る。
「何だ、お前ら!」
「黒髭海賊団よ」
「ここ……パラミタ内海で許可なく、海賊行為を犯す……あなたたちを退治しに、来たんですぅ」
 千百合と日奈々が応えると、海賊たちは「何だと!?」とそれぞれの武器を構えた。
「襲うというなら、容赦しなくていいのよね?」
 確認するように告げる千百合の背に、光の翼が広げられた。そして、グローブをはめた両手で海賊たち目掛けて宙を殴るように拳を突き出すと、翼から光の刃が次々と飛ばされていく。
「2匹とも……お願いしますねぇ」
 告げる日奈々の後方に控えていたフェニックスが翼をはためかせると、炎熱が海賊たちを襲った。続いて、サンダーバードがその身に帯びた電気を放ち、海賊たちは感電していく。
 日奈々自身も女神イナンナの戦の力を借りて、その威光を光の刃に変えて放つ。光の刃に貫かれた海賊たちは、畏怖を覚え、船内へと逃げていく。
「さぁて、お宝はどこにあるのかな〜?」
 海賊たちの居なくなった通路を再び弾んだ声を響かせて千百合は歩き出した。
「ほんとにいいのかなぁ……こんなことして……」
 日奈々はまた首を傾げながら、彼女の後に続く。

「海賊って困るし、誰かが退治しなきゃだけど、悪いことした人だからって、何をしても良いって訳じゃないと思う。特に今回は、ヴァイシャリーの名前を使ってるんだし、印象が悪くなるようなことはしないようにしなきゃ! だから、可能な限り人は殺さないでね!」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が黒髭に向かって、懸命に告げる。
「分かってるさ。あの嬢ちゃんは只者じゃねえ。折角、この小娘の身体を使って、暴れられる機会をくれたんだ。それなりの仕事はしてやろうじゃねえか」
 黒髭は頷いて、歩に応える。
「絶対だからね! 私は遊覧船の人に話をしてくるよ!」
 念を押してから、歩は船長室を出た。遊覧船に向かうと、黒髭側も警戒している様子の船員や乗客に向かって手を振る。
「遊覧船の皆さん、あたしたちは味方です! こっちに逃げてください!」
 声を掛ける歩に最初のうちは不審そうな顔を向ける船員や乗客であったが、黒髭の船から出てくる学生たちが向かうのは、もう一方の海賊――ブラッドレイの船ばかりだと気付くと、少しだけ警戒を残しながらも、手を振り替えしてくる。
「乗客全員をそちらに移動させるのは、途中で襲われては危険だ! 出来れば、あっちの海賊船に乗り込んで退治してくれるか、こっちの船に乗り込んでくるのを妨害して欲しい!」
 船員の奥から出てきた船長らしき人物が声を張り上げた。
「分かりました!」
 歩は頷き応えて、空飛ぶ魔法↑↑を己へとかけると、飛行して、それぞれの船が接舷し合っているデッキへと向かった。

(ったく。ラズィーヤの奴……まぁ、今回の場合は依頼が無くても行ったけどな。見境無い海賊なんざ放って置けるかよ)
 黒髭の船に乗り、現場まで来る途中、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はぶつぶつとラズィーヤに対する不満を並べていた。
 それでも遊覧船とブラッドレイ海賊団の船が見えてくると、甲板に出て、その様子を窺う。
 遊覧船との間に渡された板から、海賊たちが乗り込んでいく中、甲板では乗り合わせていた学生たちが応戦しているようだ。
 その中には、雅羅の姿もある。
「んじゃお仕事始めますかね、プラチナム」
「はい」
 短い返事をし、唯斗のパートナーであるプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)は姿を変える。
 白金の闘衣となったプラチナムが唯斗の全身へと纏われた。
 黒髭の船は、ブラッドレイの船を遊覧船と挟む形で接舷するけれど、唯斗は船の壁を走ることでそれを越えて、遊覧船へと向かう。
 甲板に雅羅の姿を見つけ、彼女の横から海賊が襲い掛かろうとするのも確認すると、その間へと割り込んだ。
「待てぃっ!」
 光条兵器であるガントレットをはめた両手を交差し、長剣による一撃を弾く。キンッと金属同士のぶつかる音が響いた。
 その音で、雅羅は襲われかけていたことに気付いたようだ。
「助太刀しますよ、雅羅」
「助かるわ」
 視線だけ振り返って告げる唯斗に、安堵の息を漏らし、雅羅は手の内の得物を構え直した。

***

「やってられっか、い〜ちぬけたっと」
 もと黒髭空賊団としてラズィーヤからの依頼を受けてきたゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)は、黒髭が美緒であること、空賊でなく海賊になっていること、そして何よりラズィーヤの駒として動いていることに失望し、現場に近付いてくると、堕天馬に乗り、黒髭の船から抜け出した。