イルミンスール魔法学校

――夜の空京の街。
「食べた食べた〜美味しかったね〜」
　色鮮やかに輝くイルミネーションの道を、満足そうにお腹をさすりながら金元　ななな（かねもと・ななな）が歩いていた。
「確かに美味しかったけど……やっぱり浮いてたわよね、私達……」
　その隣を歩いていた雅羅・サンダース三世（まさら・さんだーすざさーど）が疲れたような顔で呟く。
「あはは、見事にカップルしかいなかったねー」
　先程食事をしてきた店を思い出し、苦笑するななな。

――今日は世間一般で言われるバレンタインデーと呼ばれる日。空京もバレンタイン一色だ。
　先程食事をしてきた店も『カップル様優遇』というイベントを行っており、その店に一度行ってみたかったなななが、暇を持て余していた雅羅を誘ったのである。『二人ならカップルって言い張れる！』という理屈で。

「ところで、チョコあげたい人とかいないの？　そういう人誘えば良かったのに」
「そんな人居たら誘ってないよ……そういうそっちはどうなのさ？」
「居たら誘いに乗ってないわよ……」
　ずーん、と二人の表情は暗くなる。
　ふと気づくと、周囲はカップルだらけ。至る所でチョコを渡す光景が見られ、甘い香りが漂ってくるように感じる。
「そ、そう言えば、あの塔って何かしら？　あんなの無かったわよね？」
　雰囲気に気まずさを感じ、話題を逸らそうと雅羅が指さす先には先端に大きな鐘が吊るされた塔が建っていた。装飾が施されているが、電飾は点灯していない。
「あー、あれ今日の為に建てたんだって。バレンタインデーの終わりを締めくくるのに日付が変わったらあの鐘を鳴らして、イルミネーションが光るらしいよ。すっごい綺麗らしいけど、見ていく？」
「やめとく……カップルだらけの中に入る勇気無いわ……」
「だよねー……お腹も膨れたし、そろそろ――」
　帰ろうか、となななが言いかけた時だった。
「……聞こえた？」
　なななが言うと、雅羅が頷く。
「ええ、悲鳴のような声だったわよね……あっちの方かしら？」
　雅羅が見た先にあるのは、表通りから外れた通りへの道。
「行ってみよう。何かあったのかもしれない」
　二人は、裏通りの道へと駆け付ける。
「う……うぅ……」
　そこに居たのは、呻き声をあげ倒れているカップル。
――そして、傍らにトレンチコートを着て中折れ帽を被る者が立っている。駆け付けたななな達に気付いたのか、ゆっくりと二人の方を向く。

――その者の頭部は白地の全頭マスクで覆われ、顔の中心部には大きなハートマークが描かれていた。

「何者！？」
　雅羅がバントラインスペシャルを構え、銃口を向ける。
「名乗るほどの者じゃありません。ただの『伝道師』です」
　低い男の声が、二人の耳に響く。
「伝道師？」
　身構えつつ、なななが『伝道師』に問いかける。
「ええ、私は『愛の伝道師』。この街の人々に愛とは何たるかを教えにやってきました」
「……その人たちに何をしたの？」
　銃口を逸らさず、雅羅が問う。
「愛について、何も理解していない為愛の更生を行っていました……愛を伝えるこの素晴らしい日に、ただチョコを贈っただけで愛を語ったつもりとは嘆かわしい」
「……いや、今日ってそういう日じゃないのかな？」
「何を言うのですか！　チョコを贈るだけで愛が伝わるというのですか！？　愛というのはそんな簡単な物ではなくもっと複雑な物なのです！」
「……そういう風習だと思うんだけど」
「何を言っても無駄よ。こういうのは」
　雅羅となななが身構える。
「ところで、貴女方は？」
「私達？　私達は正義の味方だよ！」
　なななが『伝道師』に向かって、【サイコキネシス】でコインを飛ばす。
「ふんッ！」
　だが、そのコインを『伝道師』は拳で叩き落とした。
「嘘！？」
「どいて！」
　雅羅がバントラインスペシャルの引き金を引くと、『伝道師』の体に弾丸が当たる。だが、
「そんな物、私には通用しませんよ」
「そ、そんな……何故！？」
全く効いていない様子に、雅羅が愕然となる。
「愛の力です。正義如き感情で私を倒す事などできません……貴女方にも、愛の更生が必要なようですね」
　そして、『伝道師』が取り出したのは――
「あ、ＲＰＧ！？」
「何処からそんな物出したのよ！？」
「愛は不可能をも可能にします」
「「そんな説明で納得できるかー！」」
　突っ込まれても『伝道師』はお構いなしでＲＰＧの引き金を引く。
「「うきゃー！」」
　砲弾が着弾し、大きな爆発がなななと雅羅を包んだ。
「私はこの街の方々に愛を伝える役割があります。邪魔はさせません」
　その言葉を最後に、二人の意識は闇へと落ちる。

「……何してるの？」
　気絶した二人を、買い物帰りのアゾート・ワルプルギス（あぞーと・わるぷるぎす）が見つけたのはそれから暫くしてからである。

「――そんな事があったんだ」
　ななな達に手当をし、事情を聞いたアゾートがふむ、と頷く。
「ななな達の攻撃も全く通用しなかった……あの人一体なんなんだろう？」
「多分、その道を極めて人間辞めてるレベルなんだと思う。そういう存在ってある特定条件下、今日みたいな特別な日は物凄い力を発揮するんだ……実際凄い力を感じたよ」
「ちょっと待って。あいつと会ったの？」
「うん、買い物の帰りに」
　雅羅の言葉にアゾートが頷く。
「……なんで無事なの？」
「『貴女は愛する大事な物はありますか？』って聞かれたから、錬金術に関して話したら『その気持ちを忘れてはなりませんよ』って」
　アゾートが言った瞬間――街から爆発音が響いた。
「……どうやらその『更生』とやらを始めてるようだね」
　アゾートが立ち上る黒煙を見て呟く。
「こうしちゃいられない！　あいつを止めなきゃ！」
「ええ……やられっぱなしってのも癪に障るしね」
「……あの、ボク、読みたい本があるからこの辺で」
　二人を尻目に、帰ろうとするアゾート。
「何言ってるのよ！　あいつに愛とやらをこめた弾丸をぶち込んでやるんだから手伝いなさい！」
「宇宙刑事の愛の力、見せつけてやるよ！」
が、二人にがっしりと掴まれてしまった。
「いやボクもう関係無いよね……？」
　アゾートの呟きは怒りに燃える二人の耳には届かず、そのまま引きずられるように街へと連れて行かれるのであった。

　初めましての方は初めまして。そうでない方はまたお遭いしましたね。高久高久でございます。
　今回のシナリオのテーマは『愛』です。愛は愛でも『殺し愛』ですけどね！

　というわけで、今回はバレンタインの空京に『愛の伝道師』を名乗るチートレベルの猛者が愛の更生と称した粛清の嵐を巻き起こす内容です。相変わらずリア充御用達イベントは今年も地獄です。
　空京の街に偶々訪れていた皆様は、この『愛の伝道師』による騒動に巻き込まれる形になります。それはカップルだろうが独り身だろうが差別はありません。愛に差別は無いのです。

■自身の愛について語る
　『愛の伝道師』は愛を知る者には更生（粛清）を行いません。というわけで自分なりの愛についてを『伝道師』に理解してもらう必要があります。
　愛、と一言で括りましたが、人を愛する事も愛ですし、物を愛するという愛もあります。それは自由です。
　この伝道師を納得させる事が出来れば粛清も収まるかもしれません。
　ただしただ『好き』や『愛している』や『最高』という一言だけでは納得しないでしょう。
　バカップルっぷりを見せつけるもよし、如何に大切かを語るもよし。頑張って納得させてください。
　尚失敗した場合は愛の更生（粛清）が待っております。

■リア充を襲う
　この混乱に乗じてリア充を爆発させることになります。恨み辛み妬み嫉み僻みを思いっきりぶつけてやってください。
　ただし『愛の伝道師』はあくまでも『愛についての更正』を行っているだけです。ただの破壊活動を発見した場合、あなたも更生（粛清）対象に入れる事でしょう。　

■『愛の伝道師』を倒す
　テロリストと変わらないこの伝道師を倒すアクションとなります。
　ただしこいつは戦闘能力に関しては『愛の力』とやらで格段に跳ね上がっています。大抵の無茶は『愛の力』でどうとでもしてきます。
　遠距離からは銃火器を、中距離からはバールのような物などの武器を、近距離では格闘術以外に４８の殺人技と５２の関節技みたいなものを用いてきます。勿論ＲＰＧも装備しています。愛の力で弾数は無限です。
　正面から挑んでもまず勝てません。裏をかく策が必要です。

■ＮＰＣについて
　今回登場するＮＰＣは以下の三名です。
・金本ななな
・雅羅・サンダース三世
・アゾート・ワルプルギス
　この三名は『伝道師』を倒す為行動していると思われます（アゾートは無理矢理巻き込まれていますが）。
　この三名以外のＮＰＣは呼べません。名前を出す程度ならＯＫですが、リアクションにそのＮＰＣは登場はしないのでご注意ください。

　今回のシナリオの裏キャッチコピーは『君を殺しにかかるＲＰＧ（二つの意味で）』です。
　そんなわけで普段の私のシナリオよりちょいと難易度が高くなっております。ご注意ください。
　それでは更生（粛清）を恐れない勇気ある皆様の爆発……じゃなくてご参加をお待ちしております。

・『伝道師』の質問に答える

・リア充爆発しろ

・『伝道師』を倒す