〜あらすじ〜
ツァンダ東部の森には魔女と機晶姫が住んでいました。
彼女たちの名前はルーノとクウ。
二人はある日を境に喧嘩をしていたのですが、蒼空学園分校の教員である久瀬 稲荷(くぜ いなり)の募った協力者の手助けもあって仲直りできたのです。
これですべて元通り。平穏な生活が戻ってくるかと思いきや、彼女たちに忍び寄る影がありました。
それはどこからかやってきた野盗たちでした。人里から離れて森に住む二人は野盗たちにとっては襲いやすい獲物だったのです。
襲われたルーノとクウは逃げ出しましたが二人は離れ離れになってしまいました。
野盗たちから運よく逃げ延びたルーノは久瀬たちに助けを求めたのです。
久瀬とルーノは協力者を募りクウを助けるために森へと向かいました。
そしてクウを助け、野盗たちを捕まえることに成功したのです。
それからしばらくして、街が祭りの準備で賑わうころに問題が起きました。
件の野盗たちが脱走したのです。
野盗の脱走に合わせて街道の警備が強化されましたが森から怪物が現れるなどのアクシデントもあり、野盗の半数以上を取り逃がす結果となりました。
しかし再捕縛した野盗から脱走の手引きをしたのがライアー・フィギアなる人物の仕業であることが分かったのです。
そしてクウは残された手紙から久瀬がライアーを追って分校から姿を消したのを知るのですが……。
〜序幕〜
町から少し離れた場所に一軒家が建っています。
家の中。一室に幾人かの男たちが身を寄せ合い話し合っていました。
「もうこんなことやってられねえよ!」
「大きな声を出すな。アイツに気付かれたらどうするんだ」
話しているのはツァンダ南部の街から脱走してきた野盗たちでした。
どうやらこの家は彼らの隠れ家のようです。
「自業自得だってのは分かってるよ。でもだからってこんな……」
「そうさ。殺す気なんてなかった。ただ食いもんが欲しかっただけなのによお」
「病気持ちだったなんてな」
彼らは思い返すように天井を見上げました。
数か月前に彼らはライアーとそのパートナーを襲ったのです。
ですがその結果、彼女のパートナーは亡くなり、ライアーは狂ってしまいました。
「死んだ奴を生き返らせるなんて普通に考えれば出来ねえってわかるだろうに……」
「頭がイカレてんだ。無理でも従わなきゃ俺たちが殺されちまう」
「……しっ! 静かにしろ。奴が戻ってきた」
足音が部屋の外から近づいてくるのが聞こえます。
扉の外から声が聞こえました。
「あの人の身体にコアを埋め込まなくても首を付け替えれば大丈夫かしら?」
ぞっとするほど冷たい声でした。
野盗たちは自分の首がちぎられる姿を思い浮かべて絶句します。
「遺伝子的に相性があるでしょうから無理よね。あなた達が上手くやっていれば今頃コアを手に入れられたのに……」
「で、でもよお。俺たちが見つけなきゃ野良の機晶姫があんなところにいるなんてわからなかったんだぜ」
「ええ、感謝してるわよ。だから助けに行ってあげたのでしょう」
ギギギ、という軋む音が聞こえてきました。
歯車が悲鳴をあげているような音でした。
「あら……私、少し出かけてくるわ。あなたたちも早く彼女を連れてきてくださいませね」
ライアーが家から出て行ったのを確認した野盗たちは叫びました。
「もう限界だ! 俺たちが悪いってのは分かってるがこんなのは耐えられねえ!!」
「そうさ。もう野盗なんてやりたくない。足を洗って真面目に仕事したい」
「けどよお……俺たちに何ができるんだ? 荒事くらいしかしたことねえんだぜ」
「とりあえずここから逃げよう。あとは町の掲示板で働き口でも探せばいい。最悪俺たちのことを知ってる人に助けを求めよう」
野盗たちはライアーから逃げることを決めると二度とこの家に近寄らないことを心に誓うのでした。
野盗たちが家から逃げ出した頃、ライアー・フィギアは森に続く街道を歩いていました。
指先で小さな機械らしきものをいじりながら彼女は先日出会った久瀬のことを思い返します。
「こんなものを付けるなんて……私の邪魔をするつもりかしら。ひどいですわ。私はただあの人を助けたいだけなのに……」
でも、と彼女は続けます。
「何も試す前から諦めてはいけませんわよね。せっかく来てくれるのですし、もしかしたら上手くいくかも……ふふ」
街灯の下、ライアーは想い人のことを考えながら久瀬のことを待ちました。
通りすがる町の人と他愛無い挨拶などを交わしながら、彼女は楽しかった日々を思い返すのでした。
「ど、どうしようか!?」
「落ち着いて。ダレカに助けをモトめるのが上策」
機晶姫クウから久瀬 稲荷(くぜ いなり)の話を聞いた魔女ルーノは落ち着きなく手足をバタバタと振りました。
その容姿のせいか行動から発言まで子供っぽさが滲み出ています。
「るーは残ってて。私がクゼを探しにイクから」
「くーちゃんが行くなら私も行く!」
支度を始めるルーノの後ろ姿を見つめながらクウは思います。
(……あのヒトは危ない気がする。ルーちゃんをツレて行くワケにはいかない)
クウはルーノに忍び寄ると首筋に手を当てました。
指先から火花が散った様に見えると同時にルーノがその場に倒れます。
「ゴメンネ。でもアンシンして。あの人は私とオナジだと思うから……」
倒れ伏したルーノを寝室に運ぶと家を後にしました。
クウが出て行ってからしばらくして目を覚ましたルーノはあわてます。
「あーっ!?」
クウがいないことに気付いたルーノは分校のある街に向かって駆け出しました。
「だ、誰か呼ばなきゃ!」