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■終幕:騒動の終わり
シャンバラ大荒野へと続く街道は多くの人で賑わっていた。
野次馬なのだろう。焼け焦げた木々の匂いに誘われるように集まっている。
何かしら事件があった様子だが、それを気に留めずに人気を避けて森へ向かう人物の姿があった。
久瀬 稲荷(くぜ いなり)だ。彼は事件の後始末をしている知り合いを遠目に歩き続ける。そんな彼に近づく人物がいた。
「いいのかな。アレを放っておいて」
「じゃな。一応責任者の立場じゃなかったかのう?」
久瀬が振り向くとそこには笠置 生駒(かさぎ・いこま)とジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)の姿があった。
「お二人はたしか北の街道を警備中だったはずでは……」
久瀬は警備資料を思い返しながら言った。
たしかに二人はツァンダ方面へ続く街道の警備をしていた。
だが彼女たちは二つの街道を行き来していたらしい。おそらく北の街道の安全が確認できたからだろう。
能天気に見えてしっかりとしているあたりは流石と言うべきだろうか。
「そういえば盗賊はまだ全部捕まってないんだよねー」
「すでに逃げた方もいるでしょうね……」
「んー?」
笠置は久瀬の顔を窺がう。
「なんですか?」
「悩み事でもあるのかなと」
「考え事はしてましたけどね」
「ふむ……」
ジョージは久瀬の回答に相槌を打つ。
「考えても仕方ないことが世の中にはあるものじゃ」
「そうかもしれませんね。というかお二人はどこまでついてくるつもりで?」
笠置は面白そうに久瀬を見ると告げた。
「何しようとしてるかは知らないけど抜け駆けはずるいでしょ」
「わしらもついて行くぞ。まあわしらだけじゃないようじゃがな」
ジョージが森の入り口で待ち構えていた玖純 飛都(くすみ・ひさと)を見やった。ジョージの視線に気づいて久瀬も彼を見る。
「化物退治は一苦労だったぞ」
開口一番に玖純は数刻前に起きた事件の感想を述べた。
関知していなかった久瀬と笠置たちには何の事だかわからない様子である。
「よくわからないけどご苦労様」
「おう。それで化物が森の奥へと逃げて行ったから調査しに来たんだけどな」
ギロリと鋭い視線を久瀬に向ける。
「誰かさんが会うたびにはぐらかすような物言いばかりで気がかりだったんだが、オレの勘は冴えてるようだ」
「じゃな」
ジョージが久瀬の頭をぽんぽんと軽く叩く。
体格の良いジョージと細身の久瀬では親子のように見えなくもない様子だ。
「まるで私が問題児のような言い方ですね」
「問題児だろ。一人でどこに向かおうとしてるかは知らないが、野盗が脱走してるっていうのに単独行動は明らかに問題だ」
「……否定はしませんよ」
久瀬は頭を掻くと言う。
「ああ、今なら皆さんも仕事に忙しくて私に気付かないと思ったんですけどね。これは予想外でした。街道の、しかも森の近くで事件が起きるなんて予想していなかったですよ」
「詰めが甘いね」
笠置の言葉にジョージが頷く。
「何に気付いて一人でここまで来たのかは知らないが、こうなったら詳しく訊かせてもらうぞ」
「ええ、私の知っていることならお話しますよ。後ろの彼らにもね」
久瀬たちが歩いてきた道を駆けてくる姿がある。
それはアルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)とシルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)の二人だ。
「後始末が面倒で逃げてきたのかな?」
「彼らに限ってそれは……ない、と思いますよ」
久瀬が走ってくるアルクラントの後方、いつ終わるかもわからない喧騒に耳を傾けながら言う。
「――救われますよね。仲間という存在は」
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