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リアクション
■第二幕:さようなら野盗の私。こんにちは新しい私
「おい。そこのお前、ちょっと顔かしてもらおうか」
御宮 裕樹(おみや・ゆうき)は指名手配のビラを手にして男に話しかけた。
ビラの写真と男を見比べると瓜二つである。他人の空似と言われても信じられないほどだ。当然ながら本人である。
「うわあっ!」
逃げようとする男の首根っこを掴まえる。
首が良い感じに締まり男は潰されたカエルのように――
「ぐぇ」
と声をもらした。
「指名手配されんのにこんなところで何やってんだお前?」
御宮の視線が男の手元にいく。そこには求人案内のチラシがあった。
おいおい、と彼は天を仰ぐように首をかしげる。
「……野盗から足抜けしてカタギになりたいっていうのかよ」
「わ、わるいかよ」
男は咽ながらも続けた。
「真面目に生きたいってのは悪いことなのかよ!」
「悪くはねえよ。だからこそ、自分のやった事の責は持たにゃならん」
「けどよ。怖いんだよ。何言われるかもやられるかもわからねえし」
「自業自得だろ。やったことはやってないことにはできねえんだよ」
男が御宮から逃げるように後退りを始める。
やれやれというように御宮が首を振った。そして男を引き寄せようと腕に力を込めるが、そこに割り込んできた男がいた。
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だ。
「君の言うことは正しい。尤もだ。だがこのまま出頭させるだけというのも考えものだとは思わないか?」
「いきなり横から出てきて言ってくれるじゃないか。けどあんたの言うことも正しいと思うぜ。そういうのは嫌いじゃない」
御宮は笑みを浮かべるとアルツールに握手を求めた。
アルツールも笑みでそれに応える。
「で、良い案でもあるのかよ?」
「犯罪者っていうのは言ってしまえば犯罪のプロフェッショナルだ。犯罪を行う際に見る点などの理解は深いだろう。それを逆に防犯に利用するっていう手もある」
アルツールは元野盗の男に向き合うと聞いた。
「思い当たる所があるんじゃないかね。どんな家が忍び込みやすいのか、あるいはどんな旅人や隊商が襲いやすいのか。逆にどんな家なら盗みに入りにくいのか、どのような状況や人数・地形なら襲うのが難しいのか。さらにはどれだけの条件が揃えば盗みに入る・襲うに至る決断までいくのか。地球では十分に『商売』になるネタだよ。なによりだ、今の所この手の同業者はこの国には一人もないと思うんだがね」
仕事になるし償いにもなるのでは、と彼は言っているのだ。
なるほど、と御宮は頷く。
「けどよ。成すべきことは成さないと信頼は得られないぜ」
「もちろん筋は通してもらうさ。俺が後見人になってやるから役人なりに会いに行こう。服役という形で今話したようなことに務められるよう話はしてみる」
「あんたが行くなら俺も行くよ。乗りかかった船だ」
二人は元野盗の男を置いて先を歩いていく。
振り返り、立ち尽くしたままの男に告げた。
「なにやってるんだ。置いていくぞ」
男は顔を俯かせ嗚咽の混じった声で言った。
「……すまねえ。本当に……ありがとう」
「男は泣くもんじゃない」
「まったくだ」
三人は連れだって歩き出した。
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