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リアクション
■第一幕:警鐘
「あのヒト……ヒトじゃなくて私とオナジ感じがした」
蒼空学園分校、久瀬の部屋に置かれていた手紙を読んだクウは部屋を出る。
焦っていたのだろう。扉の外にいた人の気配に気づかず、立っていた人物に顔からぶつかってしまった。
「おっと――おぬしクゥか?」
「……ヤトガミ?」
クウの目前、ノックをするポーズのまま立っていたのは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)だった。彼の後ろには夜刀神のパートナーたち、草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)・ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)・ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)ら三人の姿もある。
「あ、クゥさんお久しぶりです〜……って、なにかありましたか?」
ホリイがクウの落ち着きのない様子を感じ取ってか訊ねた。
「クゼがいなくなった」
「久瀬がですか」
ブリジットが夜刀神に視線を投げかける。
それは野盗捕縛の報告をしにやってきた夜刀神に次なる指示を促せるものだ。
夜刀神は頷くとクウに聞いた。
「どこに向かったのか見当はついているのか?」
「テガミがあった。ライアー追いかけるって」
誰だ、と訝しむ夜刀神たちにクウが部屋の中に置いてあった書類を見せる。
そこにはライアーという申請者の名前と現住所らしきアドレスが記載されていた。顔写真がないのでどんな人物なのかは想像がつかない。
「このヒト。ヒトの振りしてたけど――たぶん私とオナジ」
「機晶姫か」
夜刀神に草薙が続く。
「ライアーがどこの何者かは知らぬが件の野盗が話していた怖い奴とはこの者のことであろう? ならばすることは決まっているのじゃ」
野盗から聞いた話と書類の内容から、彼らにとってライアーという未知の存在は怪しむに足る存在であった。
自分の考えを告げると草薙は夜刀神に顔を向けた。ブリジットとホリイ、そしてクウも夜刀神を見やる。
皆の注目を集めるなか深呼吸をすると彼はいった口を開く。
「この書類によるとライアーが住んでるのは東の森を抜けた先の町らしいな」
「行くっ!」
先立って行動しようとするクウをブリジットが制止した。
「クゥさんはとにもかくにも単独行動は控えて下さい。あなただけでは有事の戦力として不十分かと。二人以上での行動をお勧めしますよ」
ブリジットの尤もな意見にクウは面持ちを厳しくする。
「街の外で一騒ぎ起きたらしい話もあるし、何より他の野党が森またはその先に逃れた可能性もあるのじゃ。妾達も付いて行こう」
草薙がクウの肩を叩く。頼れ、と言いたいのかもしれない。
クウが皆を見回し最後に夜刀神に視線を向けた。
「護衛が必要だろう。それに宿直の時の失敗があるからな。仲間は多い方が良い、そうだろう?」
幽霊騒ぎのことを思い出し、クウは笑みを浮かべたあとで口元を引き締める。
「ミンナで行く。でもその前に――」
クウは考えるような仕草をした後で言った。
「ルーノに話しておく」
■
ツァンダ東部の森。その奥深くに住む魔女が叫んだ。
「くーちゃんが行くなら私も行く!」
ルーノの発言にクウが実力行使という形で返答する。
バチッという小さな火花が飛び散るのと同時にルーノがその場に倒れ伏した。
「ゴメンネ。でもアンシンして。あの人は私とオナジだと思うから……」
クウは言うとルーノを寝室に運ぶ。これでルーノが危険な目に遭うことはないだろう。クウが家を出ると夜刀神たちが待っていた。
「良かったのか?」
「ウン。危ないかもシレナイから」
「でも……」
ホリイが家の中にいるであろうルーノを気にかけながら何かを言おうとするが、続く言葉はない。
「ダイジョウブ。ルーノはああ見えても夜刀神よりもおネエさんだから」
「魔女だからな。性格とかどう考えても子供だが」
「でもそこがルーノの良いところ」
クウは言うと夜刀神たちとともに森を抜けるべく歩き出した。
■
「……うにゃ? 『あの人』の声? ……ふえ!?」
祭りの最後を飾る花火を見終えて警備の仕事に戻っていたアニス・パラス(あにす・ぱらす)は、宙に視線を泳がせて驚きの声をあげた。
彼女、自分のパートナーであるアニスの様子が急に変わったのを見ていた佐野 和輝(さの・かずき)がどうしたのかと近づく。
同じくパートナーのルナ・クリスタリア(るな・くりすたりあ)もふよふよと宙を漂いながら近づいた。
「おっ? アニス、何かを受信したですかぁ?」
ルナのいつもの調子と異なりアニスは見るからに慌てた様子だ。
それは声にも表れていて――
「和輝和輝! 大変だよ、クウが危ない!!」
「クウが?」
佐野は考えるように親指を口元にあてる。
(こういうときのアニスが言うことは当たることが多い……嫌な予感がする)
佐野が考えているところへ街の警備をしていた男が定時報告をしにやってきた。
一刻前に連絡しに来たのと同一人物だが何か問題が起きた様子で難しい顔をしている。
「ご苦労様。何かあったのか?」
「警備の手が足りてないんですよ」
「さっきはそんな様子じゃなかっただろ」
「それが――」
男は街の警備にあたる予定だった人物らが機晶姫と一緒に森に向かったと云う。なにやら急を要することが起きたようで、警備の内容を急遽変更する羽目になった、と。
「おそらくクウだな」
アニスの方へ向き直り佐野が言う。
それはどうしたいのかと問いているようでもあった。
アニスの肩、寄り添うようにルナが降り立つ。視線を絡ませ頷いた。
「森の中なら私におまかせですよ〜」
「おまかせしなくても最初に向かう場所は決まっているだろう」
「ですか〜?」
佐野はアニスを見やる。
「そうだろ?」
「うん」
アニスは応えると行くべきところを告げた。
「ルーノの家っ!」
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