「絶対、絶対、もう一度………………だから、だから待っててね、メイ」
ニルヴァーナ大陸。
「“紅蓮の機晶石”がある、ですって!?」
そびえ立つ巨大なアンテナ塔……中継基地の一角で、アーティフィサーの少女ウィニカが声を上げました。
「あ、ああ」
その剣幕に気圧されつつ答えたのは、基地で情報屋を営む男でした。
「少し前に、そんなようなものが発見だか発掘だか、されたとか……」
その曖昧な物言いに、傍らでウィニカのパートナーであるハーフフェアリーのアイシァが小首を傾げます。
まったく、情報屋らしからぬ情報の精度です。
勿論、情報屋のそれには理由があったのですが……
「ありがと、おじさん」
「あっ、ウィニカ!?」
……それが語られる前にウィニカは、居てもたってもいられない、という風に駆けだしてしまったのでした。
慌てて背中の羽を動かそうとしたアイシァの細い腕を、情報屋が乱暴に掴んで引き止めました。
「……っ!?」
「ちょ、待てって、だから最後まで話を聞けって!」
放して下さい、という言葉はしかし、情報屋の真剣な眼差しに、吐き出される事はありませんでした。
「その“紅蓮の機晶石”が見つかったって場所だが……巨大なモンスターが住みついていてな。今、退治する人員を集めている所なんだよ!」
紅蓮の機晶石。
最近、ニルヴァーナ文明の遺跡から見つかったデータに示されていた特別な機晶石です。
内部では赤い光の粒子が常に飛び交っている機晶石で、かつて、機晶姫のコアとなる機晶石の修復に用いられていたらしいということが分かっています。
その紅蓮の機晶石が発見されたのは……ニルヴァーナ大陸の荒れ野の中、ゴツゴツした岩がそそり立つ小高い山。
まだ地図に名も書き込まれていないような場所です。
僅かな緑が彩りとも不可思議さともつかぬ印象を与えるその場所に、開拓者が足を踏み入れたのは本当につい最近の事です。
故に、機晶石云々の真偽は確かでなく、一方、モンスターが居ることは確実なのです。
そして、巨大モンスターだけではなく、未知の土地故の脅威だって無いとはいえない、そんな場所……。
情報屋の口から次々に語られる不安材料に、アイシァの顔は、どんどん青ざめていきました。
「でもだって、それだって、ウィニカは止まらない、のに……ッ!」
ウィニカが、パートナーだった機晶姫フィニーメイを『なくした』のは、一年前の事でした。
冒険中の不慮の事故。
ウィニカを守ったフィニーメイの機晶石が壊れてしまったのは、誰が悪いわけでもありませんでした。
それでも、ウィニカは自分を責め……そうしてアーティフィサーに為ったウィニカは、フィニーメイを『目覚めさせる』為にずっとその方法を求めてきたのでした。
だから。
例えどんな困難が待ち構えていようと、どんな不確かな話だろうと、ウィニカは止まらないのだと、もう一人のパートナーであるアイシァは知っていました。
「……教えてくれてありがとう、おじさんイイ人だね」
ひと通り聴き終わったアイシァは、青ざめた顔にそれでも強張った笑みを浮かべて、そう言いました。
そして今度こそ小さな身体を空へと浮き上がらせました。
こちらもまた止まらないだろう妖精が飛び去るのを見送り、情報屋は一つ溜め息をつくと、ふらりと立ち上がりました。
モンスターの討伐隊に、緊急要請を掛ける為に。
「……間に合えばいいんだが、な」