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誰が為の宝

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<序>

 あのとき。
 ウィニカは「ともだち」を失った。
 それは、ほんの僅かの気の緩みに、運の悪さが重なって起きた「事故」だった。

 あなたのせいじゃない。

 周囲の人は、みんなそう言ってくれた。
 でも、それは嘘だ。
 例え運が悪かったのだとしても、「危険」ということを、あのときのウィニカは真剣に考えていなかった。
 契約者となり今までにない力を手に入れて、舞い上がっていたのだ。
 自分の隣にファニー・メイがいれば、「危険」なんて怖れることはないのだと。
 メイは何度も言ったのに。
「気を抜いてはだめです、ウィニカ」
 ウィニカ。
 そう呼びかける声が、今でも耳に残っている。
 たった一度の失敗で、彼女は物言わぬ物体になってしまった。
 姿は何も変わらないのに。
 その瞳は、彼女を見つめることはない。
 ……ウィニカ。
 子供を諭すような、優しい声。
 あの声を、聞くこともない。

 あなたのせいじゃない。

 その言葉が、むしろ彼女を責めた。
 だから、その言葉に耳をふさいだ。
 そう言ってくれた友人たちにも背を向けた。
 メイを取り戻す。
 私のせいなんだから、私が、メイを助ける。
 できるかどうか、なんて関係ない。
 私が、やるんだ。

 あなたのせいじゃない、と、
 アイシァは、そのとき言わなかった。
 ただ、ウィニカのそばにいた。
 ウィニカには、そんな彼女の気持ちは伝わらなかったけれど。
 悲しいけど、それも仕方がないと思った。
 アイシァには、メイのようなウィニカの役に立つ能力は何もない。
 ウィニカとメイの冒険を、楽しく和やかにする為だけに傍にいた。
 ……でも、私だってウィニカの「ともだち」だから。
 ひとりきりで追いつめられていくウィニカを、助けたいと思った。
 でも、方法がわからなかった。

 彼女にできたのは、自ら孤立していこうとするウィニカを、追い駆け続けることだけだった。
 たとえ、自分を見てもらえなくても。

 アイシァもまた、少しずつ追いつめられていた。