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誰が為の宝

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誰が為の宝

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 <二>
 
 一時間程で、討伐隊の面々が到着した。
 ウィニカたちがいた岩陰のスペースを使い、運んで来た機材を使い本部として機能させる為の設備を整える。

「やあ、ウィニカ。ごめんね、待たせちゃって」
 榊朝斗が笑顔で声をかける。
 ウィニカは強張った顔で、それでも朝斗を真っ直ぐに見て、ぺこりと頭を下げた。
 アイシァの言葉だけでなく、こういう態度から見ても、ウィニカは本来礼儀正しい子なのだと感じる。
 きっと、真面目な子なのだろう。だからこそ、思い詰めてしまうと頑固なのだ。
 意志の強そうな瞳でじっと空を見つめ、だまって唇を噛み締めているウィニカを見て、ここまで撤退させて来た唯斗たちの苦労が偲ばれた。
 正直朝斗には、先に進みたがっただろうウィニカを一時とはいえ引かせる自信はなかった。
「準備が整い次第、探索を開始する。もう少し待て」
 神崎優がやって来て、そう声をかける。ウィニカはやはり頑なな表情で、ちょっと頭を下げただけだった。
「あ、そうだウィニカ」
 何か気持ちを解すような話題を探して、神崎零が口を開いた。
「あのね、アイシァも無事だよ」
「……え?」
 顔を上げたウィニカの表情の険しさに、零は話題の選択がまずかったことを悟ったが、遅かった。 
 そしてタイミングよくと言うべきか、最悪のタイミングと言うべきか、狭い場所でごった返しているキャンプの人混みからアイシァが飛び出して来たのはそのときだった。
「ウィニカ!」
 ようやくウィニカの顔を見られた安堵からか、半分泣き出しそうな顔でウィニカに駆け寄る。
「よかった、心配したんだよ……大丈夫? ケガとか、してない?」
 しかし、ウィニカは強張った顔のままで、凍りついたような声で言った。
「……なんで、アイシァがいるの」
「え」
 アイシァが、ぽかんと口を開いたまま絶句した。
 それから、気力を振り絞るように無理に笑顔を浮かべてウィニカを見た。
「だってウィニカ、モンスターが出て危険なのに、一人で行っちゃったから心配で……」
「心配って……あなたが来たってよけい危険になるだけじゃない」
 アイシァがまた絶句する。
「おい、そういう言い方は……」
 開きかけた神代 聖夜(かみしろ・せいや)の口を、陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が強引にふさいで引っぱり戻す。
「な、なにすんだよ! あれじゃ、アイシァ可哀想じゃねぇか」
「うん、そうだけどね……今は口を挟んじゃダメ」
「なんでだよ」
「いろいろ繊細なの」
 まだ抗議の形に開きかけた口を、中途で閉じる。
「そ、そうか。繊細なのか」
 どうやら、自分が繊細な話題に向いていない自覚があるらしい。
「まあまあ、ふたりとも」
 当たり障りのない定型台詞でアリーセが仲裁に入る。しかし、事務的な口調はかえって感情的な場を収めるには効果があった。
「この状況で、帰らせる方が危険ですからね。それはあなたも同じよ、ウィニカ」
「あ……はい」
 唯斗の説教が少しは効いているのか、ウィニカは反論せず、ばつの悪そうな顔で俯いた。
「あなたたちの護衛に人数を割く余裕もないですし……それに、あなたも、帰るつもりはないんですよね?」
「はい」
 これは即答だ。
 アリーセは苦笑を含んだため息を零すと、
「あなたたちの同行を許可します。ただし、規律を乱さないこと、こちらの指示には従うこと……この二点は守ってもらいます」
「は、はいっ!」
 即座にそう答えたのは、もちろんアイシァだ。
「ご迷惑にならないように、頑張ります! よろしくお願いしますっ!」
 ウィニカは憮然として、無言のままだった。

「アイシァと合流できて、よかったね」
「……あの子には、こういうのは向いてないのよ」
 アイが声をかけると、少し怒ったようにウィニカは言った。
「ドジだし、うっかりだし、おっちょこちょいだし」
 それって全部同じことじゃないかな、とアイは思ったが、言った本人も気づいたらしく、複雑な表情でため息をついた。
「それでも、ちゃんとここまで来たじゃない。えらいよ」
 ウィニカを助けたい一心で、と続ける前に、ウィニカは冷たく言った。
「自分の力で来られた訳じゃないよ。誰かに迷惑をかけたんだ、きっと」 
 しかし、すぐに小さくため息をついて項垂れる。
「……あたしも、同じか」
 小さな声で、呟く。
「あたし、ぜんぜん成長してないんだ」
 「危険」ということを真剣に考えなかったあの時の失敗を、こうやって繰り返している。
 助けてくれる人がいたから、今回はこうしているだけで。
「成長は積み重ねだ。劇的に大人になったりはしないさ」
 ふいに口を挟んだのは紫月唯斗だった。
 成長していないということを肯定された気がして唇を噛むウィニカに、唯斗は諭すように言った。
「気づいたなら、一歩前進だ。気づいて、そんでどうすれば良いのか、ちゃんと考えてみるんだな」
 そして、意外なほど優しい口調で続けた。
「お前さんは生きてる。生きてるってことは、可能性があるってことだ。その可能性を自分で潰すようなことはするなよ」

「んふふー」
 自分の言ったことに少し照れたのか、足早にその場を離れる唯斗の横に、リーズがすっと近づいて来た。
「……何だよ」
「アレ自分で言ってて平気だった?」
 唯斗が一瞬絶句する。
「どっかの忍者さんも似たような事してさんざん説教されてたわよねー」
「……リーズ、そーいう事は黙っててくれると嬉しいんだが」
 片手でちょっと顔を覆い、照れたり怒ったり笑ったりしてたるような複雑な表情を隠して、唯斗はうめいた。
 それから、ふっと息をついて平静さを取り戻す。
 軽く笑ってリーズを見て、肩をすくめた。
「ま、俺もちゃんと反省して今があるのよ」
「あははー、反省かぁ」
 ま、私もそーいう事あったし、誰でも一度は通る道なのかもね、とリーズも笑う。
「作戦会議、するよー」
 セレンの声に、皆が集まり始める。
「……さて、と」
 そう呟いて、唯斗は軽い緊張を身に纏い、背筋を伸ばした。
「さっさと本来の目的を片付けますかね」
「オッケー。モンスター退治、張り切っていきましょー」
 こちらはあまり緊張感のない様子で、リースが笑った。