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誰が為の宝

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誰が為の宝

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 <一>


 現場近くの町・入り口。

「しかし、酷い町だな。つか、これは本当に町なのか?」
 町の入り口で周囲を見渡し、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)がぼやいた。
 ここが町の入り口だとわかる看板がひとつ。
 一応、道は整備されている。
 しかし、ごつごつした岩の間に民家らしき建物が数軒ぽつぽつと建っているだけで、目的の「町の酒場」らしきものは見あたらない。
「参ったなこりゃ」
「……特別な機晶石かぁ」
 頭を抱えているエヴァルトの後ろで、ファニ・カレンベルク(ふぁに・かれんべるく)がまるで関係のないことをつぶやいた。
 目的地探しはパートナーに任せきって、自分は討伐依頼に添付されていたデータに目を輝かせている。
「うーん、これは興味を抱かないわけにはいかないよね!」
「……おいおい」
 エヴァルトが振り返って、軽く顔をしかめる。
「そいつには俺も興味があるが……それ「らしき」ものを目撃した「らしい」ってレベルの話だろう。実在するかどうか」
 実際に『特別な機晶石』と融合した肉体を持つエヴァルトにしては、慎重な見解だ。
 或いはそれだからこそ、そういったものが簡単に見つかる筈がないことを理解しているのかもしれない。
 しかしファニは気楽そうな笑顔でエヴァルトを見る。
「えー、でもモンスターを退治して、その上珍しい機晶石まで見つけられたら最高じゃない! なかったらなかったで、仕方ないし」
「そりゃそうなんだが」
 それ以前に、酒場にすら行き着かないのではどうにもならない。
「あの、失礼ですけど」
 ふいに声をかけられ、二人は振り返った。
「討伐隊に参加される方ですか?」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)が、空中にふよふよ浮かぶギフトの鯨を二頭従えてエヴァルトを見上げていた。
 出発前にデータを集めていて、到着が少し遅れたのだ。
 問いに対するYESの答えと、それであんたは? という問い返しを同時に表現するエヴァルトの器用な表情を、彩羽は面白いと思いながら、手にしたHCで左手の方向を示す。
「それなら、こっち。この町、半分は地下にあるから」
「え?」
 エヴァルトが驚くのを見て、彩羽の方が不思議そうな顔をして首を傾げる。
「自衛のため、半地下化された町って、資料になかった?」
「あー、そういえば」
 きょとんとしているエヴァルトの後ろでファニが声を上げた。
 エヴァルトがむっと顔をしかめる。
「言えよ!」
「えー、だって、知ってると思った」
「だってって、俺、さっきから酒場探してるじゃないか!」
 彩羽はちょっと苦笑を漏らして二人を眺めたが、すぐにそれを遮る。
「ともかく、急ぎましょ。誰かを助ける為に、作戦の実行を早めるって連絡が来てるの」
 踵を返す彩羽の後を慌てて追いかけると、ただの岩に見えたものに、酒場の看板がかかっているのが見えた。
「ここよ」
 そう言ってぶら下がっている木槌で看板をコンコンと叩いた。
 いきなり、階段が現われた。