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リアクション
同・岩山。
「ウィニカ、そこに飛び込め!」
「は、はい……っ」
正論に反して人のいる筈のない場所を走っていたのは、東朱鷺とウィニカだった。
「わちゃわちゃ走ってる」甲虫から逃げ惑っていた二人は、なんとか岩場の陰に転がり込んだ。
ウィニカは小さくなって必死で息を殺す。追いかけて来た足音が一気に近づいて来て、激しい地響きと土ぼこりを立てて通り過ぎて行く。
ようやくそれが遠ざかって、二人はほっと息をついた。
「……行ったようだな」
朱鷺がそっと周囲を見回してつぷやく。
「あ、ありがとう……」
ウィニカは荒い息の下からなんとか礼の言葉を口にした。
戻って来る気配がないのを確認して、朱鷺は僅かに緊張を解いて、その場に腰を下ろした。
それから、へたり込んでいるウィニカに向き直る。
「それで……キミは何が目的でココまできたのですか?」
「……え」
朱鷺の問いに、ウィニカが口ごもる。
神獣と朱鷺の術で敵の目を眩まして、なんとかここまで逃げ切れたのは幸運だった。朱鷺としても、残り少ないSPでこれ以上彼女を守って戦うのは負担が大きかった。
返事のないウィニカに、朱鷺は諭すように言った。
「酷な事を言いますが、キミの実力ではこの辺りは危険すぎます。すぐに帰るべきです」
「あたし……っ」
ウィニカが顔を上げた。
「なんですか?」
ウィニカはごくりと唾を飲み込んで、じっと自分を見つめる朱鷺から視線をそらして、また俯いた。
「あたし……ここで、どうしても手に入れなきゃいけないものが……あるから」
それだけ言って、きゅっと口をつぐむ。朱鷺は困ったように眉を顰める。
「要約すると、お宝が欲しい……ですか?」
ウィニカは強張った表情で黙り込んでいる。
朱鷺はため息をついた。
「その気持ちは朱鷺にも解りますが、実力以上のものを求めるのは感心しません。一番の宝とはキミの命ですよ」
「命なんて!」
俯いていたウィニカが、弾かれように顔を上げて叫んだ。
そしてまた言葉を切り、奥歯を噛み締め、絞り出すように言った。
「……あたしの命なんて、どうでもいい」
「ウィニカ……」
朱鷺は言葉を失う。
どういう事情なのか知らないが、ここまで思い詰めている子を説得するというのは、あまり朱鷺の得意分野ではない。
……だからといって、見捨てて行く訳にもいきませんし、ねぇ。
困り果てた朱鷺が考え込んでいると、ウィニカはいきなり立ち上がった。
「あのっ、助けてくれてありがとう。後は一人で行きますから」
「は?」
あまりに唐突な行動に、呆気に取られた朱鷺がつい間の抜けた声を上げる。
次の瞬間、ウィニカは走り出していた。
「……ちょ、待ちなさい!」
◇ ◇ ◇
現場近く・荒野。
「討伐隊、到着が早まりそうよ」
片手で耳に当てていたインカムを助手席に放って、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)はトラックのハンドルを握り直した。
甚五郎の連絡を受けた調査隊から、討伐隊に向けた緊急要請の通信を傍受していたのだ。
「巨大モンスターも確認されたって。急いだ方がいいわよね」
悪路の揺れも物ともせずに助手席に沈み込んで目を閉じていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は、薄く目を開いてインカムを受けとめた。
なんとなくそれを玩びながら、身を起こす。
「今後の開拓の為にも、モンスター討伐はどんどんやっていただいて構わないのでありますが……」
つぶやいて、軽く顔をしかめた。
「あまり早く来られると、出し抜けないであります」
かなり切実な本音だ。
「吹雪の言うとおりだ。コルセアよ、急ぐのだ」
「……急ぐのはいいけど、私、なんであなたに命令されてるのよ」
ムッとするコルセアを他所に、イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)は荷台にしがみつく触手を楽しそうに震わせた。
「紅蓮の機晶石とやら、いただかぬ手はないぞ」
「一攫千金で金欠脱出であります」
吹雪も大真面目に頷く。コルセアは大きくため息をついて、それからキッと前を見据えた。
「わかりました! 飛ばすから、舌噛まないでよ!」
そして、アクセルを踏み抜かんばかりに加速した。
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