イルミンスール魔法学校

　――２０２２年７月。

「シャンバラ国軍総司令殿、ご機嫌いかが？」
「……用件はなんだ？　地球から直接連絡してくるということは、急を要するものだということは分かるが」

　シャンバラ国軍の金　鋭峰（じん・るいふぉん）はモニターの向こうにいる少女――の姿をした地球の要人に問いました。
「手短に言うと、『地球とシャンバラの「地球側に出ている部分」がヤバいから、シャンバラ王国の力も貸して欲しい』」
「詳しく聞こう」
　それまでの人を食ったような表情から一転し、真剣な様子でシスター・エルザが話を始めます。
「見てもらった方が早いわね」
「これは……人工衛星か？」
「ええ、その通りよ。２０世紀の置き土産、ってところね。
　金司令、あなたが生まれる以前のものだけど、ＳＤＩをご存知かしら？　通称のスターウォーズ計画の方がもしかしたら耳に馴染んでるかもしれないけれど」
「知っている。１９８０年代にアメリカが構想した軍事計画だろう？　東西冷戦の終結に前後し、頓挫したとされている」
「その計画の過程で、秘密裏に衛星軌道上に打ち上げられたのがこれよ。坊やにはもう何が言いたいかわかるでしょう？」
「……衛星兵器」
　鋭峰は思わず息をのみました。
「これ自体は武力を持たないから、宇宙条約の第４条に抵触していない。けれど、これは地上を攻撃することが可能よ。
　太陽電池パネルに偽装してる部分は、反射板になっている。地上から発射された高出力レーザーを反射させ、攻撃を行う。複数の衛星を介すことで、地球上のあらゆる場所を狙うことができるわ。地球に接しているシャンバラ地方――首都空京も含まれるわね」
「だが、結局技術面のハードルがクリアできなかったはずだ」
「４０年前はもちろん、実用レベルの出力なんて、今の地球の技術力でも厳しいわよ。けれど、今は『魔法のアイテム』があるじゃない？」
「機晶石か」
　現在、地球でも機晶技術の研究が盛んに行われていることは当然鋭峰も承知です。戦後この１年で、地球でも機晶石を用いた工業製品が増え、パラミタにも多く輸出されていることも。
「大正解。
　かつて地上の発射施設として造られた基地は、今はただの軍事研究所になっているけど、そこがテロリストに占拠されたわ。。どうやって発射装置がまだ残っているということを知ったのかは分からない。当事国のアメリカですらその存在を忘れてて、なぜ狙われたのか分かってなかったくらいなのに……。
　これが実行犯たちの姿よ」
　モニターに映し出されたのは、施設の外で警戒態勢に入っている無数の着ぐるみでした。特撮に出てくるヒーローや怪人ようなものの姿もあります。
「仮装大会じゃないわよ。この珍妙な連中はパッチワーカーの仲間、というより駒ね。請負人としての通り名で、こっちじゃそこそこ有名だけど、正体を知る者はいない。厄介な相手よ」
　モニターが切り替わり、次に映し出されたのは宇宙空間でした。
「厄介と言えば、こっちの方が深刻ね。主要な三基の反射衛星が敵の手の内にある。裏を返せば、この３基を破壊しさえすれば地上を攻撃することができなくなるわ。
　もっとも、各衛星にモスキート１機、シュバルツ・フリーゲ２が４機、シュメッターリンク２が２０機張り付いている上、モスキートのカスタム機と白いシュバルツ・フリーゲ?が巡回している以上、生半可な戦力では太刀打ちできない。そこで、地球側としては正式にシャンバラ王国に協力を要請したい。天御柱学院にはもう話は通しているけれど、学校がシャンバラ王国に所属していることもあるから、承認を得るまで待機状態になっているはずよ」
「それは、本当に地球側――国連の総意か、それとも君一人の判断か」
「あたしはあくまでメッセンジャーよ。意思決定には関わっていないわ。だけど」
　そこまで口にして、エルザが老獪な笑みを浮かべます。
「あの戦争から１年。地球とシャンバラが友好的な関係を保っているというのを双方の世界に示すというのは、お互いにとって悪いことではないと思うのだけれど、どうかしら？」
「了解した。国が窮地に陥る可能性がある以上、断る理由はない。シャンバラの民を守るためだ」

　そして鋭峰はシャンバラの各学校にその旨を知らせました。

「そう言ってくれると思っていたわ。
　地球からは、国連のライセンス持ちである【シュヴァルツァー・リッター】、Ｆ．Ｒ．Ａ．Ｇ．第一部隊長ダリア・エルナージ、それと天学に留学中のドミニク＆マルグリットのルルー姉妹が衛星破壊ミッションに出て、地上の発射施設には、教会の執行官が一人向かうことになってるわ。いずれも、指折りの実力者よ。
　それと、ルルー姉妹の専用機がそろそろそっちに着くはず。執行官と、Ｆ．Ｒ．Ａ．Ｇ．の技術局長も」

　――天御柱学院内、旧イコンデッキ。

「おっしゃ、来たーっ！」
「過奮（お姉ちゃん、興奮し過ぎ）」

　ドミニク・ルルーとマルグリット・ルルーは、２機のイコンを積んだ大型輸送機を出迎えました。

「元気にぃ〜してましたぁ〜？」
　最初に輸送機から降りてきたのは、ぶかぶかの赤いシスター服を着た、一見すると１０歳くらいの小柄でたれ目な少女です。
「ジャンヌー！」
　ドミニクが姿を見るなり、抱きつきました。
「おお〜、やっぱり若い女の子の感触はええもんじゃのお〜」
「ってこの変態ジジイ、いつの間にっ！」
「すり替えちゃいましたぁ〜てへ☆」
　老人を蹴り飛ばしたい衝動を我慢しつつ、ドミニクは二人に向き直ります。
　少女の方は聖カテリーナアカデミーの『聖歌隊』第四位、ジャンヌ。軍事施設奪還作戦に加わる教会の執行官です。
　老人の方はＦ．Ｒ．Ａ．Ｇ．技術局長ギルバート・エザキ。ただの変態のようではありますが、その実イコンの発展に貢献したジール・ホワイトスノー博士の師にあたる人物です。
「……（こっち見んな変態）」
「ほっほ、相変わらずつれないのう。
　ほれ、【メタトロン】と【サンダルフォン】を宇宙でも運用できるように改良しといたぞい。ついでにワシの趣味で新武装を積んどいた」
「余計（余計なことはしなくていいのに……）」
　マルグリットが不服そうな顔をしていますが、エザキ博士は気にせず準備を進めていきます。
「あ、ユキちゃーん！　エザキ博士来たよ！」
　ドミニクは、今回辻永　翔（つじなが・しょう）とアリサ・ダリン（ありさ・だりん）が搭乗するイザナギ、ヴェロニカ・シュルツ（べろにか・しゅるつ）とセラ・ナイチンゲール（せら・ないちんげーる）が搭乗するイザナミの調整を行っていた司城　雪姫を手招きで呼び寄せました。
「極東新大陸研究所サロゲート・エイコーン研究・開発部門主任、司城　雪姫」
「本当に、昔のジールそっくりじゃの〜。宇宙空間に対応した姿勢制御システムは君なしでは完成しえなかった」
「元々プラヴァー・スペース用に組んだものを、クルキアータ・ウルガータに合わせて変更しただけ。大したことはしていない」
　雪姫が開発した宇宙用のイコンＯＳと、大気圏再突入時に備えた耐熱対策の確立によって、装甲強度と気密性の高い第２世代機であるクルキアータ、ウルガータ、ブルースロート、ジェファルコンは宇宙空間で運用が可能となりました。
　また、プラヴァー専用の宇宙用バックパックも完成したとのことです。
「標準搭載した機体は、プラヴァー・スペース改め、プラヴァー・ユニバース。スペースだと、ステルスと被る」
「なんか一気に壮大な名前になったね」
　彼女が言うには、天沼矛内のイコンベースで待機中となっている今回出撃予定の機体に関しては、既にアップデートを施しているということです。

　その時、ドミニクたちが所持している学院生徒用端末に連絡が入りました。
「シャンバラ王国から出撃許可。よっしゃ！　これで機体を出せるっ！」
　気合を入れるドミニクに、マルグリットは言います。
「……厄介（意気込むのはいいけど、敵の情報がないのが厄介）」
「確かにね。だけど、誰が関わってるかは大体予想がつくよ」
　ヴィクター・ウェスト。
　争いの裏で暗躍する狂科学者が今回も絡んでいると、彼女たちは考えていました。
「相手をただのテロリストだって舐めてたら、地球最強のパイロットなんて言われてる黒騎士や、四組いるＦ．Ｒ．Ａ．Ｇ．部隊長の一角のダリ姉が出るなんてことはないからね。それに、シャンバラに協力を求めてるってことは、施設奪還のために生身での実戦経験が豊富な契約者の力が必要だってことだし」
「確（うん、確かに。そもそもジャンヌが動いてる時点で、化け物と戦うことが前提になってるわけだから）」
　着々と準備が進んでいく光景を眺め、ドミニクは呟きました。

「どんな相手が待っていようと、アタシたちは絶対に負けない」



　――地球、某所。

「クク……さテ、そろそろ連中も動き出す頃カ」

　宇宙空間とレーザー発射施設の映像を見比べ、ヴィクターは声を漏らしました。
「相変わらず、あなたには恐れ入りますよ。アスター・エアクラフトとフューチャー・エレクトロニクスが倒れたというのに、まだこれだけの戦力を用意できるとは」
「エサを撒けば楽に釣れル。今回はそれガ、あの２０世紀の置き土産だったというだけダ。キミだっテ、『ツクヨミ』に釣られていただろウ？　失敗したガ」
「そう言われると、立つ瀬がありませんね。しかしあなたは、そんな敗北者である私を脱獄させた」
　かつてフューチャー・エレクトロニクスの役員だったヘンリー・ロスチャイルドと目を合わせ、ヴィクターはいやらしく笑いました。
「クク、その理由はとっくに分かっているはずダ。呼び覚ましててやったのだからナ――キミが評議会にいた頃の記憶ヲ」
「私がエドワードから託された例の研究論文の在り処、ですよね。案内しますよ」
　ヘンリーが隠し扉を開け、ヴィクターと彼の護衛を務める少年を導きます。
「しかし意外ですよ。あなたがここまで来なくても、ちゃんと回収してお渡ししたのに」
「クク、今日は祭りダ。それ二、眺めてばかりというのも退屈なのでナ」
「悠長にしてる場合ですか。もうすぐ契約者たちが来るかもしれないのですよ？」
「だから何だと言うのダ？　彼らを間近で観察するいい機会だろウ？　そんなわけでパッチワーカー、彼らを丁重にもてなしてやってくレ」
　その言葉を聞き、パッチワーカーと呼ばれた人物は静かにうなずきました。

「ククク……さア、祭りの始まりダ。派手にいこうじゃないカ！！」

　お久しぶりです、識上です。
　この度、６月までリリースしていた『月神のヒュムーン』の外伝をマスターシナリオで発表させて頂くことになりました。

　ストーリーは今回のシナリオのために用意したものですので、ロボットミッションをプレイしていなくても問題ありません。また、いつものように識上シナリオではお馴染みの用語も出ていますが、こちらも特に知らなくても、アクションに差し支えはないかと思います。
　なお、イコン関連の基礎的な部分や地球情勢をマスターページに載せてありますので、興味がありましたらご覧下さい。。こちらはＰＣが学校の授業で習った内容という体での説明なので、ＰＣ情報として頂いてかまいません（知っているかどうかで有利・不利が発生することはありません）

　なお、今回は学校優先はありませんのでお気軽にご参加下さい。

【アクション上の注意】

■概要
　このシナリオでの目的を端的に説明すると、

１．人工衛星（に偽装した衛星兵器）の破壊。
２．テロリストに占拠された軍事施設（旧レーザー発射施設）の奪還

　の二つになります。

　気をつけなくてはいけないのは、施設は現在も公的機関として使われているということです。できる限り被害を出さないようにしましょう。シャンバラの契約者の心象が悪くなってしまいます。
　宇宙戦は派手にやっちゃって下さい。

　また、このシナリオの結果を元にしたロボットミッションを制作する予定となっております。登場させても構わないという方は、その旨を一言お書き下さればと思います。

■イコンについて

　本シナリオ限りのルールとして、以下の機体は「異界」の移動属性がなくても宇宙で運用可能です。

・プラヴァー（全タイプ）
・ブルースロート
・ジェファルコン
・クルキアータ

　他の機体に関しては「異界」の移動属性があれば問題なく運用可能です。ただし、機体種別がイコン以外のものは、宇宙空間に出れません（パラミタの宇宙空間ではないため、巨大生物は活動できません）

　機体・武装の貸し出しは一部の条件（試作機のテストパイロットの称号を所持している等）を満たしている方を除きありませんので、イコンで参加される方は必ず所持しているイコンを登録して下さい。その際、アクションをかけるＰＣとパイロットが一致しているか、アクションに書いた武装をちゃんと装備しているかをきちんと確認してください。データの不一致がある場合、アクションが無効になる可能性があります。

※天学生向けのアナウンスになりますが、「覚醒」は現在使用できません。

■敵（宇宙）

　破壊対象となっている三つの人工衛星α、β、γそれぞれを以下の機体が守っています。

・モスキート：１機（×３）
・シュバルツ・フリーゲ２：４機（×３）
・シュメッターリンク２：２０機（×３）

　そして、いわゆるボスが以下の２機です。

・ヴァイス・フリーゲ
・モスキート・カスタム

■敵（発射施設）

　発射施設では地球人の請負人【パッチワーカー】が使役する着ぐるみ集団（ゆる族ではない。えげつない方法で造られた「生きたぬいぐるみ」）が警備についています。
　屋外には動物型が多く、施設内部を進むにつれ怪獣、特撮ヒーローと強くなっていきます。
　特に特撮ヒーローの姿をしたものに関しては、理不尽なくらいに強いと思っておいた方がいいでしょう。

　施設は屋外、一階、地下一階、地下二階となっており、地下二階がレーザー発射装置へと続いてます。
　パッチワーカーは地下一階に、地下二階にはヴィクター・ウェストの護衛役がいます。
　護衛は幼い少年の姿をしていますが、１対１で倒せるほど甘い相手ではないことでしょう。

■ＮＰＣ

　今回、ＮＰＣの配置は以下のようになっています。

・人工衛星
　
　α：【シュヴァルツァー・リッター】（ウルガータのカスタム機に搭乗、機体名はＴＡＣネームに同じ）、ダリア・エルナージ＆レイラ・サイード（クルキアータのカスタム機【マモン】に搭乗）
　β：ルルー姉妹＆コスマ、ダミアノ（ドミニク＆コスマがウルガータ試作５号機【メタトロン】、マルグリット＆ダミアノがウルガータ試作６号機【サンダルフォン】に搭乗）
　γ：辻永　翔＆アリサ・ダリン（イザナギに搭乗）、ヴェロニカ・シュルツ＆セラ・ナイチンゲール（イザナミに搭乗）

　いずれも、近接＆支援の組み合わせとなっています。
　また、ＮＰＣは基本的に突破口を開くための陽動を行うことになります。

【シュヴァルツァー・リッター】は地球上で３組のみ存在する、国連から発行されたライセンスを持つパイロットの１組です。このライセンスの所持者は「地球上に限り」イコンを自由に運用することが可能となっており、傭兵として雇われることも許されます。
　なお、主武装はＭＶランス（ドリルのように回転もする）とガトリングシールドで、機体は「黒騎士」の名前の通り、真っ黒です。その姿はまるでイコン登場初期からいる誰かさんを彷彿させます。

・発射施設

ジャンヌ：聖カテリーナアカデミー『聖歌隊』第四位。１８歳。学生をやっているが、本来は教会直属の最年少執行官。執行官は、俗に言う『神罰の地上代行者』のこと。要は化け物や異端者相手に特化した戦闘のプロ。しかし、そうは見えない。なお、マヌエル前枢機卿以上の狂信者。

　彼女は屋外で着ぐるみの掃討に当たります。今回はシャンバラの契約者に協力的ですが、基本的に「地球の神への信仰を捨てたパラミタの地球人たち」を嫌悪しています。
　なお、魔道書や魔鎧の中には聖典や聖衣もいるためそれほど敵視していませんが、吸血鬼、悪魔、フェルブレイド、へクススリンガー、ネクロマンサー、ソウルアベレイターは見つけ次第問答無用で断罪しにいきます。

・その他

ギルバート・エザキ：Ｆ．Ｒ．Ａ．Ｇ．技術局長を務める７０歳の老人。変態科学者と呼ばれている。女性に対する言動・態度は大体セクハラに該当。それを差し引いても変人である。クルキアータの後継機、ウルガータの設計者。
　１５年くらい前はもう少しまともだったらしい。彼の教え子には、ジール・ホワイトスノーとヴィクター・ウェストがいる。

司城　雪姫：極東新大陸研究所サロゲート・エイコーン研究・開発部門主任と天御柱学院監査委員長を務める少女。未だ行方不明なジール・ホワイトスノー博士の後継者。

シスター・エルザ：聖カテリーナアカデミー校長。ロリババア。

※金　鋭峰はリアクションには登場しません。


　それでは、皆様のご参加をお待ちしております。

・衛星兵器破壊ミッションを受ける。

・軍事施設奪還ミッションを受ける。

・イコン研究者の二人（雪姫とギルバート）に話を聞く。