「もしもし! たいへんなの! あのね、リンスがたおれちゃったの! たすけて!」
*...***...*
「よくもまぁ、あの内容で伝わったよね……」
貧血と栄養失調で、空京にある聖アトラーテ病院に入院することになったリンス・レイスはベッドの上で呟きました。
「わたしのおかげなのよ! だからリンスはゆっくり休めばいいのよ」
クロエは、椅子の上で小さい手をふりふりと動かし、脚をぱたぱたと動かしています。
「それ、何のアピール?」
「げんきになれば、こんなふうに動けるのよ! っていう、アピールよ」
「ああ、そう」
「だから、はやくげんきになってね!」
「……うん、わかった」
ぽん、とクロエの頭を撫でてやると、クロエはにこにこ、笑いました。
廊下では、ナースたちが走り回っています。
誰かが搬送されてきたのでしょう。
最後尾を、泉 美緒が走っていくのをぼんやりと見ながら、
「病院、盛況なんだね」
呟きました。
そういえば、この八人部屋も満室です。
隣の病室も、結構騒がしいです。
ひいては、上の階でも。
「せいきょー?」
「人気ってこと」
「そうなの! すごいのね!」
「まあ、良くはないけどね?」
「そうなの?」
「そうなの。病気や怪我で、辛い人が多いってことだからね」
「……それは、イヤね」
「でしょう?」
魂になる、前の事を思い出しているのでしょうか。
クロエは、どこか悲しそうな顔で俯いています。
「早く、みんなが元気になるように、お見舞い行かなくちゃね?」
「お見舞い? 元気になるの?」
「なるよ。素敵なことだよ」
「じゃあわたし、お見舞い、いくわ!」
ぴょん、と椅子から飛び降りて。
クロエは、ちいさな身体をてこてこと揺らしながら、病院を駆けていくのでした。
*...***...*
また、別の病室で。
加能 シズル(かのう しずる)は、ベッドに横たわりながら「不覚……」と呟きました。
週末を利用して、パートナーのレティーシア・クロカス(れてぃーしあ・くろかす)と共に買い物に出かけたところ、信号無視をした小型飛空艇との接触事故に巻き込まれてしまったのです。
その際シズルはレティーシアをかばい、怪我を負ってしまいました。
シズルとしては、共に無傷で済まそうと思っていたので、不覚なのです。
幸い命に別条はありませんでしたが、しばらくの入院が必要との判断が下されました。
「シズル? どうしましたの? ずいぶんと浮かない顔をしているようですけど。どこか痛みますの?」
「……ううん、そりゃ、痛くないわけないけど……それより、学校に行けないのが残念で」
悔しそうな、寂しそうな顔でシズルが言った直後、
「シズルさん!」
美緒が病室に飛び込んできました。
「美緒!? あなたがどうしてここに?」
「百合園女学園での職業体験ですわ」
「職業体験中に、単独行動していいのかしら……」
「だって、シズルさんが入院したと聞いて、わたくし、いてもたってもいられずに……」
美緒の心遣いに顔をほころばせるシズルを見て、「そうですわ」レティーシアはぽん、と手を打ちました。
「お見舞いに来てもらえばいいんですわ」
「……お見舞い?」
「ええ、シズルが学校へ行けなくて寂しいと言うなら、皆様に来て頂ければいいこと。わたくし、お見舞いに来て頂ける人を募ることにしますわ」
「わたくしも、心当たりのある友人に連絡してみますね! あ、お仕事、戻らなくちゃ……それでは、シズルさん。また来ますから!」
美緒は忙しそうにぱたぱたと病室を出ていき。
レティーシアも、ケータイを使うことから、病院を出ることにして。
一人になったシズルは思います。
「お見舞い、かぁ……」
来てもらったら嬉しい、なぁ。
でも、こんな状態の私を見られるの、少し情けないな。
複雑な思いを胸に、体力回復のためと、シズルは目を閉じ眠りに入りました。