秋めいた風が頬を撫でるようになったここイルミンスール魔法学校。
掲示板に一件の依頼が踊りました。
「急募!『無限倉庫』調査団団員!」
『無限倉庫』と言えばイルミンスールの脇でひっそりと佇む古い建物。
円形、白亜で石造り。
イルミンスール設立の時から建っているというその建物の外観には、肉体美を誇る何百もの男女が彫刻されています。
そして「無限」。
内部に無限の広がりを持つからとも、倉庫の中のものを片付けても片付けても永遠片付かないからとも言われ、うわさ話には事欠きません。普段は厳重に施錠されていることもあり、不思議な話が大好きなイルミンスール生徒の口に上ることもしばしばです。
「この間の大騒ぎで、校長から、ちょっとスタミナをつけなさいってことで『無限倉庫』の片付けを命じられたんだ。なんだか倉庫の奥にはスタミナの秘薬が置いてあるらしいから、その探索も含めて」
依頼の主はケイン先生。
まだ夏の日差しが濃かったイルミンスールで奇病に倒れ、一騒動の元となった若手の先生です。
「ヒルトと一緒に中に入ったんだけど、入るなり倚子の上に転がされてなんだか重いものにはのしかかられたんだ……そしてヒルトがっ! そうなんだ、ヒルトがっ!」
ヒルトとは正式な名前をブリュンヒルト。一騒動の末にケイン先生と契約を結んだ魔女のことです。
少し取り乱し気味のケイン先生の言葉をまとめると以下の通り。
・『無限倉庫』の中は薄暗い
・薄暗い中でインジケーターや数字が点滅していた
・轟音と共に体を拘束してくる何ものかが存在している
・倉庫内には他にも様々な形状の何ものかの影が複数
・倉庫の最奥部にはスタミナの秘薬があるらしい
・動き出す床に捕らわれたブリュンヒルトが奥へ連れ去られていった
・気絶したら外に放り出されていた
「これから助け出しに行きたいんだけど、僕はこんな状況で……」
ケイン先生は、布で吊った右手を掲げてみせました。
「生徒のみんなにこんなこと頼むのは申し訳ないんだけど……戦力が欲しいんだ。倉庫の奥へ行くのに、手を貸してもらえないかな。報酬は……正直この間の騒ぎで今あんまり出せないんだけど、スタミナの秘薬を含めた倉庫内にあるものってことでどうかな。ああ、もちろん学校にはことわっておくよ」
そう言うと、ケイン先生は頭を下げました。
しかしケイン先生、いくら頼りなさそうに見えてもイルミンスールの教師。ブリュンヒルトに至ってはかなり力を持った魔女のはずです。その二人がいともあっさりやられてしまうなんてありえるのでしょうか。
「いや、建物内に入ると急に体が重くなるんだ。魔法も、かなり効きにくくなるみたいで……だから、建物の中に入ったら、絶対に一人にならないようにね」