「スノハちゃんなんかだーい嫌いっっ!!」
地球人の女の子絵音(えおん)ちゃんは、泣きながらどこかに走って行きました。
「あたしも絵音ちゃんのこと嫌いだもん」
地面に落ちて汚れてしまったリボンを拾いながら言いました。こちらも目には涙がいっぱいです。
園児達を引率していた新米保育士ナコがトイレに付き添っていた守護天使の男の子と共に戻って来ました。
「みんな、大人しくしていたかな。もう少ししたらお兄ちゃんとお姉ちゃんが不思議な薬を持って来るからねぇ」
今日の引率については、蒼空学園で教師をしている友人に知らせています。すると、生徒達がちびっこになる薬とその解除薬である大人薬を持って遊びに行くからと約束をしてくれたのです。今はその集合場所である空京の色んなアスレチックがある大きな公園にいます。
「……何か、あったのかな?」
嬉しいはずの話にも子供達の反応は薄く、何となく雰囲気がおかしいことに気付いたナコ先生は園児達に聞きました。
「……スノハちゃんがリボンの自慢ばかりしたから絵音ちゃんが怒ってどこかに行っちゃった」
目撃していた獣人の女の子が代表して先生に話しました。
スノハちゃんは仲良しの絵音ちゃんに頭のリボンを自慢したのです。家族でお出掛けをしてお母さんとお揃いのリボンを買ったことお母さんがおめかししなさいと言って頭に付けてくれたことを話したのです。
「……どこかにって。ちょっと先生、捜してくるから待っててね」
ナコ先生は園児達に大人しくするよう言ってから急ぎました。子供の足ならそれほど遠くは行っていないはずだと信じて。
「……スノハちゃんなんか嫌いだもん。あたしだって」
泣きながらあてもなく歩き回る絵音ちゃん。リボンと家族の話をするスノハちゃんが羨ましくてつい怒ってしまったのです。彼女のお家はお金持ちで今も高価な小型の結界装置を持っています。ただ、それ故に両親と過ごすよりも家の使用人と過ごすことが多いのです。
そんな寂しそうな絵音ちゃんを見守る三人の目がありました。
「あれはサミエじゃないか」
「あぁ、やっぱり生きてたんだ」
「早くサミエの声が聞きたいな。また、ナカト兄ちゃんって呼ばれたい」
22歳の女性と20歳と18歳の男性がそれぞれ写真を片手に食い入るように絵音ちゃんを見ていました。
その三人は、すぐに行動に移しました。
「サミエ、イリアル姉ちゃんだよ」
「ほら、ハルト兄ちゃんもいるぞ」
「今までどこにいたんだ。ナカト兄ちゃんと一緒に帰ろう」
有無を言わさず、シャンバラ人の三人は絵音ちゃんを自分達が泊まっている裏通りの安宿に連れ去りました。
その際、一番下のうっかり屋の弟ナカトが写真を落とすも気付いていません。
裏通りの安宿。
「あたし絵音だよ」
宿に着くなり絵音ちゃんは、自分の名前を間違えている三人に教えました。
途端、三人は隣部屋でも聞こえてしまう大きな声で叫びました。
「えーーーサミエじゃない!?」
「……事故に遭った時、サミエは5歳だったんだから。よく考えれば有り得ないわよね」
「……まずいよな。ナカト、これって誘拐?」
「そうなる前にほら、帰ろうか。間違えてごめんよ」
三人は真っ青になりますが、絵音ちゃんは全然気にしません。
「やだ。絶対に帰らない。……お腹、空いたぁ」
三人は空腹を訴える絵音ちゃんに困りつつも言う通りにすることにしました。
「……どうしよう」
園児達の元に戻ったナコ先生は困った時に心の支えにする亡き祖母に貰ったブローチを握り締めながら呟きました。どこを探しても見つからず、見つけたのは絵音ちゃんそっくりの女の子が写っている写真だけです。何かの手掛かりになるかもしれません。
「うちの子がいなくなったって」
「あなた、何をしていたのよ。これは身代金誘拐よ」
ナコ先生の連絡によって絵音ちゃんの両親がすっ飛んできました。
責められたナコ先生は、必死に謝り続けて何とか公的機関への通報を止めることが出来ました。
そして、彼女はやって来たお兄ちゃんやお姉ちゃんに拾った写真を渡して絵音ちゃんの捜索を頼み、絵音ちゃんの両親と一緒に残った園児達の世話と連絡のため待機することにしました。