百合園女学院

　四葉　恋歌（よつば・れんか）はお年頃、暑い真夏のセブンティーン。


「ふー、暑くなってきたなぁ」


　休日のウィンドウショッピングを楽しむ恋歌の視線は、色とりどりの水着に注がれています。日差しも強いツァンダの街は、そろそろ夏本番。

「……そろそろ新しい水着、欲しいな……遊園地でもプール系のアトラクションが始まってるし……。あ、いっそのこと海に誘うってのもありかなあ……でもまだ早いかな……でもでも……」

　ちょっと最近ジメジメしていた恋歌でしたが、梅雨も明けたツァンダの街を歩くうち、ちょっと気晴らしをしたいと考え始めたようでした。

「よし決めた！！　今年は水着を買って海かプールに行こう！！　何しろダイエットにも成功したし！！」

　意気込んで手近なショップに入ろうとする恋歌。その横顔に強い風が吹き付けました。
「わっ！　――なんか風が強いなぁ――？」
　髪を押さえた恋歌は、どことなく感じる違和感にウィンドウを眺めます。
　しかしどうしたことでしょう、そこには恋歌の姿は映っていません。

「あれ、どうして――ってえええぇぇぇ！？　え、いや何これえええぇぇぇ！！？」

　いえ、正確には映っていました。ただ、あまりに見たことのない姿だったのでそれが自分だと認識できなかっただけなのです。


「なんで！！　なんで私こんなに太ってるのーーーっ！！！？？？」


　ウィンドウに移りこむ恋歌の姿は、横にたっぷり３倍ほど膨れ上がっていたのでした――。


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆


　そのちょっと前。

「ヨーグルトはいかがデブー？　ダイエットにもよく効く『ぽんぽこ印のラクーンヨーグルト』デブー」
「肌にもいいしおなかの健康にもいいのじゃぞー。美容が気になるおなごはこっちの『かめりあ印のつやつや椿油』も一緒にどうじゃー」

　ツァンダ付近の山に住む狸の獣人　フトリとツァンダ付近の山　カメリア（つぁんだふきんのやま・かめりあ）が街でヨーグルトと椿油を売っていました。
　最近は積極的に街に溶け込もうとしている彼女らですが、街の生活にはお金がかかります。
　そこで、カメリアは自分の本体である椿の古木から抽出した椿油を、フトリは独自開発した健康ヨーグルトを販売することにしたのです。

　最初は『太った大男が売るヨーグルト』ということで売り上げもさっぱりでしたが、カメリアとその友人である冬の精霊ウィンター・ウィンターが売り子として手伝うことで徐々に販売数を伸ばし、ツァンダの街に知る人ぞ知る地味なブームを巻き起こしていました。

「いやでもこのヨーグルト食い始めてから、本当に体の調子がいいぜ！」
　と、その様子を見守っていたパラ実のブレイズ・ブラス（ぶれいず・ぶらす）は声をかけます。フトリがヨーグルトを開発する段階から（主に味見で）手伝っていたブレイズには、ヨーグルトの効果がより一層現れているのでしょうか。
「そうでスノー、なんだかお肌の調子も最高でスノー！　カメリアの椿油と合わせて私の魅力もうなぎ上りでスノー！」
　能天気な声を上げるウィンターですが、そこに一人の少女が現れました。どこからか走ってきたのか、息を荒げてウィンターの方へと駆け寄ります。
「あ、いた！！　こんなところで油を売っているでピョン！　冬が終わったからって油断してはいけないでピョン！　仕事はまだまだいっぱいあるのでピョン！」
　それは、春の精霊スプリング・スプリングでした。ウィンターの友人でもあり季節の精霊の同僚でもあるウサギ耳少女は、いつものとおり事務仕事を放り出して街に逃げ出したウィンターを追ってきたのです。

「あ、見つかったでスノー」
「文字通り油を売っている場合ではないでピョン！！　ウィンターの出した書類はほとんどミスだらけでピョン！！」
「修正しといて欲しいでスノー」
「私には私の仕事があるでピョン！　あとウィンターのサイン待ちの書類も溜まってるでピョン！！」
「代わりにサインしといて欲しいでスノー」
「できるワケないでピョン！　あと水蒸気と水分の調整と今年の冬の気圧配置と雪の残量管理と――逃げるなでピョン！！」
「わ、わかったでスノー！！　帰ってからやるでスノー！！」
「そうやってまた逃げるつもりピョン！！　早く帰るでピョン！！」

　今にもウィンターの首根っこを捕まえて引きずって行きそうなスプリングとウィンターの間に、ブレイズが割って入ります。
「ま、まあまあスプリング。そう目くじら立てなくってもいいじゃねーか。ウィンターだって帰ったら真面目にやるさ、なぁ？」
「……」
　ブレイズの脚の陰に隠れたウィンターは、そこからスプリングに抗議しました。
「そ、そうでスノー！！　私はオンとオフの切り替えがはっきりしているのでスノー！！　スプリングみたいに仕事が生きがいのお局さんとは違うのでスノー！！」
「…………」
「そうやってガッチガチに仕事のことしか頭にないから浮いた話のひとつも出ないし嫁の貰い手もないのでスノー！！」
「おい、それすでに関係ない……」
　調子に乗るウィンターに突っ込もうと思ったブレイズですが――

「………………わかったでピョン」
　スプリングの静かな一言に遮られました。
「え？」

「ウィンターのことなんかもう知らないでピョン！！　後でどんなに困ってもそうやって友達になんとかしてもらうといいでピョン！！　私だってさっさと寿退職してこんな仕事辞めてやるでピョン！！」

　激昂したスプリングから、突然激しい烈風が吹き荒れ始めました。
「わっ！　な、何じゃ！？」
「ス、スノー！？」
　ピンク色の花びらが視界一面を覆ったかと思うと、スプリングの姿はもうありません。

「……スプリング……」
　さすがに失敗したかと思ったウィンターですが、その様子を見たブレイズが呟きました。
「お、おい……ウィンター……」
　そのブレイズを見たカメリアもまた同様です。
「い、いや……ブレイズ……お主も……」

　そして、その場を眺めていたフトリが総括しました。


「……カメリア様もウィンターもブレイズも……みんなが急激に太ったデブ……」


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　☆


「あんな自分勝手なやつはもう知らないでピョン！！　死のうが消滅しようが好きにするでピョン！！　私は私の好きなように生きてやるでピョン！！」
　すっかり興奮したスプリングはツァンダの街をピョンピョンと跳ねて行きます。
　彼女の行くところ激しい『春の嵐』が吹き荒れ、夏の街には季節外れの春の花が咲き乱れ、人々は春のようなフワフワとした気持ちになり、やたらと人恋しくなり、情緒不安定になり、そして太った人が続出しました。

　ショップのウィンドウ前で立ちすくむ恋歌も例外ではありません。
「な、何があったの……？　こんな姿じゃ水着なんてとても……、ああでも、今すごくあの人に会いたい……でもこんな姿じゃ……ああでも……」


　スプリングが巻き起こす『春の嵐』はフトリが開発したヨーグルトに含まれる『ＦＴ２１０デブリ菌』と異常反応を起こし、最近フトリのヨーグルトを食べていた人を急激に太らせてしまっていたのです――

　みなさんこんにちは、まるよしと申します。これが１５本目のシナリオになります。
　マスター業務を休止しながらもゆるやかに活動中ですが、７月中はわずかに時間を取れそうなので、シナリオを担当させていただくことになりました。どうかよろしくお願いします。

　さて、今回はウィンターと喧嘩したスプリングが巻き起こす真夏の春騒動――夏真っ盛り、海だプールだダイエットだ、というカップルさんも多かろうということで、限りなくコメディ寄りの恋愛シナリオにいたしました。
　ですが傾向としては日常的なほのぼのシナリオですので、必ずしも恋愛的なアクションをかけなくても問題ありません。ちょっとしたひと騒動を楽しんでいただければ幸いです。
　またアクションをかける場合、その相手はシナリオ参加ＰＣとまるよしの管理下にあるＮＰＣに限りますのでご注意ください。

　特に所属校による制限はありませんが、舞台はツァンダの街のみと限定させていただきます。
　スプリングの起こす『春の嵐』はツァンダの街全域に及びますので、その影響から逃れることはできません。
　『春の嵐』の影響としてはガイドの通りですが、その他『春っぽい内容』でアクションをかけていただければ、積極的に検討します。

　ちょっと話題になった健康食品ということで、フトリの『ぽんぽこ印のラクーンヨーグルト』は若い女性を中心に売れていたようです。一度でもこのヨーグルトを食べたことがあれば『春の嵐』の影響で急激に太ってしまう、という現象が発生します。
　ＭＣ、ＬＣ含めてどのＰＣがヨーグルトを食べているか、もしくは食べていないかは自由としますので、誰も太らないという選択も可能です。
　また、ヨーグルトを食べていなくとも『春の嵐』の影響は受けてしまいますので、何らかの精神的乱調は起こります。


・掲示板で挨拶をお願いします。
　自ＰＣの中で最初に書き込みをした時のダイス目を参考にして、ＰＣの太り具合を決定します。

　『二つのダイス目を足した数×プロフィールの体重』が目安です。
　またゾロ目の場合、『ダイス目×ダイス目×プロフィールの体重』を目安にしますので、本来の１倍〜３６倍の体重になる可能性があります。
　掲示板で挨拶がなかった場合、ＧＭ側でダイスを振って任意で決定いたします。
　また、プロフィールで体重の欄を秘密にしている場合、具体的な数字が描写されることはありません。

　着ている服や装備に関しては、太ったことでぐいーんと伸びても構いませんし、ビリビリに破けても構いません。
　また、魔法的な影響で今回の現象が起こっていますので、見た目としては常識的に『（現実的にありえる範囲で）太っている人』というレベルを超えない程度の描写になります。
　実はフトリの開発した『ＦＴ２１０デブリ菌』は健康食品としてはとても優秀です。『春の嵐』と異常反応してぷっくぷくに太った外見に対して、内面ではものすごく発達した筋肉をつけてしまっていますので、体重が異常増加してもそれにより骨や内臓に異常が出ることはありません。
　体重の増加に従って身体の動きは鈍くなりますが、筋肉のパワーはかなり増大します。


・恋をしたくなります。
　ヨーグルトを食べていない、という選択肢で太ることは避けられますが、『春の嵐』が巻き起こす精神状態の変調は避けられません。
　恋人がいるＰＣは恋人に会いたくなるでしょうし、そうでないＰＣは恋人が欲しくなるでしょう。
　すでにカップルが成立している場合は素直に恋愛描写を楽しむもよし、あえて太った状態での恋愛描写を楽しむのもアリです。


・情緒不安定になります。
　『春の嵐』がもたらす精神の変調は恋に限ったことではありません。ものすごく意気消沈したり、やたらとハイになったりします。
　得体の知れない陽気にあてられて、スポーツや武道などで発散したくなるということもあります。


　武装・スキルはアクションを投稿時の装備がダイレクトに反映されますので、アクション内で装備やスキルを使う場合にはご注意ください。
　残念ながら他ＧＭ様のシナリオやグランドシナリオは基本的に参照できませんのでご了承下さい。キャラの関係などをアクション内で『〜ということがあったので』と説明がある場合はその範囲内で表現したいと思います。
　公序良俗に反するアクションは採用できませんのでご注意下さい。

　登場するＮＰＣは、まるよしの管理下にある以下のＮＰＣに限ります。アクションがかからなかった場合、リアクションに登場しないことはあります。
　各ＮＰＣの詳細につきましては、お手数ですがマスターページをご参照下さい。

・冬の精霊　ウィンター・ウィンター（精霊）……思いがけないスプリングの態度にどうしていいかわかりません。デブです。
・春の精霊　スプリング・スプリング（精霊）……自暴自棄気味に街中を跳ね回っています。デブではありません。
・ツァンダ付近の山　カメリア（地祇）……困惑しながらも、どうにか事態を解決しようとします。デブです。
・ブレイズ・ブラス（シャンバラ人）……気分が落ち込んだりハイになったりと忙しいです。デブです。
・四葉　恋歌（地球人）……まったく事態が飲み込めていませんが、一刻も早く事態を解決すべく奔走します。デブです。
・狸の獣人　フトリ（獣人）……珍しく本人に罪はありません。事件解決に向けて走ります。もとよりデブです。
・狐の獣人　カガミ（獣人）……家族で街中を別行動していたようです。デブです。
・機晶姫　ウド（機晶姫）……鎧の中がどうなっているのかは不明ですが、デブです。
・バルログ　リッパー（悪魔）……ツァンダの街を物見遊山していたようです。デブです。
・山羊　メェ（山羊）……ツァンダ付近の山『わくわく山羊ランド』で留守番です（出番ナシの予定）。
・独身貴族評議会（ザコ）……困惑するカップルにちょっかいをかけています。デブです。


　それでは、よろしくお願いいたします。

・春の嵐に翻弄されて、恋人とイチャイチャ

・春の嵐の中、事態の解決に向かう

・俺がデブだ