【原色の海】アスクレピオスの蛇(第1回/全4回) リアクション公開中! |
シナリオガイドパラミタの水源が濁る時、その長大な蛇は現れた。
シナリオ名:【原色の海】アスクレピオスの蛇(第1回/全4回) / 担当マスター:
有沢楓花
パラミタ内海の中央部には、“原色の海”(プライマリー・シー)と呼ばれる海域があります。 * 2023年4月。ヴォルロス中心部、ヴォルロス議会場の一室。 円卓の中央には新しい地図と海図が広げられ、その周囲には埃の匂いがする資料が散乱していました。 円卓を厳しい顔で囲んでいるのは、議長、商工会議所の会長といったヴォルロスの商人たち複数名と、同地区にある三部族の領事館のはからいで集った三部族の代表ら、そしてヴァイシャリー艦隊の提督の一人、フランセット・ドゥラクロワ(ふらんせっと・どぅらくろわ)です。 「……つまるところですな、原色の海が長らく独立が続き、国や世界樹の影響を受けない地域となっていた理由は、パラミタ内海の中央部という地理的条件。ええ、勿論それもあります。 が、パラミタの水が湧き出る場所のためという理由も大きいのですな」 会話の主導権を握っていたのは、ヌイ族の族長ドン・カバチョです。手にあるのは、海に住む獣人部族・アステリアの鯨の女王ピューセーテールからこの会議に宛てられた書状。 「この海域の三部族に存在する、ひとつの不文律。『海域の自然を守り、壊さぬこと』──これはヴォルロスでも重々ご理解いただいて、ご協力をいただいておりますな、ハイ。 というのも、これが乱れれた時に災いが起こると伝わっているからでございます。ま、卵が先か鶏が先か──ではございますが。この中心にはアステリアの皆様がおられるのです」 これを持ってきた、イルカ獣人だというアステリア族の壮年の男性は、深く頷きました。 「陛下と我らアステリアが守っておりますのは、パラミタの水源、その最大のものなのです」 さて、浮遊大陸であるパラミタ大陸に何故海があり、水はどのように生まれるのでしょうか──それは、ナラカに漂う瘴気が大陸の底に触れて染み込む際に、水分が大陸に蓄えられ、やがて各地で湧きあがるのです。 中でも大きな水源が、原色の海の海底にあり、アステリアは代々その場所を守ってきましたのですが、長い歴史の中ではこの水に濁りが生じ、同時に海に異変が起こったり、怪物が現れたことがあったそうなのです。 「我らアステリアの手で防げるものならばよいのですが、手に余る場合もあります。一度は、その災いによって海上の森は滅びかけました。それを花妖精と守護天使、今のドリュス族の先祖が守り現在まで森を育てたのです」 「まさか、そのようなことがあったとは……」 信じられないと言ったように目を丸くする商人に、守護天使の青年も頷きます。ドリュス族からの遣いとなった青年です。族長補佐の子息の一人だといいます。 「族長もその記憶に大樹が怯えていると仰っていました。そのために結界を張ったのですが……。 ──私が出立したのは、巨大な海蛇のような姿の怪物に、結界が破られたからなんです」 青年の顔には緊張が浮かんでいます。あまり役に立たないから手が空いていて、それで使いにやられたのは自覚しているのですが、使命感の方が勝っていました。 海中から浮かび上がった幽霊船を一人で何とかやり過ごしてここまで来れたのも、そのためです。途中で小船が魚に齧られて沈められ、光の翼はボロボロになっていました。 「勿論、ドリュスを、大樹を救うため力を貸していただきたいんです。しかしここに来るまでに海中から浮かび上がった幽霊船が海路を塞いでいるし、その上奴らはヴォルロスに向かうかもしれない……」 しかし。長らく平和の続いたこの海域、シャンバラひいては地球から遠いため、機械文明は発達していません。同じように、武力を外部から持ち込むことも様々な理由から忌避されていました。といって契約者の姿など見かけることが少なく……。 「先日から港周辺の魚の怪物たちを排除していますが、武装商船の船底も、一部齧られ……」 議長たちの報告が続く中重苦しい沈黙が漂います。そんな時、フランセットのメイドの菫の花妖精ヴィオレッタが部屋に入ってきました。 「お手紙なのです」 「……見せてくれ」 フランセットは部下からの偵察の報告に目を通すと、言いました。 「魚の怪物が船底を齧り、船がもたない可能性が高い。ならばその船自体を武器にしましょう──火船で焼き払います。機動力はあちらにない。首謀者がいたとして、大量のアンデッドに細かな指示が行き渡らなければ意味がないのですから」 海図の上に指を滑らせ、彼女は言います。 「海軍には機晶水上バイクがあります。空を飛ぶことができますので、こちらで囮として浅瀬に追い込み、火船に突撃させます。水上バイクには、火船に乗った人員を拾って帰還させます」 けれど人出はいくらあっても足りませんね、付け加えます。 「この海域にも、契約者が来ています。議長、彼らを傭兵として雇う資金と、張り紙を用意していただけないでしょうか?」 * その頃、樹上都市中央にそびえるオークの大樹の中で、ドリュアス・ハマドリュアデスは窓枠に手を掛けて眼下を見おろしていました。 そこには、ジャングルのような森が広がっていました。大樹自身がその力を使い樹木の結界を張ったのです。といっても、根を齧る魚にどれだけ持ちこたえられるかは分かりません。 窓の外では魚の怪物たちとの、争いの音が続いています。中には見慣れぬ契約者たちもいて、争いの間を縫って、大樹へと走っていました。 先程海蛇が通った場所は、焼き切れたように黒い色に染まっています。なぎ倒され、ひしゃげ、折れた木々を痛ましげにみやると、彼女は窓とカーテンを固く閉じ、奥の部屋に進みました。 扉を開けた先には、苗木──大樹の子供たちがいました。 「……ええ、ええ、解っています。……たとえこの森を焼き払ってでも……この命を守り抜きましょう……」 * 「……分かりましたわ。つまり、村上さんが囮をされている間に、忍び込めば良いのですわね?」 「ち、違いますっ!」 得意げな顔の白百合会会長アナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)に、会計の村上 琴理(むらかみ・ことり)は慌てて手を振りましたが、アナスタシアはその口を閉じようとはしませんでした。 「だって……私が一緒に着いて行っても、不審ではありませんの? それに万が一、彼が殺人者だった場合、関与を疑われても面倒ですものね」 「忍び込む方が違法だと思うんですけど……それに、私は、その、迷惑をかけてしまうかもしれないと伝えただけで、別に協力してくれなんて言ってません!」 ちっちっち、とアナスタシアはどこで覚えたのか、指を振ってみせました。 「あら、そんなこと気になさっているの? どうせすぐに『彼の家』になるんですもの、貴方から後で話のひとつでもしておけば、問題なんてありませんわ。……ということにしておいてくださる? 現場検証は捜査の基本中の基本ですわ!」 ──ヴァイシャリー家の古い商家のひとつ、シャントルイユ家の後継ぎフェルナン・シャントルイユ(ふぇるなん・しゃんとるいゆ)。 彼は、同じくヴァイシャリーの貴族ジェラルディ家と見合いをし、婚約は間近と思われていました。 しかし少し前のこと、ヴォルロスにあるジェラルディ家の別荘を訪れたフェルナンは、そこで殺人を犯してしまったと、琴理に打ち明けたのでした。 「大体、別荘に行く前からの記憶からして怪しい、というお話じゃありませんの。いくらそのジルド・ジェラルディさんが妻を早くに亡くしていて、溺愛する娘が望むからと言って、そんなついつい前後不覚になって殺人まで起こすフェルナンさんとそのまま結婚させますかしら? 怪しいですわよ。 それにもしフェルナンさんが殺人犯でも、それなりの事情なり、魔法や催眠術をかけらて操られたなり、酩酊していて転んで偶然何かにぶつかったり……とにかく『何か』あるはずですわ」 「……でも、検証と言っても、流石に死体はその日のうちに片づけられたんですよ? しかも被害者はジェラルディ家の使用人ですし……忍び込んでおいて、聞いて回る訳にもいきませんよ?」 別荘といっても貴族だけあってお金がかけられるのか、屋敷は鉄の柵に囲まれ、門にも内側から鍵がかかっています。屋敷もレンガ造りの三階建てで、ちょっとしたお屋敷でした。現場の部屋を探すだけでもひと苦労でしょう。フェルナンはどの部屋で、とか、そういったことまでは話しませんでした。 フェルナンが直接ジルドさんに聞いた方が早い──と言いかけて、ふぅ、と琴理は息を吐きます。 彼が彼女に殺人を告白したときの、激しく動揺し、取り乱した様子を思い出したからです。そして、その後は話しかければ答えるものの、仕事の量も大幅に減らし、遠くを見ているような目でぼんやりとしていて、無表情で……。 琴理は彼が犯人ではないと信じていますが、だからといってその場にいなかったのに無実を証明することなどできません。 「……それに真犯人がその辺をうろついていたらどうするんですか?」 「べ、別に……絶対、忍び込むとは、言ってませんわ。……近くの聞き込みだけでもできれば……。そ、それに私ひとりではありませんのよ。力を貸してくれる方を探してみますわ」 アナスタシアの声のトーンが落ちます。彼女にも、少し、怖い気持ちがありました。お遊びではない、小説でもない、『本当の』殺人事件なのですから。 「ともかく! 百合園の生徒が困っていたら助ける──それが生徒会と、少女少年探偵団の使命ですわ!」 それでも気丈を装って、アナスタシアは宣言します。 琴理はそんな彼女に頭を下げると、 「それでは、くれぐれも気を付けてお願いします。私は、予定通りフェルナンの別宅で、婚約者のレジーナ・ジェラルディさんとお会いしてきます。お姉さんもご一緒だそうですから、さりげなく当時の状況を聞いてみます。 勿論、パートナーが婚約するにあたって、どのような方なのか知っておきたいですし」 それに、彼女がパートナーから聞いた言葉はもう一つありました。 婚約者から、時折感じる小さな違和感。別人ではないかと思われるような、その正体を確かめたいと思ったからです……。 担当マスターより▼担当マスター ▼マスターコメント
こんにちは、有沢です。 ▼サンプルアクション ・火船の計画に参加する ・一足先に樹上都市へ行って怪物たちを足止めする ・殺人事件の謎を暴く ▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています) 2013年04月08日10:30まで ▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました) 2013年04月09日10:30まで ▼アクション締切日(既に締切を迎えました) 2013年04月13日10:30まで ▼リアクション公開予定日(現在公開中です) 2013年04月26日 |
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