ヴァイシャリーの街、屋外カフェ。
「うわぁ、珍しい素材がいっぱいだぁ。これって採取するのに数十年掛かる物だよね」
「会長、本当にレシピと交換に渡しちゃったんですね。会長の事だから内容は全て覚えているでしょうから別にいいですけど」
「シンリちゃん、今回は悪い子ね。交渉しても渡さないだろうからって猫になったヴラキちゃんをあそこのお家に行かせてレシピを盗み見させたりどれほどの効果なのか知っていて教えないとか」
調薬を極める事を旨とする調薬探求会の一員であるクオンとシノアに茶を楽しむオリヴィエが戻って来た会長であるシンリを迎えました。彼の手には大量の珍しい素材がありました。
「オリヴィエ、そもそも彼女達が作った物なのだから教える必要はない。調薬を嗜む者なら考えると実際に作製するのは違うと知っているはずさ。こちらはこちらで作るべき薬を作る。特別なレシピの効果の確認は彼女が起こす騒ぎでデータを取ればいい。こちらが作る特別なレシピは別の薬の実験用に……彼女にも忠告しておいたよ。邪魔者が近々来るから移動した方がいいと」
シンリは変わらずにこやかに話を続けます。名も無き旅団の手記に付属していた情報は中身だけを渡し本自体は手元にあります。
「さっさと帰ろうぜ。忍び込んだ時にあの女に魔法薬をぶっかけられて何か毛が抜けまくるし、帰って解除薬作らねぇといけねぇから」
「あたしも先に帰るね。素材は持って行くから……でも黒亜が特別なレシピの全貌を知ったら改良した凄い物を作るわね」
脱毛中の猫姿のヴラキと素材を抱えて守護天使であるシノアは飛んで行きました。
クオンは友愛会に在籍する兄会いたさ、オリヴィエはケーキヴァイキングを楽しむためにシンリは友愛会の動向見たさでこの場に残る事にしました。
薄暗い通りに佇む二階建ての家、地下実験室。
「私が持っていた三枚と教えられたレシピで全て揃った。肌身離さず持っていたあいつから奪って後は何かの旅団に話した奴がいたと予想はしていたがまさか私が入手した物とは別だったとは。とりあえず、邪魔者が来るとか言っていたから別の場所でゆっくりと作製してみるか。机上では危険と言われ、作らぬままレシピを分けたこの魔法薬を」
シンリと取引を交わした吸血鬼の女性は速やかに支度を調え、この家を出て行ってしまいました。
全てが終わった後、
「この街に特別なレシピを持ち逃げした魔法中毒者の裏切り者がいるそうですが」
「情報収集が得意な子が掴んだ情報だから間違い無いよ、会長。家の場所は判明しているから後は本人に会ったり探求会も探っているらしいからその情報収集に人を集めるだけだよ」
「……探求会がいるならクオンもいるかもしれないな」
調薬友愛会の会長ヨシノ、ウララ、シュオンが訪れ、レシピを速やかに回収するべくまずは人手を集めるために動き出していました。
調薬探求会がすでに用事を済ませ、中毒者が消え去っているとも知らずに。