真っ白なフィールドの中、赤と青の旗が風にはためいていました。
「……どうしてこうなったのかなぁ?」
高さ1メートル程の雪山に刺さったそれらを見つめ、孤児院の少女ルルナは思わずため息をつきました。
『絶対に負けぬ!』
『それはこっちのセリフだ!』
上空で睨み合う『雪の女王』と『冬将軍』……古き精霊達と。
「……そのフラッグ、いただきますから」
「はいどーぞ、なんて渡さないんだからね!!」
雪原で睨み合うエンジュと市倉 奈夏……蒼空学園に所属するパートナー達と。
青い旗を守り赤い旗を奪おうとするのは、雪の女王とエンジュ達、青チームで。
赤い旗を守り青い旗を奪おうとするのは、冬将軍と奈夏達、赤チームで。
これから始まるのは、旗を奪い合うゲームでした。
ただ、皆で楽しくゲームしよう!、という雰囲気でない事は確かなのでした。
「……どうしてこうなったのかなぁ?」
そもそもコトの発端は、ルルナ達孤児院の子供達が、近くの山の山頂に来た事でした。
先日の風邪の流行の折、薬草を分けてくれた雪の女王に礼を言う為でした。
「「「「「薬草を分けてくれて、ありがとうございました」」」」」
『義理がたい事じゃ。まぁ折角足を運んだのじゃ、ゆっくりして行くが良い』
雪の女王の言葉に子供達は喜び、女王の庭……真っ白な広い雪原へと駆けだしていきました。
「エンジュお姉ちゃん、こっちこっち」
「……そんなに急いだら危ない、です」
子供達に手を引かれるエンジュに浮かぶ柔らかな表情、それを目にした奈夏の顔が微かに歪んだ事にルルナが気づいたのは、偶然でした。
「思い出せば道すがら、空気悪かったよね」
山頂までルルナ達を護衛というか引率するという仕事の、奈夏とエンジュでしたが、子供心に「あれ?」と思う程ギクシャクしていました。
「ケンカしたの?」
「う……ううん、ケンカじゃないけど」
「……エンジュお姉ちゃん、随分と良い顔するようになったね」
「うん、そう……なんだけど」
奈夏の目から見て、エンジュは随分と積極的になりました。
子供達もそうですし、他の人達とも仲良くしている……それは奈夏が望んだ事でした。
自分の考えで自由に行動する……人間らしく。
それはとてもとても喜ばしい事なのです。
なのに奈夏の胸を掠めるのは、一抹の……。
「それってヤキモ……ううんえと、パートナーなのに?」
「? パートナーだけど?」
「………………」
ルルナが今まで見てきたパートナー達は皆、信頼していたり認め合っていたり、それぞれ関係性はあるものの、固い絆で結ばれていました。
なのでこんな風にパートナーとの事で不安になって悩むのは、不思議な感じがします。
「とりあえず、10も下の子供にグチるより、本人に直接ぶつかればいいと思うけど」
つい言ってしまった時、上から『声』が聞こえてきました。
『これは随分と……あり得ない光景だな』
見上げれば、そこにいたのは冷たい風をまとった精霊でした。
雪の女王と同じ古い精霊は、冬将軍と呼ばれていました。
この地方に冬を運ぶ冬将軍は、仕事終わり……春が近づく頃合いに引きこもりの友人を訪ねていました。
年に一度、自分が訪れなければ、他者と会話する事さえない友人。
なのに今年の賑やかさは一体どうしたことでしょう?
『どういう風の吹きまわしだ?、お前みたいな人間嫌いの引きこもりが』
『誰が引きこもりじゃ、誰が』
『いやお前が。というか長い事ワシ以外、誰も訪れる事などなかっただろう』
冬将軍の指摘に雪の女王の眉間にシワが刻まれました。
『あぁだが、いい傾向だ。お前もようやくワシの言っていたように人と……』
『ふん、お主とは何の関わりない事、これらと関わろうと思うたは妾の気まぐれよ』
図に乗るでない、とぴしゃりと告げた雪の女王に、今度は冬将軍の機嫌が急下降です。
『なんだ、その言い草は。ぼっちのお前を心配して毎年毎年足を運んでやる心優しい友に向かって』
『誰が心優しい友じゃ、誰も頼んでおらぬわ』
『なんだと!』
『なんじゃ?!』
アッと言う間に言い争いに発展した精霊達、その周りで冷たすぎる風が渦を巻き始め。
「あの精霊の物言い……高圧的すぎです……雪の女王は自分から子供達を迎えた……優しい精霊です……」
「……そうかな? 雪の女王さまの言い方も冷たすぎない?」
「奈夏は雪の女王が悪いと……そう言うのですか……?」
「そうじゃないけど……冬将軍さんの気持ち、ちょっと分かるなって思って。エンジュには分からないだろうけど」
「!? 奈夏は最近……おかしいです……いつもの奈夏と違います……」
「……分かったような事、言わないでよ!?」
更に地上でも、奈夏とエンジュが口げんかを始めるという混乱ぶりです。
最近ちょっと苛々していた事もあり、こういうケンカは初めてな事もあり、精霊達に負けず劣らずヒートアップしていく二人。
「ストップ!?」
どんどん加熱していく、反面、天気というか天候はどんどん悪化し吹雪めいていくそれぞれを止めたのはルルナでした。
「こういう時はケンカ両成敗! じゃんけんとかで負けた方が『ごめんなさい』するのよ」
『……なるほどの、ならば勝負じゃ!』
『受けて立とう!』
「私も……協力します……」
「冬将軍さん、助太刀するわよ!」
「……あれ?」
ルルナが首を傾げた時には既に遅く。
勝利のフラッグを掴んで相手に『ごめんなさい』を言わせよう!、勝負は決定したのであった。
チキチキ☆勝利のフラッグを掴んで相手に『ごめんなさい』を言わせよう!、ゲーム
・雪の女王の青チーム、か、冬将軍の赤チーム、を選んでエントリー
選ばずエントリーの場合、数の少ない方に振り分けられます
・フールドの左に赤い旗が2本、右端に青い旗が2本
真ん中に赤い旗と青い旗が1本ずつ
・敵チームの旗3本を先に奪った(雪山から抜いた)方が勝ち
・自チームの旗を掴む(移動させる)のはNG、但し不可抗力で触れたのはセーフ
・敵チームへの攻撃・妨害行動は可、但し頭部への攻撃・危険な行為はNG
・精霊は妨害・防御のみを行う
『負けて悔し泣きしても知らんぞ』
『勝つのは妾じゃ!?』
「よし、頑張って直接ぶつかる!」
「……意味が分かりません」
「うん奈夏お姉ちゃん、直接ぶつかるって意味が違うよね」
「……ねぇルルナちゃん、私達は?」
「そうね……巻き込まれてケガしないように、雪像作ったり雪に絵を描いたりしてようか」
色々な気持ちが交錯する中。
「……どうしてこうなったのかなぁ?」
どこか遠い目をしたルルナはもう一つ、大きく溜め息をついたのでした。