一会→十会 —終わりの無い輪舞曲— リアクション公開中! |
シナリオガイド踊れ、今宵は欲望も思惑も全ては色彩に変わるだろう
シナリオ名:一会→十会 —終わりの無い輪舞曲— / 担当マスター:
菊池五郎
* * * 空京の街に夕日が落ちる少し前の時間。 『豊浦宮』の応接室で、豊美ちゃんはハインリヒ・ディーツゲン(はいんりひ・でぃーつげん)が広げた資料を難しい顔で見つめています。 「――魔法石の専門家の解析では、亜人ゴズの採石場の魔法石はパラミタに現存する魔法石とは、大分性質が異なっているらしい。 端的に言えば“機晶石に近いもの”だそうで、そのまま空京大学の機械工学・技術専攻ナージャ・カリーニン(なーじゃ・かりーにん)博士に回しておいたよ。 結果が出次第――まあ出なくてもこちらに連絡が来る予定。細かい日程警備担当者連絡先その他はそれに纏めてあるから、詳しくは馬宿さんにでも読んで貰うとして…… ああ、丁度良いところに」 ハインリヒの視線につられて皆が振り返ると、飛鳥 馬宿が部屋へ入ってきました。 「おば……豊美ちゃん、来客です」 馬宿が案内してきた見知った顔達に緊張した表情を解いて、豊美ちゃんは温かく彼等を出迎えます。 「皆さんようこそですー。はるばるこんな遠い所まで、どうされましたか?」 訪問者の破名・クロフォード(はな・くろふぉーど)とシェリー・ディエーチィ(しぇりー・でぃえーちぃ)は、孤児院『系譜』の代表と、子供達の中で最年長の少女です。 系譜は荒野の中に有り、彼等が街へ出てくるのは大変珍しい事でしたから、豊美ちゃんも首をちょこんと傾げます。 「こんにちは、豊美ちゃん、アレクさん。 “荒野に引き篭もっていて一人でバスも乗れないのは、心配の原因になるから早めに慣れておきなさい”ってマザーの勧めでね、私達今は時間を見つけては色んな街を観光してるの」 自分達の現状はこういう感じなのよ、そう説明しながらもついちらちらと盗み見てしまうのは、シェリーの読んでいた物語に出てくるような美しい青年ハインリヒで、彼の視線が此方を向いた事に、シェリーは思わず両手で自分の口を塞ぎました。乙女の理想の実体化は、いつ見てもシェリーには鮮烈過ぎます。 しかし、此処に居るのは朴念仁の集団。端正な顔立ちに微笑まれただけで驚き恥じらう少女の憧憬に気づくような人物は一人も居らず、シェリーはゆっくりとハインリヒの前を通過し挨拶も頭を下げることくらいしか出来ませんでした。 アレクなどは既に扉の横で挨拶のタイミングを待っているハルカ・エドワーズ(はるか・えどわーず)へ、興味を切り替えています。 「ハルカちゃんは迷子か」 「こんにちは。はなさんにばったり会って、皆さんに会うというので、ハルカも挨拶に来たのです」 相変わらずハルカ自身には迷子の自覚がないようなので、アレクはそこにもう一度触れる事はせずに、 「うん、俺達も会えて嬉しいよ」と答えました。 「ハルカ、そろそろ時間だろ。俺で良ければ『送ろう』か?」 破名は彼の事情を知らないシェリーがいる手前言葉を選びましたが、途中で再び迷子になるよりはと、空間を瞬間移動する破名の能力――『転移』で目的地までの送迎を申し出ます。 「ハルカさんはどこかへ行かれる予定があるのですか?」 「招待状を貰ったのですが、行ったことが無い場所なのです」 ハルカは、バッグから一通の招待状を取り出して見せました。 シンプルなデザインのそれは、今時珍しい書簡でした。 開いてみると、それは場所と時刻以外『マスカレードに招待する』という旨のみの内容で、差出人の名前すら明記されていないものでした。 部屋に居た全員が怪訝な表情で招待状を見つめ、それから互いに顔を見合わせました。 幾らなんでも如何にも過ぎる、と思ったのです。 「ハルカさん、その手紙を少し、見せてもらってもいいですか?」 ハルカから手紙を受け取った豊美ちゃんが、それを片方の掌に乗せ、もう片方の掌を被せるようにしてかざします。 「……ほんの少しですけど、この魔力……ヴァルデマールのものですね」 険しい顔をしてそう豊美ちゃんが言いました。誰にでも優しい豊美ちゃんも、流石にヴァルデマールの事は『さん』を付けなかったようです。 「これはおそらくヴァルデマールの罠でしょう。行けばまた事件に巻き込まれるのは確実……私は行かない方がいいと思います」 豊美ちゃんの言葉に皆は同意しますが、アレクは豊美ちゃんの手の中の手紙を見つめて暫く、ハルカへ向き直りました。 「ハルカちゃん、この手紙を受け取ったのはあなただけか?」 「友達にも貰ったと言ってた人がいたのです。現地集合なのです」 「現地集合……ねぇ」 表情は然したる興味もなさそうに、しかし言葉には色々な意味を込め、アレクは呟きます。 「……手紙が指定した時刻に近付いている。既に現地入りしている者も居るだろう。見て見ぬ振り、は残念ながら出来ないようだな」 時計が示す時刻を確認しての馬宿の反応に、アレクは選択肢は無いという顔で起立します。 「最初から俺達も招待してくれたらよかったのに」 「メスユニフォーム(*晩餐用制服)にボウタイして行ったのにね」 ハインリヒが軍服の襟を摘んで皮肉を言いながら、上官の横に並びました。 「まぁいいや。ハルカちゃんは? この手紙、差出人はイカレた野郎だよ。危険があると分かっていても行くか?」 流し目で見下ろすアレクは友達を助けに行こうと暗に言っているようで、ハルカは曇りの無い瞳で彼を見つめ返しました。 「はい。皆と、現地集合なのです」 「うん。宛先は俺達じゃないから、門前払いの可能性もあるが、俺達もついていこう。じゃあ詳しい話は道中で。馬宿、連絡はこの間指示した通りで頼む。終わったら此処で待機しててくれ。破名」 「わかった。多少増えても差したる負担でもないしな」 アレクに呼ばれた破名は承諾し、続いて立ち上がろうとした瞬間、白衣の裾をシェリーに掴まれストンと椅子に戻されました。 酷く驚き声を飲んだ破名をシェリーは思いつめた顔で見上げます。その時点で「シェリーも此処で待っていろ」との言葉を伝える機会を、破名は失ってしまいました。 「私も行きたいわ」 ついて行きたいとシェリーは破名を見ますが、瞳が時折ちらっとハインリヒの方へと動きます。そんな細やかな動きを破名が察するわけがなく、しかしシェリーの方は破名という大人の扱いを段々と心得てきたのか、“反対される前に!”と捲し立てる様に続けました。 「マスカレードっていうのは仮面舞踏会の事よね? アレクさんは学校ではダンスパーティーがあるって前に言ってたわ。綺麗なドレスや優雅で……それから破茶滅茶なダンスに私も興味あるの! 是非付いて行きたいわ! それともクロフォードは、何も知らないままで、私に恥ずかしい思いをしろと?」 少女の訴えは場にはそぐわない浮いた内容でしたが、体験させてと言われれば破名は強く出れず、小さく唸ります。恥ずかしい思いをさせない為にあちこち観光している手前、“危ないから”は説得の理由としては薄すぎます。だからと言って、曲がりなりにもシェリーの保護者である破名が、説得の手をアレクや豊美ちゃんに求めるのもお門違いでしょう。 絶対ついていく! という少女の前のめりの姿勢に何故そんなに躍起になっているのか解からず、唸り続けた結果、シェリーがそういうならそれだけの理由があるのだろうと己を納得させて、破名は妥協することにしました。 「わかった。目的地まで俺が良いというまで目を瞑っているのと、豊美ちゃんやアレクの指示に従う事を約束するなら許可しよう」 保護者の許可が降りて、シェリーは何度も頷きます。上官の耳打ちを受けたハインリヒは、会話の終わったタイミングでさりげなくシェリーの手を取り膝を折ると、少女の顔を柔らかい笑顔で見つめます。 「フロイライン、愛らしい君の隣に立つ栄誉を、僕に与えてくれる?」 懇願にシェリーは飛び上がらんばかりの勢いで驚き、破名は目を丸くしますが、上官が部下に命じた『エスコート』は勿論『同伴』ではなく『護衛』の意味です。豊美ちゃんとハルカが不思議そうな顔をしているのに、アレクはそこまでやれとは命じていないとゆっくり首を横に振りました。 * 招待状に示されていた場所には、洋風の宮殿のような建物がありました。 周囲の土地をよく知る者であれば、そこに――昨日までは空き地だったこの場所に、 宮殿があることに違和感を覚えたかもしれません。しかし、往来を歩く人々は誰一人、違和感すら覚えなかったのです。 それ程にこの魔法は強力でした。 宮殿の大広間。踊り続ける契約者を横目に、赤いドレスと紫のドレスの少女がくすくす笑いを漏らします。 「見て見て、インニェイェルド! 彼等は私達の作り出した夢の魔法に、ちっとも気付いていないみたいだわ! 魔法の舞踏会に閉じ込められて、永遠に踊り続けなければならないというのに、ちっとも気付いていないみたいだわ!」 「本当ね本当ね、マデリエネ! なんて愚かなのかしら! あんな奴等がヴァルデマール様の脅威になるだなんて笑っちゃう!」 「ねえねえ、インニェイェルド? こんなに簡単なのなら、私達がやっつけちゃえばいいんじゃないかしら?」 「素敵ね素敵ね、マデリエネ! 私達、契約者を皆殺しにしてヴァルデマール様に認めて頂きましょう! そうして私、ヴァルデマール様のお嫁様になるの!」 「あらあらインニェイェルド、ご冗談。お嫁様になるのはこの私!」 話が決まれば早速と、双子の姉妹、赤のドレスのマデリエネ・ビョルケンヘイムと、紫のドレスのインニェイェルド・ビョルケンヘイムが踊りの輪の中に飛び込んで行きます。 が、ドジな二人は互いのドレスの裾を踏んで、顔からずべっと転んでしまうのでした。 (……参ったわね。おかしい、って思ってはいたはずなんだけど……) 途方に暮れた、そんな様子で『INQB』の魔法少女、馬口 魔穂香がため息を吐きます。彼女の下にも招待状が送られ、一旦は思い留まり豊美ちゃんへ報告しようと思っていたはずでしたが、気付けば普段なら絶対に着ないであろう衣装に身を包み、仮面を被った誰かも分からぬ者とステップを踏むなどしていたのです。 (きっと豊美ちゃんなら異変に気付くわよね。六兵衛は……どうかしら) 豊美ちゃんへの信頼と、パートナーである馬口 六兵衛への信頼? を抱きながら、魔穂香は何が起こるか分からない場所で一人、佇んでいました――。 「……すやすや……魔穂香さん、そろそろ部屋から出た方がいいッスよ……」 そして魔穂香の予想? 通り、六兵衛はお腹を出した格好で日々の仕事の疲れを癒やすが如く、長々とした眠りについていたのでした――。 * 「ゴズがやられたようだな……」 「フッ、奴は我ら『君臨する者』の中でも最弱。……だが、敵も決して支配される者ばかりではないというところか。 アッシュも名を取り戻し、着実に力を付けている。負けずとも少々、手間だな」 招待客で埋まっていく会場を霧の中に映し出し、自らを『君臨する者』と称した者たちが同じく『君臨する者』であったゴズを倒した契約者を話題にしていました。 「しかし双子姉妹のこの能力。 『永続する夢』か――。終わらぬ快楽とは、女とは恐ろしいものだな」 大きく映し出されたをある君臨する者が契約者と踊るビョルケンヘイム姉妹を指差すと、彼等は下卑た笑い声をあげます。 「知ってる? 二人は今日、ヴァルデマール様に内緒で勝負をつける気らしい。双子のどちらが優れているか。どちらがヴァルデマール様に相応しいか!」 嗤っちゃうよねと君臨する者の一人が、隣へ小声で話し掛けました。 「そのような勝手な事をして、ヴァルデマール様の逆鱗を買わねばいいが――」 全く心配などしていないようなトーンで、話し掛けられたものが呟くと、重く大きな扉が左右に開きます。 乳白金の髪の間から覗く紫色の瞳は、暗い色を湛え濁りきり――一目で不快感を持つような、そんな邪悪な少年。 彼こそが、『操る者』ヴァルデマールです。 「……僕たちはこの世界の、特異な能力を持つ『契約者』と呼ばれる者たちの素性を知らない。 これまでは歯牙にもかけぬ、そのつもりでいたけれど、ゴズまでもが打ち倒されたとなれば、これ以上の無視は慢心となるだろう? だからそう! マスカレードだ!! お前達、今宵は彼らの一挙手一投足をその目で確かめよ。 来るべき時にぬかる事のないように、ね」 くすりと笑い切られた主の言葉を、彼らは跪きながら心に留めます。会場の者たちが付けているように彼らもまた、仮面を被っていました。 「さあ、舞踏会の始まりだ」 そしてヴァルデマールも仮面を被れば、彼の視界は彼が用意した舞台の中で暗躍する『傀儡』が見るものへと変わりました――。 担当マスターより▼担当マスター ▼マスターコメント
皆さんこんにちは。 ▼サンプルアクション ・抵抗を試みつつ、マスカレードの時を過ごす。 ・マスカレードを楽しむフリをする。 ・パーティーを楽しむ ▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています) 2014年05月08日10:30まで ▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました) 2014年05月09日10:30まで ▼アクション締切日(既に締切を迎えました) 2014年05月13日10:30まで ▼リアクション公開予定日(現在公開中です) 2014年05月27日 |
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