百合園女学院へ

薔薇の学舎

校長室

波羅蜜多実業高等学校へ

Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

リアクション公開中!

Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ

リアクションが公開されました!

リアクションの閲覧はこちらから!

リアクションを読む

参加者一覧を見る

シナリオガイド

……舞台は厳寒の積雪地帯、幕開くは追走と探索の物語
シナリオ名:Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ / 担当マスター: 桂木京介

 今の季節は一体いつなのか――そんな気持ちにも、なります。
 吹きすさぶ風は剃刀のように冷たく、息をするだけで唇が切れ、赤い血がこぼれそうになります。しかもその血は流れるやたちまち、紅玉(ルビー)のように凍り付いてしまうことでしょう。
 足元は雪、来し方も行く末も一面の雪、見渡す限り純白の世界です。歩めば新雪の上に、はっきりとした足形が残ります。しかしその足形にしたところで、わずかな時間でたちまち、あらたな雪にうずもれていきます。なぜなら薄墨を流したような空より、とどめもなく綿雪が散り降りてくるからです。
 ここはヒラニプラ山脈、時季に関係なく万年雪が積もり、雪の上に雪が降りるという厳寒の高山です。下界の季節など関係がありません。吹雪も日常、雪崩も茶飯事、太陽は霞がかって弱々しく、雲は疲弊した鉛のように重くのしかかる常冬の地なのです。
 白また白のこの世界に、ほんのわずか点のように、二つの人影が歩みを進めていました。

 くちゃくちゃという音がします。
 それに、わずかに甘く、刺激的な香りも。
 黄金色の髪の少女が、ビーフジャーキーを噛んでいるのでした。脂質の少ない赤みの牛肉を、たっぷり調味料を揉み込んで燻製にした棒状の保存食料です。少女は、乾燥しきってパリパリのジャーキーを無造作に口に入れると、一部を前歯で囓り取り、機械的な動きをもって奥歯で噛み砕きます。噛みながら少女はラピスラズリのような蒼い目を歪め、厚手の手袋をした手に双眼鏡を握りました。
「…………」
「見えるか、何か?」
 ビーフジャーキーを咥える少女の隣も、やはり少女なのでした。といっても受ける印象は随分異なります。ジャーキーの少女は碧眼金髪、十歳前後と見え、あどけないながら仏蘭西(フランス)人形のような整った容姿をしていました。ところがもう一人の少女は随分と大柄です。十七、八ほどでしょうか、並の男性なら見劣りするほどの長身、つやのある肌はカフェオレ色で、人なつっこそうな大きな瞳も、消し炭のようなダークアイなのでした。二人とも似たような黒テン毛皮の防寒着を着込み、オオヤマネコの毛で作ったフードを頭から被っているのですが、ペアルックというには身長差が大きすぎ、なんともちぐはぐです。
 ジャーキーの残りを口に放り込み、幼い少女がこたえました。
「雪景色の白兎、といったところかしら」
「うさぎ?」長身の少女は目を輝かせました。「双眼鏡、貸す。ワタシ、うさぎ、好き。見たい」と、彼女が双眼鏡に触れたので、背の低い少女はその手を払いのけました。
「このバカ女! なに文字通り取ってんの! 『なにも見えない』って意味のたとえよ、たとえ!」
 幼い見た目とはうらはらに、なんとも厳しい口調です。大柄な彼女――塵殺寺院の機晶姫クランジΡ(ロー)はうなだれました。
「うう……ワタシ、ばか」
「わかってるのなら黙ってなさいよね。ほら、行くよ」
 ふんと鼻を鳴らして、幼女姿の機晶姫クランジΠ(パイ)は、毛皮のブーツで雪を踏みしめます。
「まったく……こんなところで身を潜ませるなんて あいつも手間かけさせてくれるわ。なんの因果でこんな雪山ン中……」
 なおもブツブツとパイは不平を口にしていましたが、ややあって、
「ちょっと、なんか言いなさいよ」
 ローを見上げ声を上げたのでした。きっ、と目を怒らせています。
「でも、さっきパイ、黙れって……」
「相づちならいいの、相づちならっ! でないと私、ずっと独り言してるみたいになるじゃない!」
「うん。ならやる、パパンガパン、って」
「それは相づちじゃなくて『合いの手』でしょ! まったく、バカね、あんた」新たなビーフジャーキーを懐から取り出し、はっしとその端を噛みしめながらパイは言いました。「バカすぎて、こないだみたく単独行動なんてさせらんないわ。今日はちゃんと付いてきなさいよね」
 言葉に反してその口調は、微妙に笑っているかのようでした。
「うん。ワタシ、パイに付いてく」
 ローもまた、大きな口で笑むのです。

 *******************

 この場所も、ヒラニプラ山脈のどこかです。
 ただし、パイやローのいる場所からは、山をふたつ隔てた遠い箇所になります。
 凍り付いた壁面を滑り降りるようにして、頑固そうな老人が単身、雪焼けした肌に風を受けながら歩みを進めています。眼鏡をかけていますが目はアーモンド型で鋭く、分厚い防寒着の上からでも、腕や脚はぱんぱんに膨らんでおり、ぎっちりと鍛え上げた肉体がうかがえるかのようでした。背には猟銃があります。この銃は、老人と同じくらい古びているようです。そして老人と同じく、見た目は古いけれど矍鑠(かくしゃく)と、鈍い光を帯びているのでした。
 老人は山中に独り暮らしです。流行病で息子が死ぬまではまだ、いくらか麓の村とも交流があったものの、今では年に数回程度しか降りてこなくなりました。村ではもう、彼の本名を正確に覚えている者も少なくなっています。現在の彼は、ハンターを意味する現地語で呼ばれるのみでした。老人は生活のために動物も狩ります。ですが、彼の本当の獲物はただひとつ。
 このとき老ハンターは吹雪の向こうに、なにか大きなものの気配を感じています。
 彼の目は、少年のように輝いていました。
 ザナ・ビアンカ(白い牙)――それはこの地方に伝わる伝説の巨獣、大抵の伝説がそうであるように、存在そのものが作り話だと思われています。憶測混じりの目撃談だけなら多数、子どもを寝かしつけるための作り話はなお多く、話に出てくる獣の姿を集めるだけで、一冊の図鑑ができそうなほどです。獣の正体は大型の霊長類だという噂があります。龍の眷属という伝承も。ですがいずれとて、これという確証がないのです。ただこの地域には、雪道に迷ったハンターが姿を消し、無残に食い千切られた死体となって見つかるという事件が何度かありました。
 老人は銃を背から外し、両手で構えて斜面を滑走しました。この吹雪です。彼の接近を相手は、感づく暇もないでしょう。
 ところが。
 唐突に雪が止みました。氷を削るスパイクシューズも、ジャッ、という音を立てて急停止します。
 それとともに、寂滅とした沈黙が訪れました。
 老人の肌は火照っていましたが、その首筋を流れる汗は氷のように冷たいものでした。
 黒く見え隠れしていた巨大な姿が、忽然と消失していたのです。
 ですがそれも、短い瞬間のことでした。
 老人の口から掠れた叫びが洩れました。同時に真っ赤なものが口からほとばしり、雪に落ちてこれを染め上げました。
 このとき彼が思ったのは、自分が死にゆくことでもなく、ましてや、妻と息子と暮らした短い夏のような日々でもなく、ただ、(「違う」)という絶望的に短い言葉でした。
(「違う……こいつが、こんなやつが……」)
 最期の力を振り絞り首を巡らせた老人の目に、彼の人生に引導を渡した存在が映り込んでいました。
 それは機械で、脚長蜘蛛のようなシルエットをしていました。足の一本一本は傘のように綺麗に折り畳まれていて、その構造は自然界の蜘蛛さながらに美しく、機能的で、そして本物より遙かに巨大でした。一本の脚を伸ばすだけで老人を背から、串刺しにして案山子のように氷河に突き立て、それでも余るほどに。
 機械の巨大蜘蛛は黒を基調とし、斑状にショッキングピンクが入り交じった目に痛い彩色です。これだけでもなかなかに悪趣味ですが、八つの目のようなレンズとともに、そのボディに据えられているものはもっと悪趣味でした。
「R U(are you) dead yet? ネエ、死んダ?」
 かぱっ、と口が開きました。胴中央に人間の顔が埋まっているのです。いや、両目をぐるぐると動かし、だらりと舌を出してひきつったような笑い声を上げているところからすると、ただの人間ではありますまい。きっと機晶姫の頭部パーツでしょう。はっきりした目鼻立ちをした少女です。ウルフシャギーにした髪は蛍光色の桃色でで、ちらほらと青のアクセントを入れていました。ハスキーですが調律の狂ったバイオリンのように上ずった声で、
「死んダ? ネエ、ネエったラ?」
 謡うように繰り返しながら、機晶姫の顔を持つ蜘蛛は別の脚を振り下ろしました。老ハンターの腕が切断され、スプリンクラーのように生温かい血液を撒き散らしながら飛んでいきました。その瞬間にはもう、さらに別の脚が、老人の足首を吹き飛ばしています。
「死んダ? 死んダ? 死んダ? 死んダ? 死んダ? アッハッハハ」
 ざくっ、ざくっ、ざくっ、とリズミカルに、包丁が凍った肉を切るような音がしました。
 アハハハハ……その音を覆う気の触れたような笑い声は、やがて再び巻き起こった吹雪にかき消されました。

 この場に目のいい人がいれば吹雪の合間に、蜘蛛怪物の影が一度、全部の脚を曲げて跳躍したのが見えたかもしれません。
 その人に土地勘があれば、蜘蛛の跳んだのは山を下る方角で、その先に小さな村があることも思いだしたかもしれません。

 *******************

 教導団、執務室。
 冷たい印象のあるこの部屋に、やはり冷たい印象のある団長、金 鋭峰(じん・るいふぉん)がいるというのは不思議と収まりがいいのです。
「聞こう」
 三白眼で階(きざはし)の上より、鋭峰はリュシュトマ少佐に視線を投げかけました。
「はっ」
 長身痩躯、壮年にさしかかりつつある年齢で、顔の右半分が焼けただれた男が、見た目に反して若々しい声で、クランジΥ(ユプシロン)を紹介しました。過去の戦いで彼女は教導団の捕虜となり、現在は『ユマ・ユウヅキ』という名でも呼ばれています。
「……間違いない。あれはΠ(パイ)とΡ(ロー)です」
 ユマは言いました。仮に与えられた、あまり似合わない教導団の制服姿で。
 一同の横には壁一面を占拠する大きな高解像モニターが据え付けられていました。そこに映写されているのは遠隔から撮影したと思わしき雪山の写真です。拡大に拡大を重ねぼやけた画面に、双眼鏡を手にしたパイと、それに従う長身のローの姿がうつっていました。
「鏖殺寺院の殺人兵器……お前の同輩だな」
「元、同輩です」ユプシロンは嫋やかに、それでも、風雨に負けぬ一輪の花のようにはっきりと答えました。
 鋭鋒は、その口調を無視して続けました。
「連中は、我ら教導団の喉元と言えるヒラニプラ山脈で発見された。何かを探しているようだが」
「存じません。理由も目的も。それは私から、リュシュトマ少佐にもはっきりと申し上げたはず……」
 ぴしゃりと彼女の鳩尾(みぞおち)のあたりを、一本の教鞭が打ちました。
「口を利くのは、閣下が認めたときだけにせよ」
 リュシュトマは左側――左側しかない――眼で、ユマに鋭い一瞥をくれました。
 鋭鋒は片手を挙げて少佐を制します。
「あの地域は年中雪が荒れ狂う危険地帯……現に、あの空撮を行った無人探索機は直後墜落したほどだ。述べよ、女。あの二体の能力を」
 ユマは語りました。Ρ(ロー)は自分やこれまでのクランジのように内臓武器こそ持たないが、地を割るような怪力を有すると。
 そのパートナーのΠ(パイ)は、外見こそ小さいが俊敏苛烈、短時間だが口から超音波を発することができるということです。この超音波は恐るべき破壊力を有し、数トンの大きさの鉄塊をも砕く……といわれていますが、ユマはその真の実力は見たことがないと言いました。
 ローはパイを信じ切り、あらゆる物事の判断を彼女に委ねているそうです。
「別件か同件かは判らんが、二体のクランジとは別に、機械反応を有する巨大な移動物体の反応もあったようだ。調査の必要があるな……」
「クランジ絡みの件であれば、イルミンスール、他、他校にも伝達するとの約がありますが」
 まさか約定を果たす気ですか、という言葉を言外に匂わせてリュシュトマが言いました。鋭鋒の言葉にもあったように、ヒラニプラは教導団のお膝元、他校に協力を求めるのは恥ともいえます。ですが、
「約は約だ。この鋭鋒、信義において連中に誹りを受けるほど落ちぶれてはおらん」
 鋭峰は屹然とした口調で彼の言を退けたのでした。

 信じたくなくてもあるのです。この季節でも極寒の世界は。
 それが此度の冒険の舞台、恐るべき寒さと悪夢のような雪、絶対零度の世界へ挑むのは誰でしょう?
 航空機はおろか、謎の力が働き方位磁針すら狂うという魔境は、人を容易に遭難させます。それでも挑むのは誰でしょう?
 人殺しのためだけに作られた怪物、クランジΠ、Ρと戦うのは?
 蜘蛛怪物を追うのは? ザナ・ビアンカを見つけるのは? 
 言うまでもありません、それはあなたです! あなたの挑戦をお待ちしています!






 *******************


 再び、クランジΠ(パイ)とΡ(ロー)。
 ビーフジャーキーを噛みながら、ついでに苦虫も噛みつぶしているように眉間にしわを寄せ、パイは辟易したように言いました。
「また吹雪なの……いい加減、誰か殺さないと収まりがつかないわ……」
「ねえ、パイ。ねえ、パイ」
 半分以上雪に埋まりながら、ローが黒い瞳で呼びかけます。
「一回言えばわかるわよ。バカ女」
「オミクロン、どうしてるかな。オミクロン、なぜ、一緒、しない?」
「あいつはね……」
 わかりきったことを、という口調でパイが答えました。
「あいつは、私たちが嫌いなのよ」 


担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。

 大阪オフで予告しました『雪山シナリオ』、満を持して(……かな?)登場です。
 もうじき夏だというのにこんな話は、少々季節外れかもしれません。いやしかし! だからこそ! という気持ちで涼んでいって下さい。
 厳寒の雪山を征く冒険行になります。
 ザナ・ビアンカと呼ばれる伝説の獣(?)の正体、機械の蜘蛛怪物、クランジΠ&Ρとの追走戦……色々と求めることができるでしょう。

 展開上このシナリオは、これまでの私の担当シナリオの流れや設定を引き継いでいます。
 ですがそれほど設定にこだわる必要はありません。クランジについては、桂木京介のマスターページを一読する程度で足りるでしょう。
 それに、まったくクランジについて知らない状態でも、雪山行軍で遭難するという楽しみ方(?)があると思います。想像してみて下さい、恋人と二人っきり、凍える寸前で「寝たら死ぬぞ!」などと呼び合い、抱き合う姿を……いや、そのまま死んだりはしないはずですが。

 それでは、次はリアクションでお会いするとしましょう。
 皆様のアクションを楽しみにお待ちしております。
 桂木京介でした。

▼サンプルアクション

・ザナ・ビアンカの正体を特定する

・クランジΡおよびΠと交戦する

・蜘蛛型機械の魔手が迫る村を救援に向かう

・吹雪舞う雪の中を歩む……そして……

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2011年05月26日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2011年05月27日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2011年05月31日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2011年06月16日


イラストを設定する 設定イラストを編集/解除する

リアクションが公開されました!

リアクションの閲覧はこちらから!

リアクションを読む

参加者一覧を見る