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Zanna Bianca II(ドゥーエ)

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シナリオガイド

厳寒の積雪地帯……再び。真実の目撃者となるか、運命の変革者となるか
シナリオ名:Zanna Bianca II(ドゥーエ) / 担当マスター: 桂木京介

 音もなく降っています。
 雪が、舞うようにして降っています。
 降り止む気配はありません。降り続けなければ白い雪面から、膿んだ傷口のように穢れたものが出てくるとでも言うかのように。
 ヒラニプラ山脈。真夏でも雪が残る高山地帯です。この地には冬以外の季節はなく、季節と言っても、『厳しい冬』と『非常に厳しい冬』くらいの区別しかできないのです。そしてこの場所は正確には山地ではなくその、麓です。麓の村落です。
 いえ、正しくは、『かつて村落のあった土地』なのでした。
 特に名の無い村でした。ヒラニプラの霊峰の、入口を守るかのような村でした。
 少し前、この地を大きな雪崩が襲いました。それも、数十年来なかった規模で、です。
 幸い、雪崩の速度はさほどでもなかったため、住人たちは難を逃れました。村に滞在していた教導団メンバーらに先導され、一人の死者も出さず退避することに成功したのです。けれど村は、潮が満ちた干潟のように、完全に雪に飲み込まれてしまいました。

 厚手のブーツが雪面を踏みました。細い体を教導団の冬装備で包み、剽悍な顔をフードからのぞかせるその男性は、教導団の佐官のようです。
「ここか」
 彼が目を向けると、その方角に、サーチライトのように鋭い光が走ります――実際にはそのようなことはないのですが、そうした印象を受けるのです。
 恐ろしげな容貌の軍人でした。
 痩せて背が高く、よくしなる鞭のような体つきです。彼の顔を見た人は、目にしたものを二度と忘れないでしょう。なぜなら彼の顔右半分は、赤黒く焼けただれているのですから。この凄まじい火傷は、彼がある戦いで捕虜になった折、拷問されてできたものだという話です。口の端は斜め上に吊り上がった状態で固定され、引きつった笑みを浮かべているようにも見えます。右の目は、黒い眼帯に隠されていました。
 彼はユージン・リュシュトマ、少佐です。壮年、あるいは初老と言っていい顔つきですが、鍛え抜かれた四肢は引き締まり、声も若々しいものがありました。
「復興作業は近日中に開始されます」
 やや緊張気味の声で、レオン・ダンドリオン(れおん・たんどりおん)が返答しました。レオンはリュシュトマ麾下で働くのはこれが初めて、色々と恐ろしい噂のある人なので、いささか硬くなってしまうのも無理はないでしょう。
「しかし村の復興をするにしても……」リュシュトマの補佐官が言いました。「住民は、我々からの援助をさほど歓迎しておらず……」
「はっきり言うがいい」リュシュトマ少佐は閑(しず)かに告げました。
「ハッ。むしろ、教導団の援助を迷惑と考えている住民もいるようです」
 この村落は教導団のお膝元にあるのですが、元来、独立不羈(ふき)の気概が残る土地柄であったことに加え、近代軍隊への不審が根強く、国軍たる教導団の存在を、こころよく思っていない風潮があるのです。全員がそうとは言いませんが、ひそかに、あるいは大っぴらに、団員を『制服組』と呼んで嫌っている住民もあるのでした。それに加えて以前の事件(シナリオ『Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ』参照)です。巨大な狼ザナ・ビアンカが出現し、雪崩を呼んで村を雪に埋めたのは、『制服組』が山に争いを持ち込み、それに対して大自然が怒った結果だと考えている住民も少なくないようです。
「とすれば、やはり我々の単独で復興を成し遂げるのは難しいか……」
 リュシュトマは淡々と述べました。
「団長に奏上して、他校からの協力も求める必要があるようだな」

 *******************

 ぽき、と音がしました。
 ぽき、あるいは、ぱきっ。アイスキャンディーの棒を折るような。
 涙が恐怖を和らげるという学説があります。赤ん坊が泣くのはそのためだと。この説に従うのなら、圧倒的な恐怖を前にすれば……言い換えれば、涙では緩和しようがないほどの恐怖に遭遇すれば、人は泣かないということになるかもしれません。
 少女は泣いていませんでした。年の頃は十三、四といったところでしょうか。泣かずにただ、震えていました。
 自分の右手の人差し指がぽきりと折られ、その皮ごとちぎり取られても、それをまるで、客席から舞台でも見ているかのように、ただ、青ざめて眺めていました。
 少女に痛みはありません。右手の肘から上の感覚がないのです。
 なぜなら彼女の肘から上は、食品のように冷凍されていたからです。何も感じられませんでした。
 ぽきりと折った指――これで六本目――を櫓状の小塔に乗せながら、クランジΛ(ラムダ)は言いました。
「あなた、タニアちゃんと言ったかしら?」
 この櫓は、すべて同様にして折った指からできていました。凍り付いているという特殊な状況のせいか、精巧な作り物のようにも見えます。
 タニアは頷きました。彼女は山麓の村からの避難民です。ある日、避難キャンプから連れ去られ、この状況に陥ったのです。あまりに急な変化なので、タニアは夢でも見ているような気になっていました。
「もう一度だけ訊くよ。いーい?」
 やや舌足らずな口調で、『ラムダ』のコードネームを持つ少女はタニアに顔を寄せました。
「Ο(オミクロン)を殺したのは、だぁれ?」
 ラムダは、年の頃だけならタニアと同じ程度でしょう。しかしタニアが、ごく平均的な、悪く言えばこれといった特徴のない容姿なのに対して、ラムダはあまりにも特徴的でした。透き通るような桃色の髪は、綺麗に外ハネカールしています。猫のように吊り上がった目をしており、年の割には随分とコケティッシュな印象がありました。瞳の中央も、猫のように細いように見えます。
「知らない……知りません……」
 タニアは、怯えながら首を振りました。
「ふぅん」するとラムダは、まるで当然のように言うのです。「ならキミ、死ぬしかないね……まぁ、どうせ死ぬしかないわけだけど」
 ぱっくりと歯を見せ、イヒヒと笑いました。あまりにあっけらかんとしているので、やはり現実味はとても薄いのでした。
「仕方ないなぁ」
 ラムダは、人間の指で作った悪趣味な櫓に、ふっ、と息を吹きかけて言いました。櫓にはたちまち霜がおり、まっ白に凍り付きました。ラムダの吐く息は、ものを瞬間冷凍させるほどの低温なのです。
「どうしようー?」
 椅子の背に背中を預け、だらん、と反り返ってラムダは言いました。ピンクの髪がゆさゆさと揺れます。音もなく小屋の扉が開いたのです。
 しばし、クランジΚ(カッパ)は黙っていました。小屋の柱にもたれ、腕組したまま動きません。ですがカッパは、黄金の仮面の下の目だけ動かし、ぽつりと口にしました。
「……オミクロンの仇討ちでもする気か、貴様らしくもない」
「オミクロンの仇? 冗談は休み休みにお願いね。あんなやつ、同じ塵殺寺院じゃなきゃ、あのノータリンの妹と一緒に、この子みたいな目に遭わせてたってば」何言ってるの、という口調でラムダは言いました。「ボクはね、契約者ですらない虫けら同然の人間にオミクロンが殺されて、クランジのブランド力を下げたことがむかついてるだけ。だから一番むかついているのはオミクロンなんだけどね本当は」
「そういうことか」クランジΚは身を起こしました。「自分は、左様な体面には興味がない」
 彼女の顔はその目以外、黄金の仮面に隠されています。その仮面も、両目のところがぽっかりと空いている以外は、なんの装飾もない表面です。綺麗な目の形のおかげで、かろうじて仮面の下にあるのが女性だということだけはわかるでしょう。しかし、黒い髪をなびかせている以外、その素顔を像する手がかりはまるでありません。
 Κは仮面に手をかけました。「自分は、村の復興に来た教導団の指導者を暗殺する。可能なら、オミクロンを殺した人間もな」
 Κが仮面をとったとき、一瞬、黄金の光に彼女は包まれました。
「それから、その女は殺すな」
 仮面の下の顔は、
「いざというときの人質になる」
 Κの仮面の下の顔は、今、縛られて拷問を受けているタニアと瓜二つなのでした。いえ、瓜二つなどという生やさしいものではありません。数時間前、捕まったばかりのタニアそのものです。背丈、服装まで同じでした。
 リョーカイ、とクランジΛは言いました。
「じゃあ、ボクは、Π(パイ)を捕まえて首だけちょん切って持って帰るよ」
 イヒヒ、と、また気味の悪い笑い方をしてラムダは続けます。
「ノータリンのΞ(クシー)は機械蜘蛛の体に据え付けてやって笑わせてくれたけど、パイはどうしてやろうしら? あいつ犬を怖がるから」
 ここは、かつてイサジという老人が住居としていた、ハンティング用の山小屋です。ラムダは、窓の外に目をやりました。そこには、金属で組まれた大型犬のようなロボットがうずくまっています。何頭もです。
「あの犬と首をすげかえてやろうかな」
「自分なら、犬の口の中に接してやる」
「やっぱり、キミのほうが酷い人だなぁ」
 イヒヒという声に背を押されながらタニアの姿を取ったΚは小屋の戸に手をかけました。
「ところで、どうしてオミクロンを殺した人間も追うの? 仇討ち?」
「……我らクランジに手を出した人間がどうなるか、恐怖を持って知らしめるためだ」
 Κの姿が消えると、ラムダは猫のような目を歪めて、タニアに向き直りました。
「さて、じゃあもう少し遊ぼっか? 子どもなんか絶対産めない体にされたりするの、好き?」
 タニアはか細い悲鳴を上げました。

 *******************

 荒れ狂う吹雪の中を、クランジΠは歩いています。
 防寒着は傷み、顔も汚れて酷い有様です。少し前まで彼女は、山中の秘湯を発見し、付近に潜伏していました。しかしそのままではいられません。
 ――ラムダがやってくる。
 機晶姫たる彼女に、本能があるのかどうかは謎ですが、けれどそれは、本能的な直感でした。
 ラムダがやってきます。自分を殺しに。
 口をぱくぱくとさせます。ビーフジャーキーを咥えているような気になっているのです。本物があればどれだけいいか。熱い風呂とビーフジャーキー……それさえあれば片腕をさしだしたって構わない。そんな捨て鉢な気分にすらパイは陥っているのでした。
 そんな彼女の頭上、山の斜面に、大きな双つの眼が、ぬっ、と出現しています。
 双眼は、鈍い光を放っていました。
 けれどパイは、ザナ・ビアンカの目が光っていることなど気がついてはいないのでした。


 現実は真夏。しかし、雪と氷に閉ざされた極寒の世界があるのもまた、現実なのです。
 ようこそ冒険の舞台へ。航空機はおろか、謎の力が働き方位磁針すら狂うという魔境へ。
 魔境の淵に暮らしていた人々に、希望の与えるのは誰でしょう?
 人の姿をとった怪物、クランジΛと戦うのは?
 無臭の毒のように潜入する、千の顔を持つ暗殺者クランジΚと戦うのは?
 狼巨獣ザナ・ビアンカとの決着をつけるのは? 
 そう、やはりそれはあなたなのです! あなたの挑戦をお待ちしています!

担当マスターより

▼担当マスター

桂木京介

▼マスターコメント

 マスターの桂木京介です。よろしくお願いします。

 シナリオ『Zanna Bianca――ザナ・ビアンカ』の続編となるシナリオの登場です。やはり真夏、暑いさなかに登場してしまいました。けれど頭は極寒の地に切り換え、防寒装備は完璧にしてお願いします。
 本シナリオは『Zanna Bianca』の続編となりますが、前回に参加していたかどうかは参加資格に関係ありません。『Zanna Bianca』のシナリオガイドと、リアクション最終ページ(シナリオ展開上、話のまとめが載っています)だけ軽く読んでおけば充分です。

 さて今回も、厳寒の雪山を征く冒険行になります。
 山の主ザナ・ビアンカとの決着、山麓の村の復興、クランジΠを追い、その過程でΛと戦う……などなど、選べる行動はさまざまにあることでしょう。
 そしてやっぱり、遭難してしまうという展開もあります。ですが遭難して死にかけても、今回は山中に幻の温泉を発見できる可能性もあるのです。あえてこの道を選ぶのも一興です。

 今回、クランジΥ(ユプシロン)は謹慎中なので、前回とは違って作中に登場しません。「会いに行く」というアクションをとっても「会えなかった」という結果が返ってくるだけなのでご注意ください。
 また、特別ルールとして、前シナリオ『Zanna Bianca』でクランジΡ(ロー)ないしΟΞ(オングロンクス)を確保したキャラクターであれば、『彼女』を同行させることができます。しかし彼女たちはNPCなので、期待通りの行動どころか、まったくの予想外の行動を取る可能性があります。

 それでは、次はリアクションでお会いするとしましょう。
 皆様のアクションを楽しみにお待ちしております。
 桂木京介でした。



■登場人物■(展開によっては登場しないキャラクターもいます)
●クランジΠ(パイ)
 外見年齢は10ー12歳、金髪碧眼。塵殺寺院所属のテロリスト。任務のため、ヒラニプラ山脈を訪れていたものの、戦いに巻き込まれ山中への逃避を余儀なくされる。物理的破壊力を有す強力な超音波を口から発することができる。ビーフジャーキーが好物で、犬と甘いものは苦手らしい。

●リュシュトマ少佐
 教導団の軍人、初老の男性だが現場に立ち続けている。団長金鋭鋒の信頼は厚いが、ときとして鋭鋒でも扱いに手を焼くほど極端に命令遵守のところがある。今回、村の復興計画の指揮を執ることになった。クランジΚが暗殺する対象は彼になるだろう。

●ザナ・ビアンカ
 巨大な白い狼。足跡を残さない、半透明の姿で疾走することができ、戦闘時は実体化する……などの特徴がある。相手に害意がないとわかれば殺しはしないようだ。しかし、山に戦争を持ち込む者は雪に埋めてしまおうとするなど、凶暴な側面もある。

●クランジΡ(ロー)
 185センチを超える長身、カフェオレ色の肌をした童顔の少女。パイとコンビを組んでいたが、前回シナリオではぐれ、あるプレイヤーたちに保護された。現在も保護下にある。

●大黒美空(おぐろ・みく)
 別名、クランジΟΞ(オングロンクス)。敵だったΟ(オミクロン)、Ξ(クシー)が融合した姿。あるプレイヤーたちに保護されて延命したが、すべての記憶を失っており、言葉も発することができない。

●コヤタ
 クランジに殺された老ハンターの孫。祖父の敵を取るべくオミクロンを待ち伏せした。彼の猟銃でオミクロンは額を撃ち抜かれ、絶命している。現在は村の避難キャンプにいるようだ。

▼サンプルアクション

・村の復興を手伝う。

・クランジΛと交戦する。

・ザナ・ビアンカを倒すべく山に踏み込む

・吹雪舞う雪の中を歩む……そして……

▼予約受付締切日 (既に締切を迎えました)

2011年08月08日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2011年08月09日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2011年08月13日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2011年08月27日


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