波羅蜜多実業高等学校

　来たる２０２２年の元旦を翌日に控えた、大晦日の夜。
　何を思ったのか、蒼空学園の女傑馬場　正子（ばんば・しょうこ）は突然、
「御来光を拝みに行くぞ」
　などといい出し、友人・知人・顔見知り・電話帳に載ってる赤の他人のいずれを問わず、片っ端から電話をかけまくり、初日の出ツアーを組んでしまいました。
　呼び出されたひとびとにしてみれば、全く良い迷惑です。
　ともあれ、集合場所である蒼空学園正面エントランスには、そこそこの人数が集まっていました。
「聞けい者共！　これより、ツァンダ南部山岳地方の霊峰フライデンサーティンの頂を目指す！」
　正子が宣言すると、一斉にブーイングが飛び交いました。
　それもその筈、霊峰フライデンサーティンという山は、ツァンダ南部山岳地方にそびえる幾つもの山々の中でも、特に峻険で知られる高山だったからです。
　しかも正子は、小型飛空艇や飛行関連の技能・魔術の使用を一切禁ずるとまで宣言しています。余程気合を入れて登山に臨まなければ、恐ろしい事態が待ち受けているようにさえ思えました。
　フライデンサーティンの七合目では、山小屋水晶亭にて休憩を取ることが出来ます。まずは未明のうちにこの水晶亭まで到達しておき、ここで夜明け前まで仮眠を取ってから、日の出前に頂上まで一気に登る、というのが正子が立てたプランでした。
　ところが――。

　　　　　＊　＊　＊

「組長、ちょっと良いスか？」
　正子が代表を務める蒼空学園料理研究部鉄人組の副長三沢美晴が、登山装備にがっちり身を固めた正子にそれとなく歩み寄り、幾分渋い表情で耳打ちしてきます。
　何事か、と正子は怪訝な面持ちで美晴の声に耳を傾けました。
「ちらっと小耳に挟んだんですがね……水晶亭ってとこ、結構ヤバいそうですよ」
「何がどうヤバいのだ？」
　正子が問い返すと、美晴は端整な面を更に渋い色で歪めながら、豊かな胸の膨らみを無理矢理押し潰すような格好で両腕を組みつつ、う〜んと低く唸りました。
「その水晶亭にゃあ、どうやら殺人鬼が出るそうなんスよ」
　しかも、一度この殺人鬼に襲われたが最後、何度も殺され続ける永遠の時間地獄に引きずり込まれる、というのです。どうにも、穏やかな話ではありません。
　これには流石の正子も、真剣な様子で考え込まざるを得ないようです。
「うむ……撃退法は無いのか？」
「そうっスねぇ……っていうか、ヤバいって分かってても行くつもりなんスか？」
　美晴はすっかり呆れ果て、正子の彫りの深い強面を見上げます。
　自分ひとりだけで行くというのならまだしも、無理矢理掻き集めた他の面々を平気で巻き込もうという辺り、厚かましいというべきか、図々しいというべきか――。
　それはともかく、美晴は謎の殺人鬼撃退法についてはほとんど情報らしい情報を持っていないようです。
　ただ、その正体については噂で語られているところを聞きかじっていました。
「どうやらその殺人鬼ってのが、怒れる山の精、ってことらしいんスよ。本当だか嘘だか知りませんがね」
「山の精か……ふむ、その辺が何か、ヒントになるのかも知れんな。一緒に来て確かめよ」
　何気に美晴も連れて行かれることになり、
「えー！　マジっすかー！？」
　という半ば悲鳴に近い絶叫が、エントランスホール一杯に響き渡りました。
　ちなみにその殺人鬼、どうやら息子Ｊという奇妙な呼び名で呼ばれているそうです。

　果たして、どうなることやら――。

　本シナリオガイドをお読みくださり、ありがとうございます。

　参加をご検討頂ける皆様の為に、息子Ｊについて少し、説明を加えます。
　この殺人鬼は、ホッケーマスクをかぶっています。また、水晶亭で被害に遭ったひとびとは大抵、色んな方法で殺されています。変な表現になりますが、殺害方法は実にバラエティーに富んでいます。
　息子Ｊの撃退は力技では不可能でして、コントラクターとしての能力はまず通じません。如何にして知恵を絞り、ガイド全体に散りばめられているヒントを利用して撃退出来るかが、鍵を握ります。

　正子は別に放っておいても良いとして、美晴は完全に巻き込まれた格好になりますので、彼女は皆様のお力で助けてあげてください。

　それでは、素敵なアクションをお待ちしております。

・とりあえず登る。

・息子Ｊを倒す。

・水晶亭でほっこり。