シナリオガイド【イコン参加可】
ザナドゥの地上侵攻が、長きに渡る“魔戦記”の始まりを告げる!
シナリオ名:【ザナドゥ魔戦記】魔族侵攻、戦記最初の1ページ / 担当マスター:
蒼フロ運営チーム
●ザナドゥ:ベルゼビュート城
「…………」
ザナドゥ首都、魔都リュシファルにそびえ立つ城、ベルゼビュート城。
『魔王』の住まう城であり、同時に『闇の世界樹』世界樹クリフォトの一部でもあるその中で、ザナドゥ現魔王、魔神パイモンが玉座に腰掛け、瞳を閉じ、クリフォトからの『声』に意識を傾けていました。
「……そうですか。分かりました」
呟き、パイモンが瞳を開きます。人間でいえば二十歳前後の風貌、しかし頭に生える一対の角が、彼が魔族であることを証明していました。
「地上侵攻の方針が決定しました。事前の計画より一部、変更があります」
パイモンの視線、そして言葉の先には、六名の人物の姿がありました。その誰もが角や尾、翼や爪を持っており、人の姿をしていながら人間ではない雰囲気を漂わせていました。
彼らこそが『四魔将』、パイモンの絶大な信頼を受け、魔族の上に立つ『魔神』として軍勢を率いる者たちでした。
「再生を果たしたと思われていたカナンですが、南カナンだけは再生が不十分に終わったそうです。
当初の計画ではイルミンスールの森に出現後、ジャタの森を経由してカナン入りを目指す手筈でしたが、これでカナンに直接侵入出来ます」
「そう……ふふ、カナンの人間は突然現れた私達を見て、どんな顔をするかしらね……あぁ、今から楽しみで仕方ないわ」
恍惚に顔を歪ませる四魔将のリーダー、魔神バルバトスを横目に、魔神ロノウェがパイモンに質問します。
「計画の変更は理解しました。ですが、逆に向こうに“入口”を利用されるようなことがありはしませんでしょうか。
イルミンスールはまだしも、カナンは国としてほぼ再生を果たした状態、相応の戦力が集結しているものと思われます」
「仰る通りです。よって、南カナンへの“入口”は戦況不利と判断した場合、閉じることを検討しています。
それまでに神聖都キシュに到達、もしくは容易に崩されない拠点を確保出来た場合は、残しておきます」
「……分かりました。では、私は“入口”の傍で戦況の把握に努めます。キシュ進軍はバルバトス様にお任せします」
「うふふ、任されてあげる♪」
ロノウェとバルバトスが納得の表情を浮かべたのを確認して、パイモンが残る四名に視線を向けます。
「ナベリウスさんとアムドゥスキアスさんは当初の計画通り、クリフォトの“顕現”後、ウィール遺跡から氷雪の洞穴へ向かってください。最終的な目標は精霊指定都市イナテミスへの到達です。侵攻ルートは一任しますが、世界樹イルミンスールに近付き過ぎては余計な被害を生みます、注意してください」
「「「は~い」」」
「イナテミス……ボクの心を動かす芸術作品はあるかな?」
パイモンに指示された魔神ナベリウス、魔神アムドゥスキアスの両名が了解の意思を浮かべ、パイモンが玉座から立ち上がります。
「……鍵の一つは、手に入れました。
残るもう一つの鍵を手に入れ、大魔王ルシファー様の復活と、ザナドゥの地上への顕現……果たさせてもらいます」
●世界樹イルミンスール
「今日も曇りですかぁ。もう雨期ですかねぇ」
「……それにしては、不穏な雲ですわね。まるで地の底から湧き出てきたようですわ」
ここ数日、イルミンスールには雲がかかっていました。
エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)は気にしていないようですが、ルーレン・ザンスカール(るーれん・ざんすかーる)は纏わり付くように広がる雲に違和感を覚えているようでした。
「天気が悪いと、洗濯物が乾かないです。日光が待ち遠しいです」
「こんなモン、熱風でも浴びせりゃすぐ乾くだろうが」
「そうかもしれませんけど、草木がそうであるように、服だって日の光を浴びたいと思いますよ」
「よく分かんねぇな。ま、オレは湿気がある方が好みだから、今の環境は悪くねぇけどな」
洗濯物を部屋に干していくミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)と、半ば強制的に手伝わされているニーズヘッグの会話が聞こえてきます。
気にするところはありつつも、イルミンスールには概ね平和な時間が流れていました。
――しかし、その平和な時間は、唐突に終わりを迎えます。
『――――!!』
大地の振動、そして響く轟音と共に、かつてイルミンスールがそびえ立っていた跡地に突如、現在のイルミンスールとほぼ同じ高さの“樹”が出現したのです。およそ地上では見かけないであろう形をし、毒々しい色を持ちながら、何重もの枝が絡み合って出来た幹、そこから伸びる無数の枝と葉は、樹と呼ぶ他ないものでした。
「な、ななな、何ですかぁ!?」
椅子から転げ落ちそうになったエリザベートが声をあげた矢先、イルミンスールからの“声”が聞こえてきました。ひどく混乱したような物言いが続いた後、イルミンスールは以下の言葉を発します。
闇の世界樹、クリフォト……。
「クリフォト!? あれがクリフォトだって言うんですかぁ!?」
エリザベートの問いに、しかしイルミンスールは答えません。
「世界樹クリフォト……『光の世界樹』世界樹セフィロトと対をなすとされる、闇の世界樹……確かザナドゥを守護する世界樹であったはずですが、それがどうしてこの地に……」
ルーレンが口にしたところで、ミーミルがその出現した樹の周囲を指して声をあげます。
「皆さん、見てください! イルミンスールの森が!」
声に一行が視線を向ければ、出現した樹のすぐ近くにあった樹が、青々とした葉を紫に変え、形も棘々しく変わっていくのが見えました。
その変化は徐々に、樹から放射状に広がっているようでした。
「いけない、このままではザンスカールが!」
ルーレンの切迫した声が響く時には、既にザンスカールのすぐ傍まで侵食が迫っていました。
「なんだかよく分かりませんが、行くしかないですねぇ! イルミンスール、移動しますよぅ!
ミーミルはルーレンを守ってやるですぅ。ニーズヘッグ、いつでも出られるようにしておけですぅ!」
「分かりました、お母さん。ルーレンさん、私の傍へ」
「ええ、ありがとうございます、ミーミルさん」
「仕方ねぇな、言う通りにしてやっか!」
椅子に座り直したエリザベートが言葉を発して、イルミンスールをザンスカールへと近付けます。その間にも侵食は進み、樹に沿うように建てられた建造物が次々と崩され、飲み込まれていきます。そしてついに、当主が住まう建物も、荒れ狂う木々に襲われるようにして、崩されてしまいました。
「ザンスカールの皆さんを、イルミンスールに避難させるですぅ!」
エリザベートの指示を受け、ニーズヘッグが先行し、ルーレンとミーミルが後を付いていく形で、ザンスカール住民をイルミンスールへ避難させます。
(終わったら、パンチをお見舞いしてやるですぅ! こんなことして、許しませんよぅ!)
襲撃してきたニーズヘッグをも叩き伏せたパンチを撃ち込む、そう心に決めていたエリザベートの頭に直接、響く声がありました。
『……ベート、エリザベート、おるかの。我じゃよ』
「!!」
その声を聞いた瞬間、エリザベートは単身、テレポートで校長室を飛び出していました――。
瞬時に視界が切り替わり、そして今、エリザベートの前には一人の女性の姿がありました。
「大ババ、様……?」
その女性を、エリザベートは一つの確信と、無数の疑問を含んだ言葉で呼びます。パートナー契約を結んだ者同士が持つ“絆”は、目の前の女性をアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)であると教えてくれます。ですが、姿形はトレードマークの帽子を除けば、角も尾もなく、さらには身体つきも成人女性のそれに変化していました。
「そうじゃ、エリザベート。わざわざ迎えに来てくれるとは、少し見ぬ間に成長したのう。我は嬉しいぞ」
微笑みを浮かべる、アーデルハイトでありながらどこか違和感を感じる女性に、エリザベートは喜びよりも疑問を先に表します。
「……今まで、どこに行ってたですかぁ?」
「なんじゃ、こうして戻って来たのだ、もっと喜んでもよかろう。
……我はザナドゥに行っておった。このままではイルミンスールが喪われる、そう思うてな」
溜息を吐いて、アーデルハイトは問いに答えます。自校生の裏切りにより窮地に陥りかけたイルミンスールの今後を憂い、ザナドゥに力を貸してくれるよう取り計らった、その結果として自分はこのような姿になった、そう言葉が続きます。
「だがな、まだ足りぬのじゃ。これでもまだ、イルミンスールを取り巻く脅威を払うには、足りぬのじゃ。
……エリザベート、おまえに一つ、頼みがある」
「……何ですかぁ?」
警戒を解かずに尋ねるエリザベートに、アーデルハイトはフッ、と笑って、こう告げます。
「カナンの世界樹を、ぶん殴ってきてくれんかのう。
ついでにイナンナも連れて来てくれたら助かるんじゃが」
「…………あなた、誰ですかぁ? 大ババ様はそんなことは言わないですぅ」
険しい視線を向けるエリザベートに、アーデルハイトは何を言う、という表情で答えます。
「我はおまえのパートナー、アーデルハイトじゃ。それはおまえが一番よく分かっていることであろう?」
「…………違うですぅ。あなたは大ババ様の姿をした、大ババ様じゃない人ですぅ」
エリザベートが言うと、アーデルハイトはやれやれ、と溜息を吐いて言います。
「相変わらず聞き分けのない子じゃのう。ならばよい、そちらは奴らに任せよう。
……エリザベート、おまえはしばらくの間、大人しくしているがよい!」
「!!」
アーデルハイトから放たれた魔の力を、エリザベートは間一髪、テレポートで回避します。校長室に戻ったエリザベートの元に、避難誘導を終えた一行が帰ってきました。
「ザンスカールの皆さんの、イルミンスールへの避難は終わりました。……お母さん?」
険しい表情でただ一点を見つめるエリザベートに、ミーミルが視線の先を振り向けば、そこに見知った人物の面影を見ます。
「……アーデルハイトさん?」
「違うですぅ! あいつは大ババ様じゃないですぅ!」
激昂したエリザベートが、イルミンスールを前進させ、同時に枝を寄り合わせて“腕”を作ります。
「大ババ様を返せですぅ!」
迫るイルミンスールを見つめ、アーデルハイトはフッ、と笑みをこぼします。
「あくまで従わぬというのなら……力の差を思い知らせてくれるわ!」
直後、アーデルハイトの背後にそびえ立っていた樹が、イルミンスールと同じように枝を寄り合わせて“腕”を作り、イルミンスールに向けて振るいます。見た目にはそれだけの攻撃でしたが、しかし、“腕”の先にあったイルミンスールの“腕”は、抉れるようにして吹き飛んでしまいました。
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
「お、お母さんっ!」
突き出した腕を押さえながら悲鳴をあげるエリザベートに、ミーミルが駆け寄ります。
「なあに、すぐに終わる。
……それまで地に這い蹲り、全てが壊れていく様を目の当たりにするがよい!」
言い放ち、アーデルハイトが次の攻撃を繰り出します。直撃を受けたイルミンスールは押し飛ばされ、しかも徐々に高度を下げていきます。
「おい、落ちちまうぞ!」
「だ、ダメですぅ……もう浮いていられるだけの力がありませぇん」
ミーミルに介抱されるエリザベートの声は弱々しく、言葉が事実であることを物語っていました。
「なんとかならねぇのかよ! 下手すっとイナテミスを押し潰しちまうだろが!」
ニーズヘッグの警告通り、イルミンスールの背後には精霊と人間の共存する街、『精霊指定都市イナテミス』があります。そして今のままではちょうど、そのイナテミスの中心部付近に落下してしまいそうな様子でした。
「手前に、降りるですぅ……!」
エリザベートもそれだけは防ごうと、残った力を振り絞り、イルミンスールを制御して、北にウィール遺跡、東にイナテミス中心部が見える位置に軟着陸を果たします。氷雪の洞穴と合わせると、それらでちょうど四角形の角を形成するようでした。
●精霊指定都市イナテミス
イルミンスールの“着陸”によって生じた振動の影響が収まった頃、『イナテミス精霊塔』には街を束ねる『五精霊』の内の三名、サラ・ヴォルテール(さら・う゛ぉるてーる)とセイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)、ケイオース・サイフィード(けいおーす・さいふぃーど)が顔を揃え、各地の状況確認に奔走していました。
『もう、なんなのよ一体! 突然変な樹が出てきたと思ったら、森がおかしくなって、イルミンスールが落っこちてきたわ!』
「ああ、こちらでも確認している。カヤノ、洞穴の方はどうなっている?」
声を荒げるカヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)にサラが問えば、カヤノは幾分落ち着きを取り戻した様子で答えます。
『こっちは大丈夫だと思うわ。精霊たちも様子を見守ってる感じ。そっちは?』
「こちらも目立った被害は、今のところないようだ。街の住民も混乱こそあるが、大きな問題には――」
「サラさん、セリシアさんから緊急の報告が届いていますわ。直ぐ来て頂けますか?」
通信の途中で、セイランがサラを呼び止めます。その声に普段の余裕は見られませんでした。
「……分かった、今行く。カヤノ、通信はそのままにしておけ。事が判明次第、直ぐに動けるようにしておくんだ」
『分かってるわよ!』
カヤノの返答を確認して、サラがセイランとケイオースの元へ向かいます。
「来たか。まずはこの映像を見てくれ」
言ってケイオースが画面を操作すると、ウィール遺跡にいたセリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)が届けてきた映像が映し出されます。遙か遠くにそびえ立つ異様な雰囲気を醸し出す樹から、続々と黒い点が湧き出し、それはこちらへと向かっているようでした。
「何だ、これは……」
呆然と映像を見つめていたサラに、ケイオースが答えます。
「記憶を探ってみたところ、あれはザナドゥに住まう“魔族”だそうだ。また、出現した樹がザナドゥの世界樹、クリフォトであることも残されていた。どのように出現したのかは分からないが、アーデルハイトがザナドゥに行った後行方不明になったことと、もしかしたら関係しているかも知れない」
「……お兄様、どうなさいますの? 相手方はどう見ても、戦うつもりでいらっしゃるようですわ」
セイランの言葉に、ケイオースは少しの間悩み、そして口を開きます。
「エリュシオン侵攻の影響も抜け切っていない最中の、ザナドゥ襲撃……だが、迷ってもいられんな。
相手がこちらを滅ぼすつもりであるなら、俺たちも街を守るため、力を振るおう。皆、力を貸してくれ」
ケイオースの言葉に、セイランとサラが頷きます。
『話は聞かせてもらったわ! あたしも戦うわよ!』
通信の向こうから、カヤノも意思を明らかにします。
「皆は協力者を募った上で、ウィール遺跡に向かってくれ。セリシアとヴァズデルだけでは、とてもあの数を抑え切れない。
もし魔族の手に落ちることになれば、イルミンスールとイナテミスの両方が危ない。急いで援護に向かってくれ!」
●神聖都キシュ
イルミンスールが混乱に塗れている頃、カナンでも異変が発生していました。
南カナンの森が突如、変貌を始めたかと思うと、樹が寄り合わされ数百メートルにまで伸び、その“樹”から続々と魔物が出現しているとの報告が、豊穣と戦の女神イナンナの元へ届けられたのです。
「……確かに、魔族なのですね?」
「はい、目撃されました魔物の風貌と、過去の伝承とを照らし合わせた結果、出現した魔物はザナドゥの魔族であることがほぼ、確認されました」
尋ねるイナンナに、早馬を飛ばして報告に訪れた西カナン・ウヌグ領主、ドン・マルドゥークが答えます。カナンは1000年周期でザナドゥの襲撃という災厄に見舞われる宿命を背負っており、今回の襲撃もザナドゥの魔族によるものであるという推測が立てられました。
(ネルガル……あなたの叛乱は、決して無駄にはしません。
豊穣を、そして災厄をただ受けるだけだったカナンの民を憂い、自らの手で繁栄を勝ち取れるだけの力を持たせようとした、あなたの……)
カナンはつい先日まで、『征服王ネルガル』の叛乱による戦禍に塗れていました。
そのネルガルも、コントラクターの協力の下、団結したカナンの民によって打ち倒され、カナンは一部を除き、元の緑豊かな土地を取り戻しかけていました。
「マルドゥーク。私とアーデお姉様、そしてザナドゥにどのような関係があるか、ご存知ですか?」
「いえ……お恥ずかしながら、詳しくは。その、イナンナ様に身内がいたことさえ、私は先日まで知りませんでしたので」
頭を垂れながら、マルドゥークが申し訳なさそうに告げるのを見、イナンナが思い出すように言葉を紡ぎます。
「……もう、5000年も前の話です。私とアーデお姉様……アーデルハイトは、シャンバラ崩壊に乗じて地上に顕現しようとしたザナドゥを封じるため、力を合わせて当時の魔王をザナドゥの世界樹に封じ込めたのです。その後お姉様は地球に降り、私はカナンの国家神として、カナンの民に豊穣をもたらしてきました」
簡単に経緯を述べたイナンナが、続いて言葉を発します。
「今回のザナドゥ襲撃は、ザナドゥがお姉様を捕らえ、クリフォトに取り込ませたことに端を発するもの。これまでの侵攻とは異なる魔物の出現、そしてカナンの隣国、シャンバラ王国東部、ザンスカールにクリフォトが出現したことが、何よりの証拠です」
イナンナが発した言葉は、パラミタの世界樹が形成しているネットワーク、『コーラルネットワーク』から得られたものでした。
コーラルネットワークとは、パラミタに存在する世界樹が必ず加入している、世界樹の連合体です。世界樹を相互に見守り、時に干渉し合いながら、パラミタ大陸の持続的な存続を図っているのです。
「……なるほど、理解しました。しかし、今回の騒動はそのコーラルネットワーク内ではどのように受け止められているのですか?」
「ユグドラシルを始めとする他の世界樹は、主立った動きを見せていません。
ザナドゥの魔族のことです、無用な敵を作らぬよう配慮を施した上での今回の侵攻なのでしょう」
イナンナから説明を受けたマルドゥークが、嘆息して口を開きます。
「流石、狡猾で知られる魔族、ですな。これまで以上に、厳しい戦いが予想されるということですか」
「状況はどうなっていますか?」
「現在は、シャムスとバァル率いる軍勢が相手をしています。先手こそ取られましたが、その後は魔族の侵攻を食い止め、拮抗状態に持ち込んでいるとのことです」
マルドゥークのカナン復興の呼びかけに応じ、力を尽くした南カナン・ニヌア領主シャムスと東カナン・アガデ領主バァル・ハダドは、魔族侵攻に際しいち早く対応し、被害を最小限に食い留めているとのことでした。
「そうですか……」
マルドゥークの言葉を聞いたイナンナが、思案に耽ります。言葉を待っていたマルドゥークの耳に届いたのは、衝撃的なイナンナの言葉でした。
「今こそ、ザナドゥとの長きに渡る因縁に、決着を付ける時が来ました。
これよりカナンは、ザナドゥに宣戦布告を送り、ザナドゥの地への侵攻を開始します」
それは、これまで何に対しても受けの姿勢であったカナンの、初めての攻めの姿勢でもありました。
豊穣を司るイナンナは、同時に戦の女神でもあります。あえて物騒な物言いで宣言したイナンナの表情は、まさにそう称するに相応しいものでした。
「……我々はイナンナ様に忠誠を誓った身でございます。ですが、ザナドゥなる地がパラミタのどこにあるか分からない状態で、宣戦布告とは――」
「ザナドゥへの道は、私が拓きます」
衝撃に動揺する心を何とか落ち着け、意見を口にしたマルドゥークを、さらに衝撃が襲います。世界樹クリフォトが地上への“入口”を拓いたように、世界樹セフィロトもザナドゥへの“入口”を拓くことが出来ると、イナンナは告げました。
「…………イナンナ様のご判断のままに」
イナンナの話を、マルドゥークはただ受け入れることにしました。世界樹がどうという話は一人の人間が考えたところで、どうなるものでもありません。
それにどのみち、ザナドゥとの戦いは避けられない状況です。マルドゥークもただ防戦一方でいるよりは、積極的な行動をよしとする人間でした。
「では私の方で、イナンナ様からのお言葉という形で、契約者に協力を願う旨お伝えしておきましょう。
カナンの危機を救ってくれた彼らであれば、必ずや力になってくれるでしょう」
「お願いします」
こうして、イナンナの意思はマルドゥークによって、契約者たちの知るところとなったのでした。
『世界樹セフィロトと世界樹クリフォトは、光と闇、対をなす存在。クリフォトが地上への道を拓いたように、力を取り戻したセフィロトであれば、ザナドゥへの道を拓くことが出来る。道が開いたとなれば、今カナン地上に出ているザナドゥの魔族は防衛のため、一旦退かざるを得ない。
ザナドゥへの道を開くまで、魔族を食い止めて欲しい――』
それは、新たなる地での冒険が間近に迫っていることを告げるかのようでした。
ザンスカール、そしてカナンの地が、ザナドゥ侵攻により大きく動き始めました。
戦いの記録、その最初の1ページが書き込まれようとしているのです――。
担当マスターより
▼担当マスター
蒼フロ運営チーム
▼マスターコメント
この度、【ザナドゥ魔戦記】監修(と執筆)を務めることになりました、猫宮烈です。
よろしくお願いいたします(ぺこり
新シリーズ最初のシナリオとなります。
ザンスカール、そしてカナンの地に侵攻してきたザナドゥの手から国を守り、反撃の狼煙を上げる……が基本の流れとなっています。
先日公開されました特設ページと今回のシナリオガイドを見れば、基本的な情報は得られます。
また、参加された方にザナドゥ関連のアイテムも配布いたします。
お気軽にシナリオにご参加いだたけますと幸いです。
今回のシナリオは以下のパートに分かれています。どのパートに参加するか、アクションの目的に番号を書いてください。
無記入や番号違いの場合は判定で不利になりますのでご注意ください。また、複数の番号をまたいだ行動はご遠慮頂きますようお願いいたします。
担当マスターは自分、猫宮と、【カナン再生記】を担当されました寺岡志乃マスター、夜光ヤナギマスターとなっています。
改めまして、よろしくお願いいたします。
【1】イナテミス・イルミンスール攻防戦(イコン参加可):猫宮烈
イコンが参加出来るパートです。イコンはお手持ちの好きな機体をお選びください。
カナンの伝説のイコン、ギルガメッシュは【1】および【2】には参加出来ません。ギルガメッシュは神聖都キシュの護衛に入りますので、【3】での登場となります。
イルミンスールの森を侵食したザナドゥの魔族軍は、墜落し動けなくなったイルミンスールへの追撃ではなく、『精霊指定都市イナテミス』の『ウィール遺跡』に軍勢を集結させようとしています。敵の狙いは『ウィール遺跡』とその先の『氷雪の洞穴』、そしてイナテミスの中心部のようです。
ウィール遺跡へは主に地上から、『四魔将』のうちの二柱、魔神ナベリウスと魔神アムドゥスキアスの軍勢が迫っています。
獣人を思わせる風貌のナベリウス軍は、統制はバラバラですが軽装を生かした俊敏な動きが持ち味です。森に強いこともあり、まずはこちらと交戦することになるでしょう。
一方アムドゥスキアス軍は凝った作りの鎧を着込んだ兵を中心に、確実な歩みでウィール遺跡に迫っています。ナベリウス軍に先手を握られ続ければ、アムドゥスキアス軍の合流で決着がほぼ付いてしまうでしょう。もしこの地を落とされるようなことになれば、背後に続く『氷雪の洞穴』、及びイナテミス中心部は魔族の脅威に晒されます。また一角を崩されることで、イルミンスールも滅亡の危機が迫ることになります。
空を飛ぶ魔物の姿は、少数確認されていますが絶対数としては少ないので、イルミンスールのイコン『アルマイン』などが有する飛行能力を駆使し、制空権を維持し続けることが、防衛成功の鍵となるでしょう。
墜落したイルミンスールは動けこそしませんが、中の建物などは傷ついていません。アルマイン等、イコン基地としての機能も健在です。
(アルマイン以外はせいぜい応急処置が手一杯です。また、アルマインの完全回復は今回、ウィール支城では出来ません)
イルミンスール内でのアクションも【1】で対応します。
【2】南カナン攻防戦(イコン参加可):夜光ヤナギ・寺岡志乃
イコンが参加出来るパートです。イコンはお手持ちの好きな機体をお選びください。
カナンの飛空戦艦、エリシュ・エヌマが契約者やイコンの格納・搬送、また応急処置・修理を請負います。戦艦自体は最初の時点では、戦場後方に旗艦という形で滞在しています。
南カナンに出現した魔族は、最初の時点では神聖都キシュへの到達を第一に侵攻を始めています。これを南、東カナン領主が率いる地上部隊(歩兵が中心で、カナンのイコンであるアンズーは極少数配備されている程度に過ぎません)が食い止め、前線に魔神の姿がないことから、戦況は一進一退といった状態です。
こちらには『四魔将』のうちの二柱、魔神ロノウェと魔神バルバトスが来ています。
魔神ロノウェは、ザナドゥからカナンへの“入口”防衛に専念しており、前線に軍勢が加わる可能性は低いです。軍勢は他の魔族軍に比べ、異様に統制が取れており、生半可な攻撃では突き崩すことは叶いません。
バルバトス軍は、主に空中機動を得意とする魔族を中心に軍勢を組み、両領主の軍勢を突破した後は速やかに神聖都キシュへ侵攻する心積もりのようです。
一騎当千の力を有するバルバトスの到着によって、戦況は一気に悪化します。迂闊に攻め入ろうとすれば返り討ちに遭い、防御線が薄くなります。
さらに【3】の動向によってはザナドゥ侵攻のタイミングが遅れ、ここの魔族が撤退せず、積極的に突破を図ろうとしてしまいます。
魔族の突破を、ザナドゥ侵攻の道が拓かれるまで防ぎ切るのがこのパートの目的です。
【3】ザナドゥへの道を拓くまでの護衛、橋頭堡の確保(イコン参加限定可):寺岡志乃・猫宮烈・夜光ヤナギ
イコンが参加出来るパートは、ザナドゥへの道が拓かれるまでとします。
ザナドゥの地でちゃんと動けるのかという話については、セフィロトの加護があるのでこのシナリオの間は問題なく動ける、とします。
イコンのザナドゥでの稼働も今後考えられますが、今回はギルガメッシュ以外は不可とします。
ギルガメッシュはこちらで登場します。性能は『【カナン再生記】決着を付ける秋(とき)』での説明に準じます。ザナドゥへの道が拓かれた際の、オンリーワン機として先陣を切る役目を担います。
乗りたい場合、掲示板に必ず挨拶をしてその旨を参加者に伝えてください。
相談して乗る人を決めるといいと思いますが、複数人いた場合、その中から選ばせて頂きます。
また、こちらではルミナスヴァルキリーが、契約者やイコンの格納・搬送、また応急処置・修理を請負います。
【2】がある程度持ちこたえられ、何事もなければリアクション中盤辺りで道が拓かれます。
……と書いたのは、イナンナがセフィロトでザナドゥへの道を拓いている間は一種無防備になるため、そこを狙ってザナドゥに加担する契約者の襲撃が予想されるからです。襲撃があればあるほど、そちらへの対応もしなくてはならなくなるため、道を拓くのが遅れます。すると【2】の戦況が刻一刻と悪くなり、最悪、南カナンを突破され、そのまま神聖都キシュへ迫られる展開になってしまいます。
このパートに参加する場合、ザナドゥへの道が拓かれるまでのセフィロト護衛か、道が拓かれた後のザナドゥ侵攻、橋頭堡の確保のどちらを行うかを明記してください。両方やろうとするアクションは、採用率が落ちます。(どちらかにしか描写がなくても、両方参加しているものと思っていただけると幸いです)
契約者はイナンナ(の言葉を伝えたドン・マルドゥーク)からザナドゥの地がどのようであるかを聞いている、悪魔・魔鎧LCがいる場合はその者からザナドゥのことを聞いている、過去にキャラクエでザナドゥを訪れたことがある契約者は実体験として持っている、とします。
(ただし、ザナドゥ関連の称号を付けていない場合、もしくは付けていたとしてもお客様のオリジナルの設定は、申し訳ございませんが不採用とする場合があります)
そして、【3】の最終的な目標は、セフィロトがザナドゥの地に根を張る(これにより、契約者はセフィロトを通じてザナドゥを行き来することが出来るようになる)ことによる、ザナドゥ侵攻のための橋頭堡の確保です。これは、順調に行けばリアクション最終盤で確保されます。
セフィロトがザナドゥへの道を拓いて少し後に、魔神ロノウェの部隊が侵攻を阻止せんとやってくるのを食い止める、が流れになるかと思います。
【4】建設した公共施設に関わる(イコン参加不可):猫宮烈・寺岡志乃・夜光ヤナギ
掲示板企画『イナテミス開拓史』及び『カナン再生記』開拓結果報告スレッドで完成している施設(カナンの場合は『公共施設』)に関わる行動を掛けることが出来ます。
特に南カナンの場合は、既に戦場になっていますので、魔族の襲撃が予想されます。【2】の状況が悪化、かつ適切なアクションが存在しなければ、施設は破壊され、南カナンはまた更地に戻ってしまうでしょう。
とはいえ、こちらにばかり参加しては、肝心の魔族を止められなくなります。周りを見た上での参加を検討してください。
【5】その他
他のパートに登場する場所などと関係のないアクションや、ザナドゥ側に付くアクションはこちらとなります。
担当マスターもアクション次第で変わりますが、採用率は厳しくなりますのでご注意ください。
また、ザナドゥ側に付く場合、アクション次第ではPC同士の戦いが起こり得、判定によってはリアクション上での死亡描写が有り得ます。
無謀なアクションは死に繋がります。心しましょう。
※死亡描写につきまして
今回の戦場では、「無謀な行動」「味方PCが近くにいる状態での裏切り」といったアクションによっては死亡する場合があります。
しかし四魔将は強力な力を持っていて、ほかの知的種族の魂を欲しているので、魂と引き換えに生き返らせてくれます。
死亡描写を受けた後、【ザナドゥ魔戦記】関連のシナリオに参加すると、四魔将によって復活させられたものと判定し、今後ザナドゥ側の悪魔によって行動を支配されることになります。
※ザナドゥ側に付く場合
四魔将の信頼を得るには、MC・悪魔LC以外の魂を差し出す必要があります。
そのため描写上死亡する場合があります。
その場合も四魔将によって復活させられ、ザナドゥ側に与することになります。
いずれの場合も、今後【ザナドゥ魔戦記】関連のシナリオでは、ザナドゥ側の悪魔によって行動を支配されることになります。
行動の制限につきましては、該当シナリオのマスターコメントにて説明させて頂きますが、少なくともザナドゥ側の悪魔に反逆できなくなります。
なお、【ザナドゥ魔戦記】関連のシナリオ以外ではこの効果は適用されませんのでご安心ください。
※悪魔LCの立場
悪魔LCは【ザナドゥ魔戦記】シリーズ中、以下のような立場を取ることができます。
なお、MCも同じ立場になります。MCとLCは別々の立場にはなれません。
●ザナドゥ側に付く
悪魔LCはザナドゥの現勢力(四魔将)のスパイだった、協力者だった、など、ザナドゥ側を支援できます。
この場合、魂を代価として払う必要はありません。
支援に回った場合、ザナドゥでの地位は四魔将よりも低いですが、悪魔LCには相応の地位が与えられます。
また、悪魔LCを同伴していないザナドゥを支援するPCよりも高い地位になります。
●ザナドゥ側に反逆する
悪魔LCは現在の支配層(四魔将)には従わない反逆者などとして対立できます。
対立している場合、現時点のザナドゥでの地位はありません。
ただし、シナリオの展開によってザナドゥの現勢力が倒された場合、功績に応じて地位が与えられる可能性があります。
●中立
悪魔LCは現勢力には興味がないため、与しない中立の立場を取ることもできます。
四魔将に反抗しない限り現勢力から狙われることはありませんが、地位などは一切与えられません。
※魔鎧LCの立場
悪魔によって創り出された魔鎧LCは、自分が悪魔をどう思っているか次第で、
●ザナドゥ側に付く
●ザナドゥ側に反逆する
●中立
のいずれかの立場を取ることができます。
魔鎧LCがザナドゥ側に付く場合、悪魔LCと同様に代価として魂を支払う必要はありません。
【5】はアクションが特殊なのでサンプルアクションはありません。
NPCについては、イルミンスール側ではイルミンスールで登場してきたNPCが、カナン側ではカナンで登場してきたNPCが登場します。
イナンナについては、今回は世界樹セフィロトに留まり続けるため、【3】以外には出てきません。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております!
2011年6月7日:追記・補足
ユーザーサポートにお問い合わせ頂きましたご質問の返答を追記いたしました。赤字の部分が追記分になります。
また、死亡判定につきまして説明を補足いたしました。
2011年6月7日:追記
悪魔LC・魔鎧LCの【ザナドゥ魔戦記】シリーズ中の立場の説明を追記いたしました。
▼サンプルアクション
・【1】イナテミス・イルミンスール攻防戦に参加する
・【2】南カナン攻防戦に参加する
・【3】ザナドゥへの道を拓くまでの護衛、橋頭堡の確保に参加する
・【4】建設した(公共)施設に関わる
▼アクション締切日(既に締切を迎えました)
2011年06月13日10:30まで
▼リアクション公開予定日(現在公開中です)
2011年07月04日