波羅蜜多実業高等学校

　
「おかしいなあ、ネットが繋がらないんだけど。そんな馬鹿なことある？」
　蒼空学園のユビキタス端末を使っていた生徒たちが首をかしげました。蒼空学園の設備は、パラミタでも最先端をいっているはずです。地球とのネットワーク接続には付帯条件があるとはいえ、学内に張り巡らされた光ケーブルによって、ローカルエリアネットワークは完璧のはずでした。
　　　　　カリカリカリ……
「携帯はつながるけど……、あっ、アンテナが一本減った。おかしいなあ」
　メールを確認しようとした女生徒が、携帯のむきをしきりに変えながらいいました。
　　　　　カリカリカリ……
「ああっ、回線オチしましたぁ。せっかくのアイテムがぁぁ」
　ネットゲームでボス戦真っ最中だった生徒が悲鳴をあげます。
　　　　　カリカリカリ……
「ねえ、なんか、変な音が聞こえない？」
「まさか、ネズミとかＧとかが……」
　生徒たちは、恐る恐る、音のする場所のＯＡフロアのメンテナンスハッチを開けてみました。
「こばっ？」
　床下の小人さんが、生徒たちを見てかわいく小首をかしげました。その姿は、どことなくイルミンスール魔法学校のアーデルハイト・ワルプルギス（あーでるはいと・わるぷるぎす）に似ています。
「こばっ、こばばばばばば……」
　わずかの間きょとんとしていた小ババ様ですが、次の瞬間、脱兎のごとく逃げ去ってしまいました。
「あれってさあ、以前のメガネ・テロリアメ事件のあと発見された小ババ様だよねえ」
　ホワイトデーの事件の時、赤と青のキャンディをいっぺんに食べてしまった大ババ様のボディは変化に耐えきれず、たくさんの小さな分身、すなわち小ババ様に分裂してしまったのでした。もちろん、大ババ様の魂は無事帰還しています。今、蒼空学園の物陰にひっそりと暮らしている小ババ様は、魔法の残り香で動いている妖精人形のようなものです。
　イルミンスール魔法学校からの当初の説明では、放っておいても自然に光になって消えてしまうということだったのですが……。
「まだ動き回ってるやん」
「でも、ちょっとかわいい……」
「ああっ、見てみろよ。小ババ様が囓っていた物を！」
　床下を調べていた生徒が、かみ切られた光ケーブルを引っ張り出して叫びました。
　どうやら、小ババ様は、光ケーブルを食べて、光になるのを防いでいたようです。
「そんな阿保な……」
「笑い事じゃないぞ！！」
　そうです。もし、蒼空学園中の光ケーブルが切断されてしまったら……。
　無線ＬＡＮがあるからいいじゃないと思う人がいるでしょうが、アンテナとルーターは光ケーブルで繋がれています。また、ルーターは各施設のサーバーに、さらに、大元のＸサーバーへも接続されているのです。もしも、この基幹回線が切断されでもしたら……。
「パラミタ中の通信回線が、ほぼ死ぬ……」
　

　大変なことになりました。
　早く小ババ様を駆除しないと、いつすべての光ケーブルが切断されて通信網が麻痺してしまうかもしれません。この情報社会で、通信網の全滅は、すべての活動の停止を意味します。
　幸い、まだ小ババ様は蒼空学園内にしかいないようです。光り物を好んで捕食しています。
　なんとしても小ババ様を倒さねばと、蒼空学園は、近くにいた他校の生徒にも助けを求めました。
　イルミンスール魔法学校でも、事態を察知して、小ババ様を保護して守るためにファンクラブが蒼空学園にやってきています。
　すでに、御神楽環菜校長は、位置が公表されていない極秘のＸサーバーの許に赴いて対策を練っているため接触は不可能です。小ババ様への具体的な対応は、生徒たちにゆだねられました。
　小ババ様はそんなに強くないので、叩き潰すなり、握り潰せば簡単に光になって消滅します。
　事は簡単そうに思えたのですが……。
「こば？　つぶすの？　つぶすの？　こばば？」
　つぶらな瞳で、手乗りアーデルハイトの小ババ様が、あなたを見ています。
　さて……。

・容赦なく叩き潰す

・ぜひ小ババ様をペットに

・小ババ様を守る

・小ババ様を捕獲する

・小ババ様を捕まえる奴らの邪魔をする