風が、哭いていました。
 何も何も何もない、その場所で。
 ただ、風が哭いていました。
 街道から外れたその場所は、不毛の土地でした。
 草木一本生えないそこは、かつての大戦の跡地であると言われています。
 ですが、それならばパラミタを探せばいくらでもあるでしょう。
 その場所が他と違うのは、戦場となったそこが、小さな村だったという一点にありました。
 村を守るべく、或いは功を立てようと、集まった戦士。
 そして、力なき村人たち。
 巨大な力はそれら全てを等しく蹂躙し、消滅させました。
 突然断ち切られた生……願い・切望・命。
 戦士も村人も関係ない、無念。
 それらが彼らをこの世に、この地に繋ぎ止め。
 ただ、普通ならそれらもまた移ろう時の中で、ゆっくりと昇華されていくはずでした。
 なのに。
 村に邪悪なるモノを寄せまいと張られた結界。
 皮肉にもそれが働いてしまいました。
 村から邪悪なるモノを逃さぬと、真逆に。
 そして、彼らは『閉じ込め』られました。
 時から外れ、消える事も出来ず……ただ、後悔・無念・哀しみを抱えさせられたまま。
 長き永き、時。
 それは閉じ込められた『彼ら』には関係なきまま。
 それでも、彼らも土地も、時の流れとは無縁ではいられません。
 歪みは深みを増し。
 いつの頃からか、空に煌々と月の輝く夜。
 満月の夜、結界の中で彼らは微かに実体を取るようになりました。
 ただそれでも何も変わりませんでした。
 彼らは相変わらず閉じ込められたまま。
「もっと戦いたい」
「村人たちを守らなければ」
「子供だけは助けて」
「死にたくないシニタクナイしにたくない」
 死した時の気持ちだけを抱いたままで。
 だから、それは偶然でした。
 満月の夜、結界内に旅人が通りがかったのは。
 旅人は、殺され。
 そうしてようやく、その土地に近いツァンダが気付きました。
 その土地の事に。
 結界が、既に限界を迎えている事に。
 このまま放っておけば内側から結界が破裂し、周囲にツァンダにどんな悪影響を及ばすか分からない事に。
 それ故の、依頼。
 この呪われた土地を、浄化して欲しい、と。