川の辺にある芝生が植えられた広場一面に、五十センチ程のラグビーボール状の物体が等間隔に並んでいます。
綺麗に並ぶ物体の隅の方に目を向けると、緑色の三メートルはある大きな芋虫がそれを地面に産みつけている姿が見えます。
「全て使い切って構わないのですね」
人間の顔を持つ怪物は、同じタイプの怪物達と少しの間話をすると、鉄でできた籠の蓋を開きます。中から、子供ほどの大きさの蟻のような昆虫が這い出してきました。
這い出した昆虫は、ラグビーボール状の物体に取り付くと、お尻から短い針を出し、それを物体に突き刺します。針はすぐに引き抜かれ、昆虫は次の物体へと移動していきます。
針を指された物体は、がたがたと揺れだすと内側から破壊され、二足の足で立つ昆虫のような人のような怪物がぬめりけのある粘液を纏った状態で現れました。
「美しい」
親衛隊の誰かがそう呟きます。
おぞましい怪物達は、自分が何をすればいいかわかっている様子で規則的に並び、一定の数に達すると怪物を率いる指揮官について去っていきました。
○
「奇妙な霧ね、力を感じるわ。酷く弱々しいものだけど」
「作用で御座いますか。我々には感じませぬが、マハナ様がそう仰るのであればそうなのでしょう」
シェパードは感情の無い瞳で、霧を見渡します。自然のものではないのは間違いないでしょう。
「世界同士の接近を阻む力が削れているのかしらね。私達のものとは違うでしょうし」
「願いの成就の日も近い、と」
「さぁ、どうかしら? 日本にロシアにと私達は敗北しているそうじゃない。ザリスが死ぬなんて思わなかったけれど、順調とは言えないんじゃないかしら。まぁ、いいのよ、そんなこと。戦争ごっことかは、そういうのが好きな奴がやってればいいの。私はそんな野蛮な事には興味無いもの」
アカ・マハナはわざとらしいあくびをしてみせます。
黙って佇んでいたシェパードの元に、親衛隊の一人が駆け寄ってくると何かを耳打ちし、去っていきました。
「マハナ様、卵の設置にはあと二時間ほどかかるとの事ですが」
「ちょっとした遊びが、随分大掛かりな事態になったわねぇ……。まぁ、あのマレーナとかいう小娘さえ死ねば、義理立てはそれで十分よ。あとは戦争ごっこが趣味の兄弟に任せてしまえばいいわ。これが終わったら、そうね、暖かいところへでもバカンスに行きましょう。東洋人の男の子にも興味があるわ。黒人もいいわね」
「そろそろ、霧が明けそうですね」
「狩りの方法は任せるわ。た・だ・し、マレーナだけは殺しちゃだめよ。あの子を苛めるのは私の楽しみなんだから、それ以外の羽虫は好きにしていいわ。見た目がいい子がいたら、捕まえておいてもいいわよ。それと、他の子はいいけど、シェパード、あなただけは私の傍を離れてはダメよ。私は、痛いのも野蛮なのも嫌いなんだから」
「お任せください。マハナ様には羽虫の一匹も近寄らせはしません」
「ええ、お願いね」
○
「なるほど、あの歪な大砲で黒い大樹を吹き飛ばそうというわけか、おぬし達の世界由来のものなのだろうな」
ルバート達が確認した歪な大砲は、あなた達はプラヴァー砲撃仕様に装備されるプラズマキャノンを改造したものだとわかります。
「キャタピラで自走できるみたいですが、急造の改造品ですし、機動力は皆無に等しいですね。リアクター回りも露出してますし、いささか急ぎすぎなのは否めませんがあちら側も余裕は無いと考えているのでしょうね」
見るからに実験兵器な自走プラズマキャノンですが、繋げられているリアクターの様子から、普段仕様のものよりも火力を増強しようという試みが感じられます。見た目は戦車四台を繋げた土台の上に、プラズマキャノンが乗っかっているようにしか見えません。
「しかり、乗り込んで制圧するよりは現実的な手段だろうな。しっかりと動くのであれば、だがな」
ルバートは見た事もない兵器に対して懐疑的の様子です。
「プラヴァー四機持ち込んだ方が効果的な気はしますが……」
アルベリッヒは呆れ顔です。しかし、イコンの運用のための技術や設備に比べれば、簡単に利用可能になる手段ではあります。
この自走プラズマキャノンの射程まで大樹に接近するのが国連軍の目標です。
「となると、森林地帯まで敵を押し込む必要があるわけだな」
自走プラズマキャノンは、怪物が潜伏している廃村からかなり後方にあります。大樹までは、間に広々とした畑があり、その先には森林が広がっています。森林の奥地に、茨が絡み合ったような黒い大樹があります。
畑は視界が開けており、敵味方の接近は容易く確認できるでしょう。自走プラズマキャノンの脆弱な構造上、一体でも怪物の接近を許せば致命的になりかねません。
機動力も防御力も皆無な自走プラズマキャノンがその威力を完全に発揮するには、廃村を超えた先にある畑地帯に設置される必要があります。
国連軍が秘密兵器を用いるように、怪物達も人の顔を貼り付けたおぞましい姿の怪物をこの戦場に投入していました。
歩兵の装備では打撃を与えられないこの怪物は、容易に国連軍の進攻を阻みます。
「あの化け物は彼らには少々手に余るようだな。だが、親衛隊に比べれば物の数にもならん」
ルバート達はこの戦いを傍観するつもりはないようでした。