――ハート形の砂が見つかれば、恋が見つかるかも――(空京の噂話)
「夏ね! お日様サンサン、海に行きましょう!」
「キラキラ輝ク、夏の光ですネ!」
雑貨屋ウェザー。
先日まで不調だった看板娘サニーは元気になり、居候の女の子サリーも増え、今日も店内は賑やかでした。
「そんなわけで、海水浴を企画したわ!」
「楽しそうですネ!」
「いきなり絶好調だな」
「……まあ、元気になって良かったよ」
ばぁんと大きなチラシを見せるサニーに、弟のクラウドとレインは苦笑する。
「恋する人のためのビーチとして有名な、ハート・ビーチ。ここの砂浜にはハート形の砂が混じっていて、それを見つけることができれば、いい事があるんだって」
「なるほド、それを小瓶に詰めテ、売るんですネ」
「さっすがサリー、分かってるじゃない!」
きゃいきゃいと騒ぐ少女二人を、弟たちは諦めたように眺めます。
「姉さんたちが楽しそうだからいいか」
「今回は問題のある場所じゃないみたいだしな」
しかし、その場所には大変な問題が待ち構えていたのです!
◇◆◇
ハート・ビーチ付近の河口。
ここに、とある研究施設がありました。
「パラミタラブクラゲとラブイソギンチャクの生態の解明が進みました。この生物は、やたら人に絡みつき、かつ抵抗すると噛み付き物凄い痒みを与えるのが問題だったのですが、どうやらそれは人間の愛情が関係しているようです」
「どういう事だ?」
研究者たちの言葉に、周囲は騒然となります。
「こいつらは、愛情を求める人間を中心的に絡みつくようです」
「更に、こいつらに噛まれた痒みは、噛まれた人が愛情を得られれば消えるのです」
「愛情、というと」
「言葉だったり、抱きしめたり……人によって千差万別だ」
「ううむ、興味深い生物だ。こいつらを逃がさないようにしないとな」
研究者たちは頷き合いました。
その夜のことです。
大雨が降り、研究所のクラゲとイソギンチャクが海に流れ込んでしまったのです。
「大変だ! 近くのビーチに連絡を!」
「ビーチ側では、観光客の減少を恐れて表沙汰にしないで欲しいと!」
「せ……せめて研究結果をサイトにあげるんだ!」
◆◇◆
「んー、昨日は大雨で心配したけど、いいお天気で良かったわね!」
「いっぱイ、遊べますネ」
ビーチでは、雑貨屋「ウェザー」とその友人たちが海水浴の支度をはじめています。
「兄さんは、泳がないんですか?」
「ああ。もっと涼しくなってからな。それまでは、男を物色……あ、海でも見ている」
「……そうですか」
ビーチから少し離れた別荘には、どこかの名家が友人たちを連れて避暑に来ているそうです。
◆◆◆
海の中、イソギンチャクとクラゲが触手を蠢かせながら漂っています。
その触手の断面は、ハート型をしていました。