葦原明倫館

　――キマク

「“獅子座の運勢教えて”さんが教えてくれた通り、こーんなかわいいぬいぐるみさんがキマクにあったなんて！」

　キマク商店街の外れにある人通りの少ない裏路地を、１人の女性が胸に抱いた大きなぬいぐるみに話し掛けながら歩いていました。
　女性はジャケットにデニムのパンツという、ラフで動きやすい服装をしています。
　しかし、ジャケットを下から押し上げて自己主張する豊かな双房や、梳られたプラチナブロンドのロングヘアから、この女性がかなりグラマラスであることが分かります。

「メル、キミと出会えて、本当に、本当に嬉しいよぉ！　しばらく任務でニルヴァーナに行かなきゃならないから、キミにもお部屋でお留守番をしていてもらおうかなぁ。それとも長曽禰さんに相談して、キミだけこっそりニルヴァーナに来てもらおうかなぁ。出会ったばかりなのにしばらく会えなくなるのは寂しいもん」

　女性はぬいぐるみを顔まで待ち上げて微笑み掛け、目を見つめながら話し掛けています。
　この女性がシャンバラ教導団の少佐メルヴィア・聆珈（めるう゛ぃあ・れいか）だと誰が気付けるでしょうか。

「そうそう、ニルヴァーナに行く前に、“獅子座の運勢教えて”さんにもお礼を言わないとねぇ。ちゃぁんと愛らしいクマさんのアップリケも買えたから、送ってあげるんだぁ。うふふ、喜んでくれるといいなぁ」

　メルヴィアは少し前から、ぬいぐるみといった可愛いグッズを話題とするSNSに参加していました。
　このぬいぐるみも、SNSに参加しているメンバーの１人、ハンドルネーム“獅子座の運勢教えて”から聞いた情報です。
　逆に“獅子座の運勢教えて”はクマさんのアップリケを探しており、メルヴィアは今回のお礼に購入して送るつもりでいます。

「あんた、もう少し緊張感を持った方がいいよ」
「ふぇぇ？」

　その時、突然少女に声を掛けられ、メルヴィアは素っ頓狂な声を上げました。
　目の前に熾月　瑛菜（しづき・えいな）が立っていました。

「突然話し掛けてごめん。でも、さっきから見てたんだけど、あんた、危なっかしくてさ。いくらキマク商店街の治安が良くなったとはいえ、ここはキマクなんだ、もう少し警戒心を持たないと危ないよ」

　瑛菜はどうやら無防備でメルヘンに溢れている今の性格“乙女チックモード（メルメルモード）”のメルヴィアに保護欲をかきたてられたようです。
　普通にパラ実生を名乗る蛮族やヤンキー、カツアゲ団が跋扈していますから無理もありません。

「それに、今、あんたが来た辺りは今……って、遅かったか！」

　――どんがらがっしゃん！！

「なに、なんなのぉ！？」

　瑛菜が言うより早く、辺りに破壊音が響き渡りました。
　メルヴィアが振り返ると、そこには喪悲漢と離偉漸屠の2体のイコンが、金棒を振るって建物を壊していました。

「あいつら、この辺りの店舗の立ち退きを狙ってるんだ。みんな突っぱねているから、実力行使に出たみたい」
「そんなぁ。あそこには、まだまだかわいい手作りのぬいぐるみさんがいっぱいあるのにぃ」

　“獅子座の運勢教えて”が教えてくれたのは、老夫婦が営む手作りの雑貨屋でした。
　老夫婦も古くからの荒野の住人でしたが、キマクがある程度落ち着いてからは老後の道楽として店を開いていると、来店したメルヴィアに楽しそうには語っていたのを彼女は覚えています。
　メルヴィアはポケットからピンク色の可愛いリボンを取り出して、斬糸を振るう猛獣使い的な“軍人モード”になろうとしました。
　しかし、金棒の風圧によってリボンが飛ばされてしまいました。

「熾月さん、ピンク色の可愛いリボンない？」
「あいつらグループのはずだから、イコンに乗ってない奴らもいる……って、こんな時にピンク色のリボンなんて言ってないで、早く避難しなよ！」
「うぅん、今のメルにできることでお手伝いするよぉ」
「分かった。じゃぁ、店舗の前にバリケードを築いて、コントラクターへの応援要請をお願いね」


　こうして、キマクの片隅での出来事がコントラクター達に伝えられたのでした。

　このシナリオでは、キマク商店街の隅の方で破壊活動を行うグループから、キマク商店街を守るのが目的です。
　メルヴィアは全学校に依頼を出していますので、どなたでも気軽に参加できます。
　また、たまたまキマク商店街に来ていて巻き込まれたり、イコンを目撃して応援に駆け付けたりするといったご参加もOKです。

　なお、時系列的には現在公開中のグランドシナリオ創世の絆第二部　第三回より少し前になり、メルヴィアがこのグランドシナリオの任務でニルヴァーナに行く直前の話になります。
　グランドシナリオには基本的に影響しません。

　瑛菜は喪悲漢と離偉漸屠の2体のイコンを相手にするつもりです。
　旧式とはいえイコンはイコン、生身で戦うにはかなり骨の折れる相手です。
　メイン武装は金棒ですが、喪悲漢ブーメランや離偉漸屠キャノン、イコンボウなどの追加武装も見受けられます。
　動きを封じ込めたり、仲間との連携が肝になるでしょう。

　メルヴィアは老夫婦が営む雑貨屋の前に簡易バリケードを築いて、イコンに乗っていないグループを受け持ちます。
　パラ実生を名乗る蛮族のようで、人数は10名〜おり、クレセントアックスや血煙爪、対物ライフルや火炎放射器で武装しています。
　今は素のメルメルモードなので、いつものように斬糸を振るうことはできません。せいぜい土嚢や資材を積んでバリケードを強化するくらいです。
　ですので、早めに救援が必要になります。
　他のリアクションで素のメルヴィアを見たことがない方は、今メルヴィアをメルヴィアだと気付けません。

　なお、四天王の称号などは名乗りに使用できますが、配下は呼べません。

・イコンと戦う

・謎の女性（？）メルメルとバリケードを守る