ある日の午後。ツァンダ東に広がる森を通る街道を、一両の馬車がのんびりと歩いていました。
馬車の中には子供達が。彼らはツアーとして空京を見学し、ツァンダの南東にある小さな村、シンクに帰る所でした。
空京の規模に興奮した子供達のはしゃぎっぷりは未だに治まる事も無く、そんな姿を見て引率者である篁 花梨(たかむら・かりん)が笑顔を浮かべます。
「ふふ、みんな凄く楽しそう。早く村に帰って、お母さん達に話したくてたまらないみたいね」
――しかし、その楽しげな空気が突如破られました。
「よぉ〜。悪ぃけどその馬車、止まってくんねぇかい?」
突然現れた男はそう言って馬車の行く手を遮りました。
どこかに隠れていたのでしょう。仲間と思われる男達が続々と現れ、行く手だけでは無く退路をも塞ぎます。
柄の悪い外見に粗暴な雰囲気。彼らはこうして街道を通ろうとする商人や旅人を襲うならず者達でした。
その手には血煙爪(チェーンソー)やハンドアックス。中にはトミーガンを所持している者もいます。
「姉ちゃん。命が惜しかったら……分かるよなぁ?」
先ほどまでの雰囲気から一転、怯える子供達を護る花梨が油断無く辺りを見回しました。
既に街道は押さえられ、中にはスパイクバイクに乗っている者もいる為に振り切る事も難しい状況です。
(一か八か、やってみるしか無いわね……)
花梨は胸元から光輝く杖――光条兵器――を取り出すと大きく掲げ、出来る限りの明るさで光を放ちました。
「ぐっ!」
突然の光に目をやられたならず者達に動揺が走ります。花梨はその隙を逃さずに包囲の緩んだ所を突破し、森の中へと馬車を走らせました。
ようやく彼らが視力を取り戻した時には既に馬車の姿は消え、そこには静寂だけが残っていました。
「あんのアマぁ! 舐めやがって!!」
怒り狂う男達。その中のリーダーと思われる男がスパイクバイクに乗っている手下へと命令を出していきます。
「手前ぇらは戻って他の奴らを連れて来い! 街道を固めて絶対ぇに逃がすんじゃねぇぞ!!」
「へいっ!」
「後の奴は俺について来い! 草の根分けても捜し出せ!」
その声と共に動き出す彼ら。今ここに、ならず者達による狩りが始まりました。
所変わって蒼空学園。大学部1年の篁 透矢(たかむら・とうや)は今日の講義を終え、友人と別れてシンクへと帰ろうとしていました。その途中で携帯電話が明るいメロディーを奏でます。
「お、花梨からか。今日戻ってくる予定だったし、もう村に着いたのかな」
通話ボタンを押し、携帯電話家を耳に当てます。その直後、彼の顔がこわばりました。
『透矢さん! 助けて下さい!』
パートナーである花梨の話では、帰りの馬車がならず者達に襲われ、その場は逃げ切ったものの森の中を強行した為に馬車が損傷し、動けなくなってしまったとの事でした。
ならず者達の脅威が去っていない今、子供達を連れての徒歩の移動は危険と判断して近くにあった洞窟に子供達を隠しているそうです。
「分かった。村長にも連絡して助けに行く。だからそれまで、子供達を頼んだぞ」
透矢はそう伝えると携帯電話を切り、今度はシンクへと電話をかけます。
(とりあえず村で代わりの馬車を用意して貰って、後は……そうだ、あいつらが残っていてくれれば――)
携帯電話でシンクの村長へと連絡をしながら、透矢は友人達に協力して貰う為に蒼空学園へと踵を返しました。
果たして、無事に子供達を救い出す事が出来るのでしょうか……?