空京大学

　シャンバラ刑務所――その最下層。

「……この先に」

　厳重な封印の施された扉に高根沢　理子とセレスティアーナ・アジュアが手を押し当てると、扉は魔術の光と機晶の光を走らせ、ゆっくりと開きました。
　古代の匂いが濃く残る通路を進んだ先で。

「ウゲン・カイラス……」

　金鋭峰（じん・るいふぉん）は、複雑な陣によって封鎖された牢の奥に横たわる朽ちた身体を見つけ、目を細めました。
　かつて、地球とパラミタの双方を消滅させようとした少年のそれには蛆が湧き、腐り果てているようでした。

（つまらん遊びはよせ）

　コリマ・ユカギールの冷静な反応に――
　ウゲンの身体は起き上がり、身体の蛆を払いました。
　
「……おい」
　
　ひくっとコメカミを揺らした鋭峰を前に、面白くなさそうな顔をしたウゲンがやれやれと首を振ります。

「せっかく時間をかけて準備をしてたのに」
「やはり生きておったか」

　アーデルハイト・ワルプルギスが嘆息した方を見やり、ウゲンは口端を上げました。

「アールキングに会いに来たのだったら残念だったね。“彼”なら、だいぶん前に出ていったよ。シャムシエルも彼らの元だ」

　彼らが見たシャンバラ刑務所の最下層……。
　『真の王』を名乗る“世界樹”アールキングが封じられていただろう空間には、ナラカまで続きそうな暗く巨大な空洞が開いていました。

「ふむ……パラミタ大陸の力が弱まり、奴を捉え留めおけぬようになったか」

　忌々しげに呻くアーデルハイトの様子を見やり、ウゲンはクスリと笑みを零しました。

「彼がまだ居た頃、オーソンとかいう元ポータラカ人が来て、ちょっと面白いことを言っていたよ。確か……『葦原島は“餌”だ』とか何とかってさ」


■□■

　葦原島――明倫館。

「何か……とてつもなく大きなものが漂っています……」

　葦原　房姫（あしはらの・ふさひめ）は額に脂汗を浮かべながら、ハイナ・ウィルソンに告げました。
　異常な気配を感じているといいます。

「“それ”は、この葦原島を軽々と丸呑みできるほど恐ろしく巨大な……」
「そんなものが葦原島を目指しているというでありんすか？」
「いえ……近くまで呼び寄せられてはいるものの、今は見失っている――。しかし、このままではいずれ……」

　――と、真田　佐保（さなだ・さほ）が現れ、ハイナに耳打ちをしました。

「明倫館に侵入しようとした複数の賊がいたでござる。どうやら、狙いは風靡。何とか防いだものの、警備の生徒数人が重傷を負ったでござる。そして――賊が残したものに、こんなものが」

　佐保が見せたのは、壊れた機晶銃でした。

「専門家によれば、これは現代パラミタの技術より高度なものを使っており、更に、最近造られたもののようでござる」
「ニルヴァーナの技術を持った者が関わっていると？　となると……シャンバラ刑務所の調査から戻った校長らの報告が気になるでありんすな」
「おそらくは、オーソンなる者が襲撃の裏に居るものかと。それから、もう一つ。襲撃者の中に、失踪の報告がされていた機晶姫や剣の花嫁の姿を見たという者が居るでござる」

　最近、パラミタの各地では機晶姫や剣の花嫁の失踪報告が相次いでいました。
　その失踪者たちが明倫館の襲撃に加わっていたというのです。
　
「機晶姫も剣の花嫁もニルヴァーナの技術に深く関わる種族……オーソンの一派に操られてしまっていると考えるべきでありんしょう」

　ハイナは明倫館の生徒たちに警備の志願を募ると共に、他校へも協力を要請しました。

「先の襲撃は、おそらく『挑発』。わっちらの動きを観察し、風靡の場所を探るためのものでありんしょう。しかし、策に乗らないわけにはいかない。オーソンには問いたいことが山ほどあるでありんすからな」


■□■

（明倫館はこちらの狙いに勘付き、あえて乗ったか。私を引っ張り出す気と見える……ならば、礼に応え、私も出るとしよう）

「今度はボクも行って良いんでしょ？」

　表情のないオーソンとは対照的に、にこやかに笑みを浮かべた子供が無邪気に問いかけます。
　緑の髪、青色の瞳、褐色の肌――少年にも見えますが、十五歳にも満たないような少女です。

（そうだ、ユリン。お前も来い。……あの“女”は、どうも信用できないところがあるからな）

　オーソンは造り物めいた目玉をコロリと地面に向けました。地の底の底を見るように。

（後少しだ。今一度、目覚めさせ、伝えよう。お前が喰らうべきものの在りかを）


■□■

　――風靡が保管された隠し砦。

「本当にベルがいたのかなあ……」

　北門　平太（ほくもん・へいた）は警備に志願していました。荒事を苦手とする彼がここにいるのには、もちろん、理由があります。
　先日の明倫館襲撃では、多数の機晶姫や剣の花嫁が目撃されています。
　その中には、失踪したとされていた者の姿もあり、行方不明中の平太のパートナー、ベルナデット・オッドもいたというのです。

　以前、葦原島“自体”として封じられていたミシャグジが復活しようとした際に現れた謎の女“漁火”。
　ベルナデットは、その漁火が倒されたときに残された珠の欠片を持ったまま平太の前から姿を消しています。

「操られてるって言うけど……もし本当なら、どうしよう……」

■9月23日追記
・前編でＬＣが操られているとした場合、後編でも状態が継続する可能性もあります。
・「漁火の欠片」を使用することができます。
・「漁火の仲間」の称号を持っている方は、望めば、漁火と接触を行うことができます。


このシナリオは【●】関連（“真の王”関連）のシナリオとなります。
※ガイド冒頭で、シャンバラ刑務所や金鋭峰らが登場していますが、本シナリオではそちらにアクションを掛けることは出来ません。

本シナリオは前後編の前編となり、前編では主に「風靡」の行方が決定されます。


●風靡が保管されている隠し砦
城下町郊外の山中にひっそりと建つ砦です。
砦は二階建てで、二階中央に風靡を収め、厳重に封印された宝物庫があります。

ハイナ・ウィルソンは宝物庫の前に陣取り、自ら護りにあたります。
真田　佐保は一階を。
北門　平太は外の警備にあたります。


【罠設置アクション】
砦内部と周辺に、あらかじめ罠を仕掛けるということも可能です。
例：
・落とし穴を造っておく
・明倫館で資材を借りて機晶技術を使い、機晶レーザーによる防衛装置を仕掛けておく
・どんでん返しの壁を作っておく

などなど。

罠設置アクションは、一つまでであれば「作っておいた」ことして、他のアクションと併用することができますが、
二つ以上となる場合、他の行動を加えたときにダブルアクションとなることがあります。


「風靡」は使い手の意志で相手の感情を操る力を持ち、無機物を斬る剣です。

●襲撃者について
ユリンと名乗る少女が、襲撃者たちと共に正面から堂々と襲ってきます。
ユリンは少女の形をしていますが、巨大な二振りの剣を振るう強敵です。

また、正面以外からも何十名という襲撃者たちが砦への侵入を試み、風靡を奪おうとしてきます。

襲撃者たちは一様に黒装束に奇妙な面を付けており、中には人体の一部を機晶兵器にしている者も居るようです。
彼らの能力自体は並みですが、装備している兵器が高性能なので注意が必要です。
兵器は彼らの身体と複雑に融合しており、引きはがすと機能を失います。


また、この襲撃者たちの中には失踪中の機晶姫や剣の花嫁も混ざっており、何かに操られています。

今回、機晶姫か剣の花嫁を参加させていると、「パートナーが操られて襲撃者側になっている」とする事も出来ます。
パートナー同士は惹き合ってしまうようで、砦防衛にあたっていれば自然と遭遇することになります。


●その他
今回、そのＰＣ様が属されている陣営と敵対する側に明かされない方が良さそうだとマスターが判断した内容については、
アクション結果の一部を、個別リアクションという形で個別コメントにてお返しさせていただく場合があります。
個別で送らせていただいたリアクション部分は、後編にて公開させていただきます。

そのため、前編に参加しているが、後編で参加していないという場合でも、
後編リアクションにて登場シーンが公開されることがございますので予めご了承ください。

任意で一部のアクションの結果を個別リアクションで返してもらうよう指定する「【裏アクション】」を掛けることもできますが、
こちらはダブルアクションを推奨するものではありませんのでご注意ください。
また、裏アクション指定したものであっても、結果によっては前編リアクションで公開されることもあります。

・風靡を護る！

・ユリンを倒す！

・パートナーを助ける！