天御柱学院

「はぁはぁ……！　く、くそ……！」
　それは海京の、不気味なほどに静まり返った夜の事でした。
　壮年の男性がひとり、何かから逃げるように路地裏を走っています。
　ふと、行き止まりにぶつかった彼は青ざめた顔で後ろを振り返りました。
　闇を纏うようにして現れたのは、全身漆黒のライダースーツに、フルフェイスの仮面を装着した一団。
「な、何者だ貴様ら……！」
　追われた男は銃を撃ち抵抗します……しかし、彼らは容易く弾丸を素手で叩き落としてしまいました。
「す、素手で弾丸を……。ど、どうなってる……？」
　その質問は無視して、仮面の集団は古びた書類を突き付けます。
「質問はひとつ。これに心当たりがあるな？」
「……そ、その計画書は！？」
「時代はこの時代であっているはずだ。これはどこにある？　もう完成しているのか？」
「し、知らん！」
「……そうか。ならば思い出せるよう我らが手を貸してやろう」
「！？」

　・
　・
　・

「被害者は海京警察副署長・海条保安（かいじょう・もりやす）。５３歳。帰宅途中に何者かに襲われた模様です」
「全身に無数の刺し傷か。拷問されたんだな、ひでぇことしやがる……」
　翌朝。現場には天御柱学院生徒会長山葉　聡（やまは・さとし）の姿がありました。
　天学の風紀委員と海京警察が捜査にあたった結果、彼の警護に付いていた警官数名も惨殺死体で発見されました。
　犯行時刻は夜の九時過ぎ。ここは繁華街とも近く、人通りが少ないわけでもないのですが、どういうわけか目撃者はいません。
「また目撃者なしか。今月に入ってからもう三件目。どうなってるんだまったく」
「ええ、一週間前に西地区の科学プラントが襲撃されたばかりですからね」
　風紀員の鈴木くん（趣味・釣り）は答えました。
「そっちの捜査はどうなってるんだ、スーさん？」
「それが進展は何も……」
「何も？」
　聡は髪を掻きむしりました。
「幸い、海京の人達に直接的な影響が無いからいいものの、馬鹿デカイ工場が全壊してるんだぜ！」
「…………」
「そんなもんイコンみたいな巨大兵器でも使わなきゃ無理な話だ！　なのに何で目撃者がひとりもいねぇんだよ！」
「……わかりません」
「……まったくどうなってんだ、最近の海京は？」
「この二ヶ月、異常なほど未解決の殺人・破壊事件が急増していますね。あまりにも事件が連続しています」
「これらの事件、全て同一犯だと思うか？」
「手口から見ておそらく……」
「『クルセイダー』の仕業です！」
「！？」
　２人が振り返ると、そこには制服姿のアイリ・ファンブロウ（あいり・ふぁんぶろう）がいました。
「彼らは『シャドウレイヤー』を使って暗殺や破壊工作を行うんです！」
「はぁ？」
「シャドウレイヤーで覆われた空間は契約者でなければ知覚出来ません。
　事件のあった場所は非契約者の多い地区ですから、目撃者がいないのはきっとその所為です。
　それにレイヤーの中では特別な人間以外、本来の能力を発揮出来ないんです。一刻も早く対クルセイダーの討伐隊を……」
「ちょっと待て、お前は誰だ？」
「アイリ・ファンブロウ。パイロット科の生徒です。何でも自称『未来から来た未来人』だとか……」
「……え、痛い系の人？」
　呆れた顔で２人はアイリを見ました。
「私は未来で奴らと戦ってきました。奴らがこの時代に来てる……このまま放っておけば、私の居た未来と同じ大変な事に……！」
「えーと、捜査の邪魔だから向こうに行っててくれるか？」
「信じてくれないんですか？」
「……だって、タイムスリップなんて出来るわけないだろ？」
「ごっこ遊びも結構ですが、あまり他の生徒に迷惑をかけないように」
「！？」
「あなたが他の生徒に『私と契約して魔法少女になってよ』と迫っていると、校内で問題になっていますよ」
「そ、それは……」
　それだけ言うと２人は仕事に戻っていきました。

　・
　・
　・

「……アイリちゃん。未来人なんて言っても皆困るだけだよぉ」
　登校する道すがら、アイリの相棒の遠藤　寿子（えんどう・ひさこ）は言いました。
「普通にしてようよぉ。世界の未来を守るのも大事だけど、夜中にパトロールしたりするのは、最近危ないしもうやめよう？」
「……あなたも私のことを信じてないんですか？」
「え、う、うーん……。でも、嫌がる人を魔法少女に勧誘するのはちょっと……」
「シャドウレイヤーの中で自由に動けるのは魔法少女だけなの。奴らと戦うにはもっと魔法少女を集めないと」
「どういう理屈でそうなってるのかが謎なんだけどぉ……？」
「未来では常識です」
　とその時、天学の大文字先生が後ろから、２人の頭をくしゃりと撫でました。
「そんなチンタラ歩いてると遅刻だぞ、遅刻！」
「だ、大文字先生！？」
「最近は物騒だ。悪党なんかに負けんよう、我々も力を付けねばな。イチに努力、二に根性、サンシがなくてあとは気合いだ！」
　ワハハハ、と豪快に笑って先生は学校に向かって行きました。
　朝から寿子は大好きな先生に会えて、目をキラキラと輝かせてます。
「未来人の事は信じてくれないのに、あの先生の事は信じてるのが納得できません……」
「だって凄い先生なんだもん！」
　天御柱学院普通科教授大文字勇作（だいもんじ・ゆうさく）。パワフルで少年の心を忘れない４０歳。独身。
　学会では荒唐無稽な企画ばっかり持ってくるのでちっともスポンサーが付かないポンコツ研究者と有名な人物です。
　整備科の先生として招聘されたのですが、変な理屈（スーパーロボット理論）ばかり唱えるので普通科に左遷されたとか……。
「あの人の理論のほうが滅茶苦茶だと思うんですけど」
「そんなことないよ、先生の話には夢があるんだから。凄くアツイんだから。超絶変形イコンとか、気合いで動かすイコンとか……」
「聞けば聞くほど現実的じゃないような……」
　疑問の表情のアイリでしたが、ふと閃きました。
「ところで、一連の怪事件は、海京の要人も標的になってますが、科学者も標的になってるのを知ってましたか？」
「ふぇ？」
「このまま奴らを野放しにしていたら、大文字先生も……」
「はわわわーーっ！？」
「それを阻止するには、あなたの魔法少女の力が必要なの。ね、だから、私と一緒に海京の平和を守りましょう」
「……で、でもぉ」

マスターの梅村象山です。
天御柱学院のキャンペーンを担当させていただく事になりました。
よろしくおねがいします。


【今回のシナリオについて】

未来人アイリ・ファンブロウは今回の事件についてよく知っているようです。
がしかし、多くの未来人がそうであるように、与太話と思われてまともに聞いてくれる人はいません。
なので相棒の遠藤寿子と一緒に独自に、その、彼女の言うクルセイダーなる組織を追っているようです。
彼女の話では敵の使う謎空間『シャドウレイヤー』では魔法少女以外は大幅に能力が減退してしまうそうです。
そのため、彼女は協力してくれるPCで、クラスが魔法少女ではない場合、
未来道具『魔法少女仮契約書』で一時的に魔法少女、もしくは魔法少女のマスコットにしてくれるそうです。
仮契約書は簡易的に魔法少女やマスコットとなれますが、効果は一日しか持ちません。
また、契約書にサインすると強制的に魔法少女っぽい衣装になってしまうので、
恥ずかしい人はマスコットになることをお勧めします。
契約希望の方はアクション欄に【魔法少女になるよ！】【マスコットになるよ！】と書いて下さい。

また、事件は生徒会長の山葉聡が風紀委員と海京警察を大々的に展開して捜査をしています。
風紀委員での実績のあるPCには【２０２２年度天御柱学院風紀委員】の称号が付与されています。
風紀委員として活動したい場合、称号を付けるようにお願いします。
こちらに協力すれば、これまでの事件の詳細や、立入禁止となってる破壊された科学プラントの調査を行う事が出来るでしょう。

海京に事件が発生するまでは、アイリも寿子も天学の学生として過ごしています。
２人と話がしてみたい、同じく学園生活を過ごしてみたい場合は、事件が発生する前にコンタクトをとると良いでしょう。
事件が発生してしまうと２人ともそれどころではなくなってしまうので、質問に答えてくれるか微妙になります。
第一回ではたくさんの事柄がまだ謎に包まれています。
様々な角度からアクションをかけてみると思わぬ所に手がかりが見つかるかもしれません。
今回のリアクションで引き出せた分だけ、第二回の行動範囲（調査できる箇所）が広がります。


【本シナリオにおける注意点です】

ダブルアクションについて、改めて説明します。
MCとLCの目的が別のアクション、目的が複数あるアクション。
これらはダブルアクションになります。この場合、アクションが一部しか採用されませんので、ご注意ください。

またシーンを複数に跨ぐようなアクションも限りなく透明な……じゃない、ブラックに近いグレーです。
ダブルアクション気味になってしまうので、ワンシーンで魅せるようなアクションにして貰えると助かります。
ワンシーンで自分を出し尽くすようなアクションこそ、完成されたアクションだと私は思う次第です。

上記のシーン跨ぎ問題があるので、原則MCとLCの別行動を禁止とさせていただきます。

・謎の殺人・破壊事件を追う

・謎の巨大兵器に挑む

・天学の学園生活を送ってみる

・大文字先生と仲良くなる