空京

　――カナン。
　シャンバラ王国の東、ジャタの森を抜けた場所に位置するこの国は、国家神であり、光の世界樹セフィロトの化身でもある豊穣と戦の女神イナンナと、彼女を補佐する神官達によって統治され、“約束の地”と謳われるほど緑豊かで平和な国でした。
　しかし、1年程前、神官の長ネルガルがイナンナを封印してしまい、自ら『征服王』を名乗ると、カナンの征服を開始しました。
　ネルガルは封印したイナンナの豊穣の力と戦の力を引き出すことができ、逆らう領主には砂の雨を降らせて蝗害（こうがい）を起こし、時には国軍である神官軍やモンスターを差し向けました。
　光の世界樹セフィロトはイナゴの大群に覆われてその光を失い、緑溢るるカナンは1カ月も経たずに荒廃し、ネルガルによって支配されてしまいました。

　カナンの人々を救おうと、西カナン・ウヌグの領主ドン・マルドゥークが立ち上がりました。彼は『豪傑ドン・マルドゥーク』と呼ばれ、エリュシオンなど近隣諸国にその名を轟かせていました。
　ドン・マルドゥークはウヌグ各地でネルガルにゲリラ戦を仕掛けて抵抗を続けています。
　同時に自らシャンバラ王国に赴き、各校を回ってカナン開放の協力を求めました。各校の校長は快く応じました。
　生徒達を派遣するにあたり、古代戦艦ルミナスヴァルキリーを所有する女空賊フリューネ・ロスヴァイセ（ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ）とその先祖であるユーフォリア・ロスヴァイセに声が掛けられました。居城を失っているドン・マルドゥークは、生徒達に宿を提供することが出来ません。生徒達を速やかに輸送しつつ、当面の住処を確保するためにもルミナスヴァルキリーが適任でした。

　また、ドン・マルドゥークの挙兵を受けて、『黒騎士』の異名を持つ南カナン・ニヌアの領主シャムス、東カナン・アガデの領主バァル・ハダドの側近セテカ・タイフォンも次々と挙兵し、生徒達と共にネルガルに抵抗を開始しています。



　――ポート・オブ・ルミナス。
　生徒達が西カナンの人々と力を合わせて開拓して完成した、西カナンの岬の港です。
　現在はシャンバラ王国からカナンへの移動中に攻撃を受けて不時着したルミナスヴァルキリーが鎮座し、修理が行われています。

「これが空飛ぶ船の港か」

　ドン・マルドゥークは感慨深く呟きます。西カナンに港はありませんし、まして飛行戦艦の港を見るのは初めてです。

「病院に給水施設も完成しているから、傷ついた人達や兵士を収容できるわ」
「それはありがたい！　何せ今は水を得るのも一苦労だからな。神官はほとんどネルガルに付いてしまっているし、薬師（くすし）も多いとは言えん状況だ」

　フリューネ・ロスヴァイセが病院と給水施設を指さすと、ドン・マルドゥークは深々と頷きました。

「ただ、問題があるとすれば」
「カナンの人々がこれらの技術についていけていないのと、機晶石が少ないってことだよね」

　ユーフォリア・ロスヴァイセの言葉の続きを、10歳くらいの褐色の肌の少女が告げました。
　この少女こそ豊穣と戦の女神イナンナなのです。彼女はネルガルの封印が弱まった隙を衝いて思念を飛ばし、こうして短い間ですが具現化することが出来ました。
　今の彼女の姿は力を失った、荒涼とした大地が広がるカナンそのものを表しているのです。
　ユーフォリアが危惧しているのは、カナンの人々の文化レベルです。カナンの人々の文化レベルは中世ヨーロッパ程度であり、生活の中で魔法は普通に使われていますが、機晶技術はあまりありません。そのため、給水施設やプラントピアといった生活に根付いた施設は使えるものの、病院やこのポート・オブ・ルミナスは生徒達の力なくして通常稼働しないのです。

「魂鎖蛙斗穂織屡（コンサートホール）や約束の森といった広場が出来ているから、生徒達と民の交流を図ってみたらどうかな？」
「素晴らしい考えだと思います」

　生徒達とカナンの民がもっと交流し、施設の使い方をレクチャーすればカナンの人々も使えるようになるでしょう。

「ただ、それには機晶石の問題をクリアーしないと。ドン・マルドゥークやフリューネがシャンバラから運んできていますが、それも限界があります。それに運搬を神官軍に邪魔されていますから、機晶石をカナンで発掘する必要があります」
「シャンバラから持ってくると言えば、シャンバラ・カナン共同イコン研究所を造ったけど、肝心のイコンをシャンバラから持ってくることはできなかったわ」
「機晶石が採れる場所は知っているが……」

　ユーフォリアとフリューネに話すドン・マルドゥークは途中で言いよどみました。

「“龍の逝く穴”なら機晶石が取れるよ」
「女神イナンナ！？」
「大丈夫だよ、コントラクター達からアーデの匂いを感じたから。それにわたしも、カナンに少しずつ緑を取り戻してくれているコントラクター達ならやってくれると思う」

　女神の言葉にドン・マルドゥークは驚きますが、イナンナは頭を横に振り、自分の小さな身体を抱きしめました。
　生徒達の開拓により、カナンは少しずつ緑を取り戻しています。それはイナンナが本来の力を取り戻していくことにも繋がります。
　彼女は豊穣神としての力、戦神としての力、そのどちらかを取り戻せるまでになっていました。

「あの、アーデって……」
「それと、イコンってサロゲート・エイコーンのことでしょ？」
「え？　ええ」
「カナンのサロゲート・エイコーンの1体も龍の行く穴にあるんだ」

　フリューネとイナンナが質問を切り出したのは同時でした。フリューネが応えると、イナンナはイコンも龍の逝く穴にあると告げました。
　カナンにもイコンが存在していたそうです。イナンナの戦神のしての力の象徴であるエレシュキガル、代々神官長が継承してきたエンキドゥ、選ばれた勇者が手に入れられるギルガメッシュ、そして龍の逝く穴にあるというアンズーです。

「それでしたら直ちに兵士を編成して探」
「マルドゥーク様！！」

　そこにドン・マルドゥークの片腕メルカルトが息を切らしながら駆けてきました。

「何事だ！？」
「西カナンとシャンバラの国境付近で、我が方の兵と民が神官軍の攻撃を受けているという報告が入りました」
「機晶石の件が仇となったか……」
「神官軍はアエーシュマを連れているとのことです」
「あの巨人をか……ネルガルめ厄介なことをしてくれる。兵を預ける、お前が指揮して民を救出してくれ」
「了解しました！」
「わたくしも行きましょう。わたくしのペガサスでしたら先行できます」

　ユーフォリアはメルカルトと共に西カナンの民を救いに向かいました。

「あたし達はあたし達で出来ることをしようよ」
「そうですね。オレは残った兵を編成します。フリューネは」
「分かっているわ。生徒達とカナンの人々の橋渡しをするわね」

　イナンナとドン・マルドゥーク、フリューネもまた慌ただしく駆けていきました。

この度『戦乱の絆』とは別に、『カナン再生記』のシナリオをグランドシナリオで行うことになりました。
『カナン再生記』に参加中の方も、今まで『カナン再生記』に参加できなかった方、これから参加を考えられている方にもお勧めです。

『カナン再生記』のリアクションを読んでない方も、特設ページと今回のシナリオガイドを見れば基本的な情報は得られます。
また、参加された方にカナン関連のアイテムも配布いたします。
『カナン再生記』は今からでも十分始められます！　お気軽にシナリオにご参加いだたけますと幸いです。

リアクションの執筆は桂木京介マスターが担当いたします。

このシナリオでは、主に3つの出来事を扱います。
どの出来事に参加するか、アクションの目的に番号を書いてください。
無記入や番号違いの場合は判定で不利になりますのでご注意ください。
また、複数の番号をまたいだ行動はご遠慮頂きますようお願いいたします。


【１】カナンの民と交流する／主なNPC：フリューネ
　掲示板企画「『カナン再生記』開拓スレッド」で完成した施設で、カナンの人々と交流します。
　現在完成している施設は以下の通りです。

【西カナン・公共施設・病院】
【西カナン・公共施設・ポート・オブ・ルミナス】
【西カナン・公共施設・給水施設】
【西カナン・公共施設・シャンバラ・カナン共同イコン研究所】
【西カナン・公共施設・魂鎖蛙斗穂織屡】
【西カナン・公共施設・プラントピア】
【西カナン・広場・約束の森】
【西カナン・広場・ダークサイズカナン支部建設予定地】
【南カナン・住居・久我内家別宅】

　病院やポート・オブ・ルミナスの使い方をカナンの人々にレクチャーしたり、約束の森でお茶会を開いたり、魂鎖蛙斗穂織屡でコンサートを開かれてみては如何でしょうか。
　もちろん、施設と関係なくカナンの人々と交流して頂いて構いません。主な舞台は西カナンですが、南カナンや東カナンに行くこともできます。
　ただし、完成していない施設につきましてはアクションを掛けることが出来ません。
　また、道につきましては、2月7日（月）に公開予定の、桜月うさぎマスターのペリフェラルシナリオで扱います。


【２】カナンの民を救出する／主なNPC：ユーフォリア、メルカルト
　西カナンとシャンバラの国境付近（ジャタの森を抜けてすぐの辺り）で、神官軍の攻撃を受けている西カナンの民とそれを守る兵士を救出します。
　神官軍は神官（プリースト）と神官戦士（ナイト）で編成されており、火を吐く地獄の番犬ヘルハウンドを連れています。
　また、今回はネルガルが呼びよせたアエーシュマという巨人も引き連れています。
　アエーシュマは全長約38mで、毛むくじゃらの体と血塗られた棍棒を持っています。巨体の割に俊敏なので注意が必要です。
　アエーシュマを撃退し、西カナンの民をポート・オブ・ルミナスまで連れてきてください。


【３】龍の逝く穴に向かう／主なNPC：イナンナ、ドン・マルドゥーク
　名前の通り、死期を悟ったドラゴンがここに来て最期の時を迎える、と言われている洞窟です。
　カナンに生息するドラゴンの9割がこの洞窟にいます。
　死期を悟っており、凶暴になっているものも多いので注意が必要です。
　また、ワイバーンなどドラゴンの眷属も棲みついています。

　低い階層で機晶石が採れますので、こちらの採取はそれほど危険ではありません。
　機晶石が採取できれば、開拓して造った施設のエネルギー問題は当面解決します。

　カナンのイコン・アンズーは深い階層で眠っているので注意してください。
　アンズーを手に入れることが出来れば、やがてシャンバラで入手が可能になるでしょう。


【４】その他
　ネルガル側に付くなど、上記の【１】〜【３】にあてはまらない自由な行動を行ってください。
　内容に準じて採用の難易度は高くなります。


　なお、カナンにイコンは持ち込めません。
　また、NPCはカナン関連のNPC以外は呼べませんのでご注意ください。

・【１】カナンの民と交流する

・【２】カナンの民を救出する

・【３】龍の逝く穴に向かう