「うーん、どうしようかなあ……」
うずたかく本が積み上げられた机にぼんやりと頬杖をつき、悩ましげにため息を漏らす男を見て、せっせと本棚に本を戻していた青年が後ろから声をかけました。
「どうしたんですか、オリヴィエ博士? いい年こいた男が『悩ましげにため息』とか気持ち悪いですよ。また実験に失敗したんですか」
「またとは何ですか、人聞きの悪い。これでも私は君が蒼空学園に憧れて休暇をとってフラフラとパートナー探しに行ってる間に、ついに試作機1号を完成させたんですからね」
若くしてゴーレム研究の第一人者、ラウル・オリヴィエ博士は、助手の青年ヨシュア・マーブリングをジト目で睨んで言い返します。
「えっそうだったんですか凄いですね!
でもその試作機は何処に?」
「………………」
「オリヴィエ博士?」
「……いや、ほら、こないだ、ツァンダ近くの遺跡で、地下通路への入り口が発見されたでしょう」
「ああ、ええ、確かそんなニュースが出ていましたね」
「で、私の長年のカンと知り合いの考古学者やトレジャーハンターの皆さんの意見を色々とまとめて総合的に判断した結果、」
「……博士の知り合いの考古学者やらトレジャーハンターって皆胡散臭そうな人達ばっかじゃないですか……。
てゆーか博士まだ30代前半じゃないですか長年のカンて何ですか」
「話の腰を折るんじゃありません。
とにかくあの遺跡の最深部には私が長年捜し求めていた、あの鉱石があるに違いないと確信したんですよ!」
「鉱石?」
「物覚えの悪い人ですね。水晶におけるダイヤモンドのように、機晶石にもワンランクレベルの高い鉱石が存在するはずだという仮説を以前教えたじゃないですか! 名付けて――」
「えっあれ本気で言ってたんですか」
「――名付けて、貴重石!!!」
「……………………(目眩)……………………博士、ネーミングセンスが悪すぎです」
「えっ!? どこがっ!?」
「ゴーレムにしたって、『ドラゴニュートの遺伝子がどうたらだからドラゴーレム!』とか寒すぎなんですよ!!」
「ああ……パラ実校舎があった頃はよかったよね……実験材料に事欠かなくてさ……」
「わーっわーっわーっ!! ソレよそで触れ回っちゃダメですよッ!! そうだゴーレム! どうしたんですかゴーレム!」
「いやだから、試作機1号の性能を試す絶好のチャンスだと思ったのに君いないしさ……」
「試運転なんて冗談じゃありませんよお断りです」
「一息で言うなよ……。で、バイト君を雇って、ゴーレムで遺跡地下最深部に貴重石を取りに行って貰ったんだけど、1週間経っても帰ってこないんだよねえこれが……(ため息)」
「………………(絶句)」
「ヨシュア君? どうしたの顔青いよ」
「………………なっなっなっ、何という無謀な真似をするんですか博士!! 自律型操縦式(←矛盾)ゴーレムとかワケわかんないものを罪もない一般人にテストさせて! 大体ゴーレム研究の第一人者とか言ったって、他に研究してる人がいないからじゃないですか! ナンバー1じゃなくてオンリー1ですよ! ああっどうしようバイト君が遺跡の中で死んでたら! そもそも貴重石なんて根拠もへったくれもない仮説以前の妄想で人様を巻き込むとは何事ですかッ!!!!」
「……突っ込みのお言葉がハリセンより痛いんですけど。
妄想言うけどね、科学者は夢を食べて生きてる生物なんだよ」
「夢で人の命を巻き込むんじゃありません!!」
「…………あんまり怒ると血管が切れるよ。
まあとにかく、そんなわけなのでヨシュア君、君ひとつ」
「冗談じゃありませんよ僕のひ弱さを舐めてますか!」
「…………うん……自慢できる話じゃないと思うけど、そうだね……。
じゃあここは、またバイト君を雇って、遺跡地下にバイト君1号とドラゴーレム試作機1号と貴重石の捜索に行ってもらうってことで……」
「だから貴重石なんてものはありません。少しは現実も見てください例えば財布の中身とか。ちなみに博士、バイトを雇えるお金なんてあるんですか? 僕先月から給料の支給が停滞されてるんですけど」
「………………ボランティアを募るということで………………」
「ちなみにパートナーは見つからなかったんだねえ」
「余計なこと言わなくていいです!!(涙目)」