こちらは全対象向けのシナリオです。
今まで一度もシナリオに参加したことのない方も、古参の方も奮ってご参加ください!
「……というわけで、迷子を捜して欲しいのですよ」
サラディハール・メトセラ=リリエンスール先生は言いました。
リリエンスール先生は薔薇の学舎の教諭。
薔薇の園に相応しく、妖艶な美貌の教師です。
伊達メガネの向こうから、値踏みするような瞳がキラリと光ります。
迷子の生徒もとい迷子の生徒(未満)は、本日、晴れて入学と相成りまして、とどのつまりを申せば、時間になっても来ないのだそうです。
約束の時間は八時半。現在、十時です。
「時間を守らない子じゃないんですよ。でもね……はぁ。方向感覚が……イマイチなのです」
ため息混じりに言ったリリエンスール先生。悩める姿も綺麗です。
それはさておき。
「あの子は財閥の子息だからね」
横から言ったのは、薔薇の学舎の生徒、ソルウェーグ・ヤルル・ヴュイヤール。
深緑の瞳が優しげな雰囲気の青年です。肩にかかる金髪をゆるく組みひもで結っています。制服は着ず、やや薄紫がかったサマーウールの三つ揃えを着た姿はスマートです。
「迷子の子の名前はルシェール。ルシェール・ユキト・リノイエというんだよ」
「日本にいましたから、日本人名を名乗るかもしれませんね。巫・雪兎(かんなぎ・ゆきと)という偽名ですが、そう名乗る子がいたら、捕獲をお願いします」
リリエンスール先生が言いました。
パラミタ大陸の豊富な資源に大きな期待を寄せるのは日本国民だけではなく、諸外国の、特に企業の人間にとっても期待できるものでえもありました。
今回入学する生徒の家族も喜び、リノイエ財閥内でも喜びの声は上がりました。
しかし、気に入らない人間もいるもので、対抗する企業などは羨ましい限りでしょう。実際、何度か揉め事もあったようです。
パラミタのパートナーを得るということがどういうことかわからなかったルシェールは、大きな事件など起きぬよう、財閥の幹部に通達が行く前に自分から空京に向かってしまったのです。
ソルヴェーグはパートナーを気にかけているのでしょう、心配げに言いました。
「何もないと良いんですがね」
それを聞いてリリエンスール先生は眉を顰めます。
「嘘をおっしゃい! 面白がってるくせに。大体ですね、心配なら一時間前の時点で探しに行けば良かったものを。なぁ〜〜〜んで、行かなかったんですッ!」
「迷子だなんて、早計だね。あの子はそんなに子供じゃないんだよ?」
「子供です! あなたの歳から考えれば、十分に子供です! 十一歳ですよっ」
「そうだね」
「じゃぁ、貴方も探しなさいッ!」
「しかたないね」
「パートナーの責任です! あの子を実家に帰すなんて。こうなるとわかっていたのなら、荷物も着替えも諦めさせなさい!」
リリエンスール先生は自分より背の高いソルヴェーグを睨み上げ、彼の胸に指を突きつけて言い放ちました。
そして振り返り、皆に言います。
「さあ、さあ、さあ! そこにいる貴方もいらっしゃい。何か起こる前に捕まえなくては」
皆に言うと、忙しそうにリリエンスール先生は部屋を出て行こうとします。
その後姿は珍獣を捕獲に行くハンターのような気迫に満ちていました。
★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★
一方、少し時間の経った、ある別の場所では……
「噂のアイスクリーム屋とは、そこなのじゃな?」
空京のバスターミナルで貰ったパンフレットを眺めていたアーデルハイト・ワルプルギスは顔を上げ、賑わう店を見ました。
看板にもパンフレットと同じ謳い文句が書かれています。「噂のアイスクリームショップ 空京にオープン!」と大きく書かれた看板にはクラッカーらしき物が張り付き、派手に音を鳴らしては小さな紙もばら撒いています。
「ふむ。初期の魔法じゃの」
アーデルハイトは言いました。
ザンスカールに帰る前におやつを仕入れていこうと思ってやって来たアーデルハイトは、お供……もとい、荷物持ち係の生徒と空京に来ていたのでした。
そして、辺りが妙に騒がしいのに気が付きます。
「むむむ? 何かのパフォーマンスかの」
アーデルハイトが言った瞬間、店のショーウィンドウが派手に割れました。
ガシャーーーン!
その音に生徒が小首を傾げます。
「にゅ? ちょっと、そう言う訳じゃなさそうだぉ〜?」
アーデルハイトに付き合わされ、重そうにお菓子の袋を抱えた生徒が答えました。
割れたガラスの向こうには、薔薇の学舎の制服らしきものを着た少年が見えます。何やら叫んでいるようです。
「強盗なのかなぁ〜? 」
「何、強盗となっ! 良い機会じゃ。日ごろの勉強の成果を見せてみよ」
「え〜? 何かあったら助けて欲しいですぅ」
少女は誰か手伝ってはくれないだろうかと辺りを見回した。