2022年、ニルヴァーナ創世学園のどこか。
大勢のコントラクター達が教員からの指示で、広くて閑散とした、薄暗い会議室へと呼び集められました。
一体何があるのだろう――誰もがそんな不安を抱き、お互いにこそこそと囁き合っていたその時、不意に室内の角に設置されていたテレビモニターが光を放って、ある人物の姿を映し出しました。
「やぁコントラクター諸君、ゲームをしようでありんす」
そこに映し出されていたのは、紙袋を被った謎の人物――当然、目に当たる箇所には二つの穴が穿たれ、中から欧米人特有の、コバルトグリーンに輝く瞳が煌めいています。
「諸君は今まで、力あるコントラクターとして数々の修羅場を潜り抜け、様々な困難を乗り越えて、多くの栄誉を獲得したでありんすが、しかしその中で、失ってきたものも少なくない筈でありんす」
ムッシュW、と名乗ったその紙袋の人物は、ムッシュと名乗っている割には、その肉厚で豊満な胸元が、黒いタキシードの内側からはち切れんばかりの自己主張を続けています。
そんなムッシュWが、どう聞いても女性としか思えない声音で、尚も話しかけてきました。
「特に大きな遺失物……それは、笑いでありんす」
ムッシュWの意味不明なひと言に、コントラクター達は一様に首を傾げました。
しかし、そんな彼らの反応など知ったことかと、ムッシュWは更に言葉を繋ぎました。
「今、諸君は生き残る為のチャンスを与えられたでありんす。諸君は忘れた心を取り戻す為に、お互いがお互いを笑わせるという至高のイベントに招待されたことに、至福の喜びを得るでござんしょ。但し」
と、そこでムッシュWはひと息、間を置きます。
何だか物凄く勿体ぶっていますが、とにかくひと言喋る毎に大きく乳が揺れる為、ほとんど全員の意識はムッシュWの言葉にではなく、そのたゆんたゆんな胸元にばかり、集中してしまいました。
ともあれ、ムッシュWはひと呼吸入れた後で、ようやく本題を切り出します。
「諸君は互いに戦い合う運命にあるぞなもし。ここでは諸君は、相手を笑わせることで勝利を得るでやんす。逆をいえば、絶対に笑わなければ、勝利の栄光を掴めるでありんすってばよ」
ムッシュW、いってることが支離滅裂です。
笑えといったり笑うなといったり、一体このひと、何がいいたいんでしょう。
更に加えて、ムッシュWの話している内容はいまいち要点が掴めず、正確な情報がほとんど誰にも伝わっていません。
危機感を覚えたのか、ムッシュWは慌ててカメラの外に居るADさんから、一枚のディスクパッケージを受け取りました。
「詳しいことは、このDVD教材の中に全て入ってるでありんす。1セット100Gと、大変お求めやすい価格となっておりますでありんす。後で諸君の口座から自動的に引き落とされるので、安心するが宜し」
勝手にひとの銭取るのかよオイ!
というツッコミは、最早誰の口からも出てきません。皆さん、すっかり呆れ返っています。
何だかよく分かりませんが、100Gも勝手に取られてしまった以上、参加しないことには元が取れないというか、無性に腹が立つので、コントラクター達は渋々、このイベントに半強制参加することとなりました。
そのイベント名は――。
『仁瑠華壮聖五十連制覇(にるばなそうせいウーシィれんせいは)』
ムッシュWの説明同様、何がしたいのかよく分からないイベント名でした。