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魔道書はアレクサンドリアの夢を見るか

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シナリオガイド

夢路を通って行き着く図書館を、実体なき敵の手から守れ
シナリオ名:魔道書はアレクサンドリアの夢を見るか / 担当マスター: YAM

 イルミンスール。
 学校内の特殊施設内に収容されていた、焚書された魔道書の灰で出来た体を持つ異形の生命――通称『灰の司書』は、灰から焼失した書を再生させようとする不可能に近い業に盲目的且つ機械的に打ち込み、魂の力を費やし尽くすという、その痛ましくも長すぎた生涯を、魔道書達に見守られながらひっそりと終えました。

 その数日後。

 イルミンスールの“はぐれ魔道書”一団のリーダー的存在・パレットは、夢を見ました。


 *******


 夢の中でパレットは、荒涼とした大地の只中にひとり、ぽつんと立っていました。
 何もないその地平……しかし、目を凝らすと、離れた所に巨大な、塔や空中庭園を持つ城塞に似た石壁づくりの建築物が見えます。
 そしていつの間にか、パレットの目の前には、中世ヨーロッパ風の衣装を纏った一人の青年が微笑ながら立っていました。

「貴方は……!」

 パレットは驚き、瞠目します。
 それは、かつて禁書弾圧の時代、パレットら魔道書が刑の炎にくべられるのを助けようとして自分が囚われ、多くの書物と共に火刑に処せられ……灰の体で蘇った魔道士、つまり『灰の司書』の生前の姿だったのです。

「君をここに呼んだのは私だ。よく来てくれたね、秘文『還無の扉』(ひぶん・かんむのとびら)
 長い間秘されてきたパレットの本名を呼ぶ、その魔道士は自らをクラヴァート・ヘイズルケインと名乗りました。
「貴方がいるということは……ここは、ナラカ?」
 パレットの言葉に、クラヴァートは首を横に振ります。
「ここは【非実存の境(ひじつぞんのさかい)】という。
 つまり現実世界から失われた存在達の世界なんだ」
 すぐにはその言葉を理解できないパレットの泳いだ目が、例の、立派な石造りの建築物に行きます。それを察したように、クラヴァートは言いました。
「あれは、アレクサンドリア図書館だ」
「アレクサンドリア図書館!? …って、まさかあの、大昔に焼失したエジプトの図書館……!?」
 クラヴァートは頷きました。
 それは、地球上に紀元前の地中海沿岸の大都市に存在し、歴史の中で異民族の襲撃や火災によって失われた、当時世界最大の図書館の、異世界に変位した建築でした。


「現実世界で失われたモノたちの霊的存在を、この世界に移築したんだ。それがこのアレクサンドル夢幻図書館さ。

 人や生きものは、肉体が死んでも魂は残るだろう? 非生命体も同じ。現世存在が失われても、霊的存在が残る。
 それがそのまま生きていられるのが、この【非実存の境】という世界なんだ」


「じゃあ、もしかしてあの図書館には、散逸した蔵書も?」
「すべてではないけど大分集まっているよ。
 それに、あの図書館があった時代のものではない、地球上で失われた様々な図書の霊的存在の蒐集も進んでいる。
 いずれ、かつて併設されていた薬草園や学術施設の復元にも手を付けるつもりだ」
「灰の……いや、クラヴァートは、ここで働いているの?」
「私は、君たちのもとで生涯を終えて後、ここに召喚され、この図書館の司書を任じられたんだ。生前の行為が認められたんだとか。
 ……何もできはしなかったのに、面映ゆい話だけどね」
 クラヴァートは苦笑いしました。

「いえ、貴方は本当に凄い方だ。けど……
 誰によって認められ、任じられたんですか?」
『総意』だよ」
「総意?」
「この図書館にある蔵書たち全部の意識さ。
 失われた書は君たちのように魔道書化はしないけど、物体としての存在を持たないこの世界では秘められた意識や感情を自由に放出することができる。
 この図書館を守るために、彼らはそれぞれの意識を集めて寄り合わせて一つの大きな意識を作った。それが彼らの『総意』だ」


「――この図書館もその中にある書物も、霊的存在でしかないから、現実世界に復帰することはできない。
 けれど、【非実存の境】は、不確定的にではあるけど現実世界の人たちと“夢”で繋がることができる。
 今、君がここに来てくれたようにね。
 失われた知識を求める人が、夢の中で来てくれるような図書館にしたい。私はそう思って、ここの仕事に従事しているんだ」




 よく見ると、荒涼とした何もない大地のそこここに、時々人影が現れては、ふらっと消えます。
「あれは?」
「時々、夢で偶然にここに辿りつく現世の人間がいる。その夢見ている人間の意識が、現れては消えるんだよ。
 でも、よく見てごらん。あの人間は古代のアジアの装束を着ている。
 あっちの人間は見たこともない服装……多分、ずっと未来の服飾なんだろうね。
 この世界は、現実世界の時の流れと連携していないんだ。
 だから同じ時間に、現実世界では何千年も隔たった時代の人同士が顔を合わせたり、といった、君たちの世界から見たら奇妙な現象が起こるんだよ。
 特にそれによる問題は起こったことはないけどね」







「けれど、今、この世界に危機が迫っている」
 クラヴァードはパレットを見て言いました。
「……危機?」
「君も知っていると思う。……『禁書処刑人』がパラミタにまで来ただろう?」
 パレットの表情が陰りました。
「あれを放った大元の存在――『危険な魔道書を排除すべき』と盲信する異端弾圧時代の怨念の残骸が、この世界に向かって動き始めているんだ」
「じゃあ……処刑人が、ここに!?」
「いや、処刑人じゃない。……あれだ」


 突然、空気が大きく揺れました。
 そして、空に突然、黒い靄のようなものが現れたかと思うと、それが一つに集まって大蛇のような巨大な触手に姿を変え、図書館に襲いかかろうとしたのです!
「!」

 が、突然、それは弾けるように霧消しました。
 驚いたことに、いつの間にか図書館を取り巻くように、巨大な半透明のドラゴンがとぐろを巻いて、塵混じりの風のような息を吐いていたのです。

「あれは!?」
書龍。書物たちの『総意』が姿を変えたものだ。今の『虚無の手』から図書館を守るために」
「虚無の手、とは」
「その名の通り、触れたものを無に帰す。あれは、『歴史』が持つ『歴史改変を禁じる力』だ。
 要は『史実で失われたものが存在することは歴史改変に通じる、だからその存在を許してはならない』という、時空監視の強権の具現化だ。
 異端弾圧時代の怨念の残骸が、禁書の存在を潰そうとする一念でこの世界ごと消し去るため、その力の標的をこちらに向けさせたらしい。
 書龍はその力に対抗し、戦っている」

「だが、書龍を形成する蔵書たちの意志の多くが、不安や怒りの増幅で、感情のコントロールを失いつつある。
 人の手によって生まれながら、人間の手で抹殺されたという、『喪失された』過去のトラウマが、この事態によって再発しているんだ。
 このままでは書龍は暴走し……それによって蔵書の霊的存在を支えるエネルギーが失われ、完全に消滅してしまいかねない」


 固い表情でそれを聞いていたパレットが、呆然と呟きました。
「あの書龍……俺の知っているエネルギー波動があった」
 クラヴァートは静かに頷きました。
「やはりわかったようだね。あの書龍の中には『万象の諱』の力が含まれている。
 いや、私の見立てでは、書龍の攻撃力の多くは『万象の諱』が担っていると考えていいだろう。

 ――君と『万象の諱』の関係は知っている。だからこそ、この事態は君にとっても無関係ではないと思い、夢を利用して君をここに呼んだ」


 焼失した『万象の諱』が、現実世界とは違う次元で存在している。――その可能性を以前から考えていたパレットは、この事実を受け止めました。
「それで、『万象の諱』はどこに?」
「私にも分からない。ここの蔵書のどこかにあることは確かだ。
 だが、蔵書は膨大で、まだ整理が追い付いていない。どこにあるのかは分かっていない。
 それに、今それぞれの書物の感情が活性化している。人を恐れる書は姿を隠そうとするし、人に怒りを抱く書は誰も寄せ付けまいとしている。
 その中から1冊を探し出すのは至難の業だ」
「俺が捜します、『万象の諱』を」
 人間に対する憎悪、という感情はかつてパレットも仲間たちも持っていました。即座に請け合います。

「多分、『万象の諱』は感付いているんだ。自分の存在が、危険な敵をおびき寄せているんだ、って。
 その責任を取るために、最前線に立とうとしている……きっと。
 俺は……2度までも、彼の存在を喪失させたくない」


「手助けしてくれるかい」
「えぇ。けど……この図書館を守るためには、他にどうすればいいんです? 書龍を暴走させずに、虚無の手を撃退するには……」
 クラヴァートは苦しげな表情を見せました。
「その手段はまだ模索中なんだ。……けど、私は決して諦めはしない」


 *******


 翌朝、パレットの姿はイルミンスールから消えていました。

 仲間の魔道書達は方々手を尽くして捜しましたが、見つかりません。
 最後の手段でリピカ(リピカ著『アカシャ録』)が、『遠眼鏡』的眼力を使い、上記のパレットが見た『夢』の断片のイメージを掴み、彼はこの【非実存の境】にいる、という結論に至りました。
 魔道書達はこの結論を持ってエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に相談に行きました。


「むーぅ、【非実存の境】ですかぁ……その世界の広さは分かりませんがぁ……
 今の話から判断して、恐らく、呪(まじな)い程度の調節をすれば、魔道書が見る夢を通ってその夢幻図書館とやらには行けるはずですぅ」
 腕組みして考えるエリザベートの横で、声を出した者がありました。
「行かせてください、僕も」
 パレットら魔道書達と何かと付き合いのある、杠 鷹勢(ゆずりは・たかせ)です。
 彼は以前、パレットに契約を申し出ましたが、パレットは自分の出自ゆえにそれを辞退していました。そのことで、エリザベートに相談しに来ていたのです。
「無茶ですぅ!! 契約者でもないのに、そんな場所に行くなんて自殺行為ですぅ」
「……確かに、僕は無力です。
 けど……本気で契約したいと思った相手の危機に、ただじっと無事を祈って待つだけなんてできません……!」



担当マスターより

▼担当マスター

YAM

▼マスターコメント

 こんにちは、YAMです。
 いつもの魔道書NPCがいつもの如く出張っている今回のシナリオですが、「魔道書・パレット」の素性を巡るシリーズとしては今回が一区切りとなります。
 内容は、異世界で図書館を守るために行動するというのがメインとなります。このシリーズ初参加の方もお気軽にどうぞ。


【非現実の境】
 本文の通り、現実世界の住人には、「夢」を通っていくしかない異世界です。
 今のところ、魔道書が見る夢によって、意識体だけでなく肉体も伴った実存体で到達する手段が、エリザベートの呪いのサポートによって確立されています。
 魔道書LCが参加している場合、その書の夢を通って到達する、という登場ができます。
 魔道書LCがいない/不参加の場合、イルミンスールにいる魔道書達の夢を通って到達するという形になります。

 本文にある通り、【非現実の境】は現実世界の時の流れと連携していません。
 複数のPCがほぼ同時に出発しても、到着にタイムラグが生じることもあります。
 イルミンスール発のPCは、エリザベートのサポートによって皆ほぼ同時に到着します。

 たまに、睡眠中の夢で辿りついた、どこの誰かもわからない人の意識がふらりと人の姿で現れたりもしますが、多くは無害な幻影です。
 この世界のことも分かっていないし、図書館に近付くこともありません。
 万が一戦闘が始まっても、不安定になった空気に紛れて消えてしまうだけです。

 ただ、いろんな時代の人なので、観察していたら結構面白いかもしれない、というだけの話です(おいこら)。


【アレクサンドリア夢幻図書館】
 バックボーンは本文通り。
 建物としては、城塞のような石造りの建築に2本の塔、塔と塔の間に空中庭園(修復中につき閉鎖中)、といったところです。
 建物内部にある部屋は現在、ほぼ、書物(の霊的存在)を収めるのに使われています。
 整理ができていないこともあり、また、書物がこの危機に感情を乱しているのもあり、かなりとっちらかっています。
 また、特に心理的に不安定になっている書物が侵入者を拒んだりして、立ち入れない個所もあるようです。


【書龍(蔵書の『総意』)】
 基本、図書館を取り巻いて図書館を守るために動きます。
 蔵書たちの意志を反映しているため、怒りや不安に囚われる書が多くなれば、その反動で無闇に攻撃的になり、暴走する危険があります。
 完全な意識体なので、危機一髪のところで煙のように霧散して一撃を躱すということができます。
 大きさや密度をある程度は自由に変えられます。攻撃は、口から強風を吐いて行うのが主です。
 爪や牙も使えますが、「虚無の手」には迂闊に触れるとそれだけで消滅を招くと解っているので、直接攻撃はしないようです。
 …が、図書館を守るため意固地になって判断力を失ったりしているとどうなるか分かりません。
 また、暴走などで判断力が低下すれば、契約者や時折現れるだけの夢を見る人の幻影(上記)などにも見境なく攻撃するようになりかねないでしょう。
 虚無の手以外には直接攻撃もします。


【虚無の手】
 意識体同様、実体のない存在です。
 完全に自我のない存在であると考えてください。
 いわば、『歴史』を大きな一つのシステムとして考えた場合、その中枢からの命令に従って黙々と働く端末機械のようなものです。
 ただの作業という感覚で動いています。

 触れたものを無に帰す巨大な黒い靄の触手で、こちらもまた、自由に霧散してはまた集まって形を作って、といったことをします。
 もっとも、無に帰すことができるのは「霊的存在」のみです。
 契約者など、現世から行ったキャラが触れてしまっても消滅するということはありませんが、瘴気の塊のような物なので、気分が悪くなったりという毒的ダメージはあります。
 【非現実の境】の大地や空気までは今のところ消えていませんが、あまりに長期戦になると空間そのものが不安定になる恐れはあります。


【NPCの動き】
 パレットは図書館内で『万象の諱』を捜します。
 クラヴァートは図書館を守るために臨機応変に動きます。元は魔道士ですが、ここではさほど強い魔法は使えません。

 イルミンスールの魔道書は、他の人間を【非実存の境】に送るため睡眠状態を作っていなくてはならない、ほとんどが動けません。
 リピカのみが向かうことになります。
 エリザベートは夢の通い路をサポートするため、やはりイルミンスールから動きません。

 鷹勢はエリザベートの懸念をおして【非実存の境】に向かう様子です。
 いつものお供の山犬・白颯については、かなり危険そうな場所なので、連れていくかどうか逡巡しています。

▼サンプルアクション

・虚無の手と戦う

・書龍の暴走を諌める

・『万象の諱』を捜す

・【非実存の境】を観察

▼予約受付締切日 (予約枠が残っている為延長されています)

2014年02月08日10:30まで

▼参加者募集締切日(既に締切を迎えました)

2014年02月09日10:30まで

▼アクション締切日(既に締切を迎えました)

2014年02月13日10:30まで

▼リアクション公開予定日(現在公開中です)

2014年02月25日


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