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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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世界を滅ぼす方法(第2回/全6回)

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 イルミンスールの森に到着するなり、待ち構えていたように襲撃を受けた。

 長旅で疲れているところに追い討ちをかけるような攻撃は、桐生 円(きりゅう・まどか)と、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)によるものだった。
 突然周囲の木々から火の手が上がったのを見て、藍澤 黎(あいざわ・れい)フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)はすぐさまコハクの傍についた。
「コハク、離れたらだめやで!」
 黎の背後につかせながら、フィルラントがコハクに叫ぶ。
「これは、……『ヒ』の仕業か!?」
 燃え盛る炎を見て、フォルテュナ・エクス(ふぉるてゅな・えくす)が叫んだ。
 まさか本当に、イルミンスールの森に火をつけるなんて。

 あらかじめ準備されていた炎は、みるみる燃え広がった。
 この状況で役に立つのだろうか、と考えつつも、菅野 葉月(すがの・はづき)は仲間達に「ファイアプロテクト」の魔法を施した。
 クロード・ライリッシュ(くろーど・らいりっしゅ)は、既に仲間達に施していた『禁猟区』が発動するのを感じた。
「上空から、来るようだよ〜」
 見上げながら、仲間達に知らせる。
 クロードの声に上を見上げた黒崎 匡(くろさき・きょう)は、上空から降ってくる霧の塊に驚いた。
「アシッドミスト!」
 叩きつけられた、強い濃度の酸の霧に、体のあちこちが焼けるように痛む。目もあけていられないほどの毒の霧。
 レイユウ・ガラント(れいゆう・がらんと)は、まずい、と思った。
 禁猟区の効力は切れた。
 今、仕掛けられたら反応できない。
 山火事に、アシッドミスト。
 視界を奪うような牽制に、本命が続くに決まっている。
「コハク……!」
 レイユウはコハクを案じたが、酸の霧の中、飛びこんで来た箒が攫おうとしたのはしかし、コハクではなかった。
「――甘いです!」
 しかし、更にそれを読んで、木々の間を縫うようにして上空を旋回していた海凪 黒羽(うみなぎ・くろは)が、飛び降りるようにして御弾 知恵子(みたま・ちえこ)の前に立ちふさがる。
「えっ、何!?」
「――残念、失敗したわ!」
 くるりとバランスを崩して、箒から降りる。
 薄れ行く霧の中に立っていたのはメニエス・レイン(めにえす・れいん)だった。
「あえてコハク以外を狙おうとするなんて、えげつない真似をするのね」
 緋桜 翠葉(ひおう・すいは)も、空から降下しながら眉をひそめる。
「ふふっ、別にあなたでも良かったのに、一番弱そうなのを、なんて思ったらこの有様だわ」
 あなたでも、と言われた黒羽は、かっと怒気をあらわす。
「言ってくれるじゃないの! あたいを攫おうなんてね!」
 知恵子も息巻く。

 現れたのは、『ヒ』ではなく、他校生。
 それを確認して、千石 浩文(せんごく・ひろふみ)は、パートナーのリリ・コイル(りり・こいる)に合図した。
 『ヒ』ではなく、契約者であり、何処かの生徒として在籍しながらこうして非道に走る何者かを知ることが、浩文の目的だった。
 リリは物陰に隠れてその姿を撮影する。
 そのデータを、シャンパラ中に配って指名手配にしてもいいくらいだと浩文は考えている。
 最も、それは一生徒にできることではないので、判断は、撮影できた写真を提出した上が行うこと、ということになるのだが。
 撮影するリリに気付かれないよう、浩文はメニエスの前に飛び出した。
「メニエス様っ!」
 パートナーのミストラル・フォーセット(みすとらる・ふぉーせっと)の援護の火術が放たれて、メニエスは箒に飛び乗る。
「あなたの目的は何なんです!?」
 銃を構えて向けながら、浩文は叫んだ。
「目的? 前にも言ったわ。光珠は私が頂くってね」
「それにしちゃ、コハクを狙わなかったわね」
 翠葉が苦々しく呟く。
 理由は解っている。だから忌々しい。
「そうかしら。
 でもそうね、コハクがこそこそと逃げなければ、周りが巻き添えになることはなかったんじゃないかしら!
 空京で死んだあの子だってね!」

 ――そう、メニエスは、コハクを追いつめようとしている。
 びく、とコハクが震えた。
 黎の背後で、フィルラントが、緊張のあまり体をガチガチに固まらせているコハクの腕を強く掴む。
「コハク! しっかりせえ!」
 しかしその言葉も、耳に届いているのかどうか。

「……わ、かってる」
 コハクが、視線を何にも合わせないまま、震える声を吐き出した。
 解っている。ちゃんと、解っていた。
「自分がひ弱で、逃げて、そのせいで沢山の人を巻き込んでいることは。
 なのに皆から離れない。
 1人になったらあなた達に全然敵わないで光珠も奪われることを、解ってて、だから、立ち去れないんだ」
 狡い自分を、ちゃんと解っている。
 皆の好意を、利用している。
 巻き込んで、死なせて、そんなのは嫌なのに、それでも尚、利用しているのだ。
「コハク、それは違う」
 黎が、蒼白とするコハクに言い聞かせる。
 コハクは俯き、黙って首を横に振った。

 手伝うと、助けると、護ると。そう言ってくれた人達を、
「……ごめんなさい」
「コハク!」
 メニエスが可笑しそうに笑う。

「お喋りはそこまでにしてもらおうか」
 小型飛空艇を使って上空へ、メニエスを追う御風 黎次(みかぜ・れいじ)ノエル・ミゼルドリット(のえる・みぜるどりっと)の姿を見て、
「あらら」
と、メニエスは箒を旋回させた。
 更に上空位置、炎すれすれのところに、ミストラルが援護の為に控えている。
 炎の中に逃げて行こうとして、メニエスは、ふとあらぬ方向へピースサインをして見せた。
「……! 気付いて?」
 浩文がぎょっとする。
 そこはリリが潜んでいる方だ。
「今更! 自分を隠してどうするの!?」
 笑いながら、メニエスは炎の中に飛び込んで行った。

 黎次とノエルは後を追おうとしたが、上空から追い討ちの火術を放つミストラルの妨害にあって阻まれる。
 箒は燃えてしまいそうな気がしたので、黒羽や翠葉も追跡を諦めた。

「コハク! 大丈夫っ!?」
 戒羅樹 永久(かいらぎ・とわ)が走り寄る。
 黎とフィルラントに両側から支えられ、炎に当てられたのと精神的な苦痛とで、コハクはぐったりと目を閉じていた。


「メニエス様、前に出過ぎです。捕まったらどうするのです」
「まあね、でも頼りになる援護が3人もいるから、ちょっとくらい大丈夫かなって」
 最初のアシッドミストはオリヴィアのものだったし、山火事も半分は彼女等の力だが、それ以降パートナーと2人、傍観を決め込んでいたのだから、特に危険な状態でもなかったのだろう。
 自身、危険だとは思っていなかったけれど。

「タイミング的には、『ヒ』が出て来てからの方が良かったのであるが」
 もしくは隠れ里が見つかってからだ。
 円の言葉に、
「全部一気にはできませんものねえ。ま、今回はこれでいいんじゃないですかぁ」
 レインさん、大活躍でしたわねぇ、とオリヴィアはのんびり笑う。
「山火事も、いい感じで燃え続けているようだ」
「そうですねぇ。じゃあ、そろそろ戻りましょうかぁ?」
 今日はいい夢を見られそうですねぇ、などと上機嫌でオリヴィアは言って、円も口の端を吊り上げて笑った。




 意識を失ってしまったのか。
 目が醒めると、宿のベッドで眠っていた。
「コハク」
 呼ばれてぼんやりと目を向けると、外から窓枠に腕を絡めて顎を乗せた周が、じっとコハクを見ている。
「あのさあ、お前さあ」
 周は溜め息をついた。
「ダチだろ? 利用とか、変なこと言うなよな」
 それだけ言って、ひょいと引っ込み、周はさっさと行ってしまう。
「………………」
 無言でそれを見送り、やがてコハクはぼろぼろと泣いた。