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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 探索部隊が遺跡に入って、数日が経過した。魔力に強い盾の威力は絶大で、各班は前回の探索よりはるかに深い場所まで探索を進めていた。
 「ここも鍵がかかっています。ほとんどの部屋は、扉がロックされていますね。個別に鍵がかけられているのか、制御室のような場所で管理されているのか……。正直、制御の方式が既知の技術とはかなり違うようで、どうやってコントロールされているのか、見当もつきません」
 明花の班では、クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が一つ一つ丁寧に扉を調べていたため、他の班よりは比較的浅い場所に居た。それでも、遺跡の入口まで戻るのに一日を要するだろう。どういう仕組みになっているのかはまだ不明だが、照明や水など、最低限のライフラインが生きていたのは、探索部隊にとっては幸運と言えたかも知れない。……もっとも、動力が無事なおかげで、防衛システムも止まっていないわけだが。
 「……何か来ます」
 クリストバル ヴァルナが皆に注意を促した。通路を曲がって、量産型機晶姫が姿を現す。だが、今回は、今までとは少し異なる姿の機晶姫が何体か混ざっていた。頭に、茨の冠のような形をした金色のものが乗っていて、そこから伸びたやはり金色のコード状のものが、肩や腕に接続されている。
 「今まで出て来たのとは形が違うわね。……いいえ、装備が、なのかしら」
 軽く眉を寄せて、明花は機晶姫たちを見た。
 「あの頭に乗せている冠のようなものですか? 頭部と接触している部分は一体化しているようにも見えますが」
 太乙が少し目を細めるようにして、機晶姫を観察しながら言う。確かに、冠の内側に出ている茨の棘は、機晶姫の頭部にただ刺さっているだけではなく、体の表面と同化しているように見えた。
 「体の一部なら、コード状のものが体の外に露出している理由がないと思わない?」
 「それはそうですが……装備が体と同化するなんて、気持ち悪いじゃないですか」
 「男のくせに、何を情けないことを言ってるの!」
 「男性の方が血に弱い、という統計もあるようですよ?」
 教官二人が言い合っている間に、機晶姫たちは攻撃準備を整えた。光の弾丸が探索部隊に向かって発射される。クレーメックと一ノ瀬 月実、一色 仁が盾で攻撃を防ごうとしたが、今回は勝手が違った。
 光の弾丸が、盾の表面で消えるのは同じ。だが、冠をつけている機晶姫の弾丸を受けると、盾の表面に変色が残る。何度も攻撃を受けた部分は、表面だけではなく、裏側から見ても変色がわかるような状態になって来た。
 「教官、盾がもちません!」
 月実が悲鳴を上げた。
 「能力が増幅されているっていうこと? ……このままじゃ突破されるわね。仕方ない、いったん下がりましょう」
 明花は決断した。生徒たちは、応戦して機晶姫の接近を防ぎつつ、ゆっくりと後退する。


 そして、もっとも困難な状況に遭遇したのが風紀委員たちだった。行く手に、円盤と量産型機晶姫が数え切れないくらい、ぎっしりと立ちふさがったのである。機晶姫の中には、明花たちが見たのと同じ、茨の冠をかぶったようなものもいる。その向こうの通路の突き当たりに、扉が見えた。
 「Wow! これは戦いがいがありそうネ!」
 サミュエルは口笛を吹く。
 「どうやら、この先にはよほど重要な区画があるようだな」
 鵬悠は、風紀委員たちに威力偵察を命じた。しかし、苛烈な攻撃を受けて、ほとんど進むことが出来ない。
 「無理に突っ込んでも犠牲が大きくなるだけか。……林教官と楊教官に状況を報告、指示があるまで下がって待機しよう」
 鵬悠は、班員たちにそう継げた。


 その頃、『白騎士』たちは補給の遅滞に苦しみつつ、遺跡の中を進んでいた。戦闘が続けば弾薬など消耗品の補充が必要になる。明花は林に連絡要員の派遣を依頼しており、来てくれた連絡要員に補給の依頼をすれば、次回の連絡の時に物資を持ってきてくれることになっていた。しかし、どうもその物資が届くのが遅いのだ。弾薬が切れれば、補給が来るまで先に進めない。
 いらいらと補給を待つ彼らに、連絡要員が伝えたのは、一時撤退の命令だった。
 「他の場所で、制御室らしき場所が発見されました。ただ、その前を量産型機晶姫と円盤が固めており、現在の戦力では突破が難しいそうです。楊教官は一旦撤退し、戦力を建て直してから、制御室に兵を集中して攻略すべきと判断されました」
 「そうか。機晶姫のサンプルを手に入れるという成果も上げたことだし、ここは命令に従い、撤退しよう」
 ヴォルフガングも、『白騎士』たちと共に遺跡の内部から引き上げた。


 遺跡から戻った生徒たちを出迎えたのは、鏖殺寺院との消耗戦で疲弊した仲間たちだった。
 蛮族は、黒装束に黒い頭巾、そして口元だけがわずかに開いた黒い面をつけた者……『黒面』に操られていた。『黒面』の人数は二十人ほど、戦闘するところが目撃された者は全員、蹴りを主体とする体術と投げナイフのような武器を使う、極めて俊敏で身軽な者たちだった。
 「非常識に高レベルなローグだと思っておけば、間違いはないな。あのスピードを削がんと、太刀打ちするのは難しいか。明花に『黒面ホイホイ』でも作らせるかな……?」
 冗談とも思えないような表情で林は呟き、遺跡から戻って来た楊明花に、わけのわからない下らんものを作らせるなと後頭部を思い切りどつかれることになった。
 『白騎士』の協力者がほぼ遺跡の中に集中して功績を上げた一方、風紀委員の協力者たちは主に遺跡の外部で防衛戦に参加していた。『黒面』の侵入を防げたことには彼らも寄与しているが、前回の探索とあわせて、明花の評価は今のところ『白騎士』の方が高いようだ。
 「これだけの敵を倒したんだ、敵も相当に疲弊していると見ていいだろう」
 蛮族の屍が累々と転がるバリケード前を見て、林は言った。
 「遺跡内の探索もあと一歩のところまで来た。あの『黒面』の連中を倒すことが出来れば、おそらく遺跡の内部を探索し終えて、中にあるものを運び出す間くらいの安全は確保出来るだろう」
 しかし、敵は数は少ないとは言え、蛮族のように簡単に倒せる相手ではない。三度目の激戦が繰り広げられることになりそうだった。