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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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 「申し訳ありません、討ちもらしました!」
 「後方からも機晶姫が来ます!」
 最前列でその声を聞いた時に、ヴォルフガングはまさに矢を放つところだったが、その声に気を取られて弓を下ろしてしまった。
 「シュミットは前だけ見てろ! 後ろは俺たちが守る!」
 霧島 玖朔(きりしま・くざく)は、パートナーの英霊伊吹 九十九(いぶき・つくも)を連れ、後方へ向かった。しかし、既に予備の盾は前衛に渡してしまっているので、機晶姫からの攻撃を防ぐものがない。おまけに、乱戦の中でショットガンを使えば、味方も被害が及ぶ。そのうちに、風紀委員たちが盾で機晶姫を囲む作戦に出た。
 「いったいどうしたら良いの!?」
 まだ戦いに慣れていない九十九は、おろおろとするばかりだ。
 その時、機晶姫を囲もうとしていた風紀委員の一人が、機晶姫に吹き飛ばされた。
 「九十九っ!」
 玖朔は叫んだ。九十九は英霊に秘められた力を解放し、背後から機晶姫に組み付いた。後ろを取れば銃器の攻撃はないが、機晶姫はものすごい力で暴れ、九十九を振りほどこうとする。
 「止まれッ!」
 朝霧 垂(あさぎり・しづり)のパートナー、英霊里見 伏姫(さとみ・ふせひめ)が、『ヒロイックアサルト・八犬士」を放った。機晶姫の周囲を、犬の形をした青白い炎が飛び交って攻撃する。
 「ナナ様、後方から敵が!」
 パートナーのヴァルキリー音羽 逢(おとわ・あい)の声にナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が振り返ると、そこには後方から襲って来た量産型機晶姫たちと戦う仲間の姿があった。
 「すぐそこに目的の扉があるのに……」
 仲間を助けに行くべきか、敵をどうにかして切り抜け、扉の中へ飛び込むべきか、ナナは迷った。
 「ど、どうしよう?」
 ナナと一緒に飛び込むことになっていたトゥルペ・ロット(とぅるぺ・ろっと)は、パートナーのイリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)の姿を探した。
 「ナナ、トゥルペ、行け!」
 イリーナが叫ぶ。
 「ヴォルフ、早く!」
 既にかなりの部分が変色した盾を掲げ、エルダが叫ぶ。ヴォルフガングはもう一度弓を構え、『轟雷閃』を放った。稲妻をまとった矢が強化型機晶姫の一体に命中し、しかも周囲の機晶姫や円盤の動きも止める。
 この時には、後方からの機晶姫の攻撃に押されて、長く伸びていた隊列はかなり縮まっていた。その隊列の後方から、『新星』の昴 コウジ(すばる・こうじ)ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)とパートナーのアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)とパートナーのシャンバラ人クリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)、アリスのアカリ・ゴッテスキュステ(あかり・ごってすきゅすて)らが『白騎士』たちの間を縫うようにして前へ出て来た。
 「人の手柄を奪おうと言うのか。そのようなことは感心しないな」
 レーゼマン・グリーンフィール(れーぜまん・ぐりーんふぃーる)が冷ややかに言う。 
 「ここが一斉攻撃の好機であろう? 別に貴様たちを妨害しようというわけではない」
 『クレーメックやマーゼンのつまらない小細工』のために今まで待たされてカリカリ来ていたケーニッヒがぞんざいに言い返した。
 「そうそう、むしろ手を貸してやろうって言うんだ、感謝してもらいたいな」
 アンゲロが尊大に胸を張る。
 「心にもないことを……」
 レーゼマンは吐き捨てた。
 「あのねえ、文句ばっか言ってるしか能がないんだったらどいてくれない?」
 アカリが腰に手を当て、レーゼマンを睨み上げた。
 「あたしは戦いに行くの。それのどこが悪いのよ。あんたがそういって御託を並べてる間に、あんたのお仲間だって戦ってんじゃないの?」
 「アカリさん、それは幾ら何でも言いすぎ……」
 クリスティーナが止めるが、アカリの憤慨は収まらない。
 「ちょっと待ちなよ!」
 見かねた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、レーゼマンとケーニッヒやアカリの間に入る。
 「今は戦闘中なんだから、アカリの言うことは言葉はキツいけど正論だ。でも、後ろからいきなり出て来られて面白くないっていうレーゼマンの気持ちも納得出来る。ここは双方自重すべきだろう」
 これ以上揉めるなら実力行使で止めるつもりで、垂は二人を睨んだ。
 「何をしている、揉めている場合か!」
 前方に出て来た鵬悠が一喝した。その後ろから、明花と太乙もやって来る。
 「シュミット。もう一度『轟雷閃』を」
 「……わかりました」
 明花に命じられて、ヴォルフガングは再び矢をつがえ、『轟雷閃』を放った。
 「……やっぱり、仕掛けて来ましたねえ」
 大きな傘のような形の光条兵器を広げて盾がわりにしつつ、垂のパートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)は、垂に囁いた。
 「多分、もうちょっと混乱に乗じるやり方をしたかったんだろうね」
 まだ油断なく、突進して行く『白騎士』たちと『新星』のメンバーたちを見ながら、垂は答える。
 「あそこまで揉めたのは失敗だったんじゃないかな。もちろん、『白騎士』にとってもマイナスだったろうけど」
 そんな会話の間に、最後の突入は開始されていた。レーゼマンが精密射撃で機晶姫の手足を撃ち抜き、コウジは腹にトミーガンで銃弾を叩き込む。アクィラは、機能停止から回復して動き始めた円盤を精密射撃で狙い撃つ。そして、ナナと逢、トゥルペ、そしてコウジ、ケーニッヒ、アンゲロが『轟雷閃』と同時に飛び出し、どうにか扉へ到達した。しかし、機能が回復した機晶姫と円盤が、背後から攻撃を始める。
 「ナナ様、トゥルペ殿、ここは拙者が守ります、早くドアを!」
 逢が盾を掲げてナナとトゥルペをかばう。
 「扉がロックされてるぞ!!」
 いの一番に扉にたどりついたコウジが怒鳴った。前回の調査でもすべての扉がロックされていて開けることが出来なかったが、この扉もそのようだ。
 「誰か雷術が使える者はいる? この際、多少壊しても仕方がないわ!」
 明花が叫ぶ。
 「私が!」
 「わらわも参ります」
 ハインリヒ・ヴェーゼルのパートナー、魔女クリストバル ヴァリア(くりすとばる・う゛ぁりあ)と、みとが進み出た。
 「扉から離れて!」
 警告して、扉に雷術を叩き込む。
 「うおおおおおおお!」
 ケーニッヒとアンゲロが扉に手をかけ、こじ開ける。どうにか、人一人が通ることが出来る隙間が開いた。そこへコウジが真っ先に飛び込む。
 「抵抗する奴は容赦なく撃つ!」
 「待てっ!」
 今にもトミーガンを掃射しようとしたコウジを、鵬悠が凛とした声で制止した。
 「落ち着いて、中の状況を良く見ろ!」
 はっとして、コウジは引金にかけていた指を外した。
 扉の中は、教室ほどの広さの部屋になっていた。その中に敵の姿はなく、ただ操作卓と思われるものが壁沿いに並んでおり、計器類がちかちかと点滅していた。
 「楊教官!」
 コウジは明花を呼んだ。垂とライゼが掲げる盾と光条兵器に守られて、明花と太乙が弾幕を突破して来る。
 「制御室ね。ここから機晶姫や円盤に指示が出ているんじゃないかしら」
 部屋の中をひと眺めして、明花は言った。
 「教官、機晶姫たちに、これ以上攻撃しないよう指示することはできませんか」
 ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)が明花と太乙に言った。
 「量産タイプだろうが、自分のパートナーと同じ機晶姫です。出来るなら戦って破壊するんじゃなく、自由にしてやりたい。甘い考えかも知れませんが……」
 「……太乙、できる?」
 「やってみましょう」
 明花に言われて、太乙は操作卓に向かった。
 「……なるほど……ここから指令を出しつつ、自律制御もしている、のかな……。だとすると、システムの大元を落としてしまえば、とりあえず止めることはできるかも知れませんね……」
 操作卓をあちこちといじり回していると、急に操作卓が動作を止めた。
 「止まりましたかね……? これでだめなら、一体ずつ動作不能にするしかないんですが」
 太乙は首を伸ばして、通路の様子をうかがった。
 「見てきます」
 ルースは扉のところに取って返し、通路の様子を見た。円盤も機晶姫もすべて動かなくなっており、その間に戦い疲れた生徒たちがへたりこんでいる。ルースはほっと安堵の息をついた。
 「ありがとうございました、教官」
 室内に戻り、太乙に向かってふかぶかと頭を下げる。
 「制圧完了! とりあえず負傷者の手当てをして、一休みしましょう。それから、ゆっくりと内部を探索するわよ」
 明花は満足そうに微笑んだ。