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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第3回/全3回)

リアクション

 「断られちゃったねー……」
 クリームソーダをストローでずず、と吸い上げて、朝野 未沙(あさの・みさ)はため息をついた。
 小型飛空挺で遺跡に接近しようとして追い払われた未沙たちは、教導団の本校へ行き、金鋭峰に会わせて欲しいと願い出たのだが、すげなく断られてしまった。しかし、あきらめ切れずに、校外からの来客も立ち入りを許されている本校内のカフェテリアで、パートナーの機晶姫朝野 未羅(あさの・みら)、魔女朝野 未那(あさの・みな)とくだを巻いている最中である。
 備え付けのモニターでは、先日ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が撮影した、義勇隊を受け入れる教導団の映像が流されていた。
 「『六校の勝利』なんて言って、いかにも他の学校を受け入れてますーって感じだけど、実際は違うじゃない……」
 まるっきり美談調に編集された映像に向かって唇を尖らせる未沙に、未羅がフルーツみつまめを食べながら訊ねた。
 「それで、これからどうするの、お姉ちゃん?」
 「うーん、もうちょっと粘ってみようかなあ……とは思うんだけど、ただ門の前で待っててもし団長に会えても、多分話は聞いてもらえないだろうしねー」
 「私が、魔法の知識は要らないですかぁって言っても、秘術科で研究してるからいいです、って言われちゃいましたしねぇ」
 口の端にクリームあんみつのあんとクリームをつけた未那が、こてんと首を傾げる。どうしたものかと未沙がうんうん唸っていると、
 「あれ、美沙?」
 顔見知りの月島 悠(つきしま・ゆう)とパートナーの麻上 翼(まがみ・つばさ)、そしてもう一人知らない女生徒が、それぞれ手にお茶やお菓子の乗ったトレイを持って近付いて来た。
 「悠さん? しばらく本校には居ないって言ってなかったっけ?」
 美沙は目を見開く。悠は口を開きかけたが、知らない女生徒が悠をじっと見てかぶりを振るのを見て、
 「ちょっと用があって、いったん戻って来たところなんだ」
 とだけ答えた。
 「あ、彼女は技術科の深山楓。日本からの留学生だし、美沙と話があうんじゃないかな。せっかくだから、一緒にお茶しないか?」
 「……はじめまして」
 紹介されて、楓はぺこりと頭を下げる。未沙たちはどうぞどうぞと場所をあけた。
 席についた三人に向かって、未沙たちは教導団に受け入れてもらえなかった不満をぶつけた。だが、楓の意見は厳しいものだった。
 「教導団が持っている技術は、ほとんどが軍事利用のためのものです。民間におろしても大丈夫と判断されたものは公開されることもありますけど、研究段階に他校生を関わらせることは考えられません。私たちだって、卒業後に民間に就職した場合に、ここで得た知識や技術を不用意に転用したら問題になることもあるんです。私が国費留学生としてパラミタに来たのは、パラミタの技術を日本に持ち帰るためですけど……卒業後のことについて、兵器を作ってる会社に就職させないとか、教導団と国の間で結構厳しい取り決めがあるんですよ?」
 「そっか……単なる技術とか知識じゃなくて、軍事機密扱いなんだ。監視をつけてもらって構わないし、研究の成果を教導団に渡すって言えば問題ないかと思ってたけど……」
 未沙は自分たちと楓の認識の違いに愕然とした。
 「そうです。教導団にとっては、他校生が情報を手に入れること自体が問題なんです。研究に関われば、たとえその成果を教導団に提出しても、朝野さんの頭の中に知識や情報が残りますよね?」
 『煎茶と季節の和菓子のセット』の栗鹿の子を黒文字で切り分けながら、楓はうなずいた。
 「監視をつけるって言っても、他校生を24時間監視する手間とか経費とか考えたら、『その人じゃなけりゃダメ!』って事情でもない限り、割にあいません。朝野さんが研究棟に何年間も幽閉されてでも研究に参加したいと言うなら話は別かも知れませんけど、そんなことは出来ないでしょう?」
 「うん……」
 未沙はがっくりと肩を落とした。
 「あ、すみません、私はそろそろ休憩時間が終わるので、失礼します」
 壁の時計を見た楓は、さくさくと残りの栗鹿の子と煎茶を片付けて立ち上がる。
 「あの、良かったらお友達になってくれる?」
 未沙は楓を見上げた。
 「研究について話せることはあんまりないと思いますし、研究棟に缶詰で作業してて校外とは連絡取れないことも多いですけど……それでも良ければ」
 楓はうなずいた。食器を戻しに行く楓に、未沙は微笑んで手を振った。