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砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

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砂上楼閣 第一部(第3回/全4回)

リアクション

 雪之丞が示した部屋の中扉を開けると、そこには白菊とラフィタはいた。
「えっ、鮪先輩?! 助けに来てくれたの?」
「ヒャッハー! 幾ら俺でも誘った責任は取るって事だぜ」
 後輩から感謝のまなざしを向けられた鮪は得意気な様子で胸をそらす。
「あの、でも、ハーリーさんは? 薔薇学の人がハーリーさんも捕まっているって言っていたけど」
「心配無用だぜ、マジで気合入れたハーリーは本当に気合でどうにかするぜ。
 鮪はまだ知らなかったが、その頃、ハーリーはすでに信長と合流を果たしていた。
 実際には藍澤 黎(あいざわ・れい)の提案を受けたルドルフの指示で、警備の手が緩められた故の逃亡であったが。
 今は一刻も早く脱出するのが先決だ。
「信長のオッサンが騒ぎを起こしているうちに、急いでここを出るぞ」
 鮪は白菊の手をつかむと、甲板に向かって駆け出した。
「ま、鮪先輩…」
 まさか鮪が助けに来てくれるとは思ってもいなかった。
 このままラフィタと二人、タシガンまで連行されるしかないかと諦めていたのに。
 繋いだ手を通して伝わってくる鮪のあたたかさに、白菊は不覚にも少し泣きそうになった。
 鮪は握った手に力を入れる。
「お、お前だけなんだぜ、俺に先輩なんて言う後輩はよ…」
 そして、現状ただの役立たずでしかないラフィタは、先輩後輩の絆が深まる様を指をくわえて眺めていた。



「見えたわ!」
 飛空艇の窓に張り付くようにして、望遠鏡で地上を観察していた藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、雲の向こうに小さな浮遊島を発見した。
 素早く伝声管に飛びついた宙波 蕪之進(ちゅぱ・かぶらのしん)が、操縦室にいる桐生 円(きりゅう・まどか)へと連絡を入れる。
 円の助力で脱獄した優梨子は、空京に停泊していた個人用飛空艇を強奪し、ここまで追いかけてきたのだ。
「あらあら、なぁ〜んか、面白そうなことになっているじゃなぁい?」
 操縦桿を握る円の後ろに置いた革張りのソファーに座ったオリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、蕪之進の報告にほくそ笑んだ。
「等活地獄で一網打尽っていうのはどうかしら?」
「じゃぁ、ミネルバちゃんは則天去私でも使っちゃおうかな〜」
 阿鼻叫喚する薔薇学勢を想像し、舌なめずりをするオリヴィアに、同じく荒事を好むミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)切原 環(きりはら・たまき)
が同意する。
「あまり舐めない方が良いわよ」
 集団殺略の方法について盛り上がるオリヴィアたちを、いつの間にか操舵室に戻ってきていた優梨子が窘めた。
 自分たちの存在は薔薇学生たちに知られてはいないはずだが、相手は大型飛空艇が2機。こちらは個人用の飛空艇だ。
 空京で一度、薔薇学生たちに拘束された優梨子としてはは、人数比などで負けるのはまっぴら御免だった。
「甲板の上に永楽銭の旗印を掲げたおじさまがいましたし、今は合流を優先するべきだと思いますわ」


 甲板に駆け上がってきた鮪たちを確認するなり、テリー・ダリン(てりー・だりん)をはじめとする信長と対峙していた面々は素早く身を退いた。
「何かにつかまって!」
 ロジャー・ディルシェイド(ろじゃー・でぃるしぇいど)が叫んだ瞬間、足下が大きく揺れた。
 彼らが乗っていた飛空艇が急発進したのだ。
 甲板にいる者たちすべてを振り落とすように、激しい旋回をくり返しながら、飛空艇は上昇していく。
 天魔衆が船内から出てきたら急発進させることは作戦として伝え聞いていたが、やはり対処が遅れた者がいた。
 剣の花嫁であるティア・ルスカ(てぃあ・るすか)は、光の糸型の光条兵器を召還すると、衝撃に耐えきれず甲板から吹き飛ばされそうになっている生徒に向かって投げつける。
 一方、飛空艇に乗り込んでいた天魔衆一行は、互いの安否を喜び合う間もなく、すでに信長と合流していたハーリーの背中にまたがった。
 いくらハーリーが大型バイクであるとはいえ、信長に鮪、白菊にラフィタの4人が乗るのは無理がある。小柄な白菊は鮪に肩車をしてもらっているし、ラフィタに至ってはマフラーにしがみついている。
 しかし、細かいことを機にしている状態ではない。
 ハンドルを信長は素早く決断した。
「行け、ハーリー。お前の力を見せつけるのだ!」
 ハーリーダビットソンはエンジン音も高らかに助走をつけると、離れ行く大地に向かって逃走した。