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リアクション
第5章 『光龍』、初陣
軍用バイクや馬に囲まれた輸送車両の集団が、樹海の中を行く。
分解した巨大人型機械を運ぶ輸送隊は、足の遅い馬車が集中して狙われることを避けるために、トラックの速度を落として馬車にあわせ、一団になって進んでいた。生徒たちは基本的に、偵察と先行は義勇隊の虎部隊(もちろん、ちゃんと「お世話役」は随行している)の役目、輸送部隊を囲むのは龍部隊と教導団の生徒、と分けられている。
「この先、異常ないぜ!」
先行して道路の状況を確認しているイルミンスール魔法学校の瓜生 コウ(うりゅう・こう)が、集団の少し先で手を振っている。単なる偵察ではなく、路面の状況もチェックして、怪しい場所を確認したり、雨でぬかるんだ場所に土を入れたりそのあたりで刈った枝を敷いたりというメンテナンスも行っているため、馬車でも溝やぬかるみに車輪を取られることなく、わりあい順調に進んでいる。
「せっかく作った道路を壊されちゃたまらないもんな」
「まったくでございますわ。こういった泥臭い仕事を、これ以上増やされるのはご免こうむります」
パートナーの英霊ベイバロン・バビロニア(べいばろん・ばびろにあ)がうなずく。
「さあ、もう少し先まで進んでみましょう」
ベイバロンは乗っていた白馬の馬首を返して、さらに先へと進み始めた。コウもバイクでそれを追う。
「こうやって全部開通して実際に通ってみると、上空からは結構丸見えだよなー、この道路。上から攻撃されたら隠れる場所ないよねー」
輸送部隊の前面で、駿馬に乗った桐生 円(きりゅう・まどか)は、隣を進むサンタのトナカイの佐野 亮司(さの・りょうじ)に声をかけた。道路工事中に妲己にたしなめられて言い返せなかったので、今回は一応、真面目に輸送隊の警備任務に参加することにしたらしい。
「まさか、敵も空を飛んで来るとは思わなかったからなあ……結構あちこちばっさり伐採しちまったし」
亮司は頭を掻いた。地上の敵を警戒して柵を作ったり、道路の両側に身を潜める場所を作らないために空き地を作ったりしたが、上空から来る敵に柵は無効だし、空き地を作ったのは、かえって上空からの見通しを良くしたようなものだ。
「せめて、『向こうにも飛行可能な種族がいるはず』くらいのことは考慮に入れとくべきだったかなあ。鏖殺寺院も、俺たちと同じで地球人だけの集団じゃないんだろうし」
しかし、後悔しても後のまつりだ。
「敵が人型機械を壊しにじゃなく奪いに来るなら、機銃撃ったり手榴弾落としたりはないと思うんだが……」
「やっぱり、来るとしたら壊しにじゃなく奪いに来るかなあ」
その後ろの馬車の御者台で、銃を胸に抱えている一般 兵士(いっぱんの・へいし)Aが、亮司に言った。徒歩では輸送車両について行くことが難しいため、バイクなどの乗り物がない生徒は、全員御者台や荷台に乗って、一緒に移動をしている。
「さあ、それは判らないな。これだけのものを全部回収するのは大変だろうから、教導団に渡すより破壊してしまえ、と考えるかも知れないし、中にどうしても回収したいものがあって、その部分だけでも……と思うかも知れないし」
亮司は肩を竦める。
「一応、一部だけを奪われても被害が最小限で済むよう、細工はしてみたのだが」
馬車の荷台から天霊院 華嵐(てんりょういん・からん)が言う。
華嵐の発案で、分解された部品は部位ごとに同じトラックや荷馬車に積むのではなく、たとえば頭部の部品のうち大半はトラックAに乗せてあるが、一部は荷馬車BとCに、という形でばらばらに積み込まれている。トラックや荷馬車単位で奪われても、一台だけならすべての部品は揃わない、ということだ。ただし、その分荷物の管理は大変になり、明花に管理を命じられた亮司たち輸送科が泣くことになったのだが。
「豹華、今のところ何も感じないか?」
華嵐はパートナーの獣人天霊院 豹華(てんりょういん・ひょうか)に尋ねた。
「おう。もし何か感じたら、すぐに教えるぜ!」
獣人の優れた感覚で周囲に注意を払いながら、豹華はうなずく。
獣人の持つ超感覚の他にも、『禁猟区』や『女王の加護』、『殺気看破』など、敵の接近を感知するのに使えそうな技能は幾つかある。そういった技能を使って、敵の出現を察知しようとする生徒は多かった。
「福、もしかしたら危険な目に遭うかも知れないけど、頼まれてくれるか?」
パートナーの大岡 永谷(おおおか・とと)に頼まれて、ゆる族熊猫 福(くまねこ・はっぴー)は一番大きなトラックの荷台に乗っていた。
『禁猟区』は、守りたい人に危機が迫った時に、何らかの予兆でそれを教えてくれる。だが、護符の形にして直接荷物につけても、効力は発揮されない。そこで、永谷は福に護符を持たせて、荷物に同行させることにしたのだ。
「こっちで危機を感知したら、すぐに連絡するから!」
「いいよー、でも、作戦がうまくいったら美味しいごはんをおごってねー」
というわけで、福は今、トラックの荷台にことことと揺られている。
《工場》を出発して二日は、何事もなく過ぎた。輸送部隊は樹海を抜けて、ヒラニプラの山岳地帯に入る。本校は比較的標高の高い場所にあるが、トラックでも通れるような道路が開校当初から敷設されており、輸送部隊も、斜面を巻くように切り開かれた道を、ゆるゆると登って行った。このまま何事もなく、本校まで到着するのではないか……という空気が生徒たちの間に流れ始めたのだが。
「……ん?」
輸送部隊の前面を進んでいた鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が、『超感覚』のために生えた犬の耳をぴん!と立て、空を見上げた。少し遅れて、豹華もはっと空を見る。
「……来た?」
パートナーのヴァルキリー松本 可奈(まつもと・かな)が尋ねる。
「みたいだ。背筋がぞわぞわする。福! 来たぞ!」
永谷は携帯に向かって怒鳴りながら空を見上げた。『禁猟区』では、敵が来る方角までは突き止めることが出来ないのだ。
「……後ろだ!!」
真一郎は振り向いて叫んだ。部隊の後方、上空に数個の黒い点が見える。それはあっという間に、あの、三角翼を持つ高速飛空艇の姿になった。5機が編隊を組んで、こちらに向かって来る。
「セレン、こっち!」
軍用バイクで輸送車両の傍らについていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は、サイドカーに乗っていたパートナーの獣人シルヴィア・セレーネ・マキャヴェリ(しるう゛ぃあせれーね・まきゃう゛ぇり)の手を引いて、トラックの陰に隠れた。なるべく敵を引き付けるべく、ローザマリアはスナイパーライフルを、シルヴィアはアサルトカービンを構えて狙いをつける。
「いきなりこっちから来た!?」
「ええいっ、こっち来んな、ニャー!」
軍用バイクに乗って隊列の最後尾についていたシュネー・ベルシュタイン(しゅねー・べるしゅたいん)は、パートナーのゆる族クラウツ・ベルシュタイン(くらうつ・べるしゅたいん)と並んでトミーガンを乱射した。しかし、高速飛空艇は機銃を撃ち返しながら突っ込んで来る。シュネーとクラウツは、慌てて『光学迷彩』を使いつつサイドカーの脇に身を伏せた。短く鋭い金属音を立てて、機銃の弾丸がサイドカーの車体に爆ぜる。
「何するのよ、当たったら死んじゃうでしょ!」
顔を上げて、シュネーは叫ぶ。
一方、ローザマリアとシルヴィアも、機銃掃射の洗礼を受けていた。弾丸を避けながらも精密射撃で放ったローザマリアの一撃は確かに高速飛空艇に命中したが、流線型の機体に弾かれてしまった。もう一度狙いをつけようとした時にはもう、相手は上空を通り過ぎている。
「硬い上に、狙いにくいったら!」
ローザマリアは舌打ちした。
「うう、勝てる気がしないよ……」
上空で旋回して、今度は隊列の前方から飛来して来た高速飛空艇に狙いをつけながらも、シルヴィアは涙目で弱音を吐く。
「敵を撃墜する必要はないの。荷物を守って学校まで着けばいいんだから、来たら追い払うだけで十分なのよ。気をしっかり持って!」
ローザマリアはパートナーを叱咤した。
「来たぞッ!」
一般 兵士(いっぱんの・へいし)Aが、突っ込んで来る敵を広角射撃で迎え撃つ。シルヴィアも涙をぬぐって、引鉄を引く。
「他には敵は居ないのか!?」
兵士Aのパートナー、シャンバラ人一般 兵士(いっぱんの・へいし)Bは、ランスを片手に周囲を見回したが、地上には敵の姿はない。
「これじゃ生け捕りにして尋問とか出来ないしー!」
兵士Bは舌打ちをするが、さすがにランスの届く高度には飛空艇は降りて来ない。ランスを投げる手もないではないが、投げたが最後空手になってしまう。
「やっぱり、飛び道具相手じゃ僕たちは不利だよね……」
荷馬車の影に隠れて、薔薇の学舎のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は唇を噛む。軍用の馬車なので荷台に金属板を張ったりという強化は一応されており、一撃で木っ端微塵にはならないが、さっきから荷物に弾丸の当たる鋭い金属音が何度もしている。
「あの高速飛空艇には、雷はあまり効果はありませんし、矢も弾かれてしまいますし……」
ロングボウを片手に、パートナーのヴァルキリーローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)も悔しそうだ。
「まーでも、こうやってぶつけてりゃちょっとは妨害になるだろ!」
一方で、もう一人のパートナーの英霊ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は、スナップをきかせて手斧を投げた。手斧はくるくると回転しながら空気を薙ぎ払い、複数の高速飛空艇をかすめてジィーンの手元に戻って来る。道路工事より戦闘の方がよほど性にあっているらしく、その姿はどこか楽しそうに見える。
「武器の選択を間違えたな……使えるのはドラゴンアーツくらいか」
バイクで輸送部隊の前を走っていた蒼空学園のエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、いったん構えたバスタードソードを捨てた。
「やれることをやるしかないよ! 人型兵器を守りたいんでしょ? いつか巨大ロボットに乗りたかったんじゃなかったの!?!」
エヴァルトのパートナーの機晶姫ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)も、遠当てで高速飛空艇を攻撃する。しかし、空中姿勢を崩すことが出来る程度で、撃墜には至らない。
「ライゼ、朔、是空!」
『光龍』壱号機の朝霧 垂(あさぎり・しづり)は、パートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)、砲手を務める機晶姫夜霧 朔(よぎり・さく)、運転手の獣人色即 是空(しきそく・ぜくう)に声をかけた。
「少し離れた方が狙いやすいか?」
「いいえ、このまま荷台を遮蔽に取ります!」
是空の問いかけに朔はかぶりを振って、高速飛空艇の動きを追う。一方、ライゼは垂の膝に乗ると、《冠》を装着した。
「早くて精密な狙いがつかないので、弾幕を張りましょう。……今です!」
朔の指示に従って、垂は素早くボタンを押す。細かい光の粒が、広範囲に撃ち出される。高速飛空艇は左右に分かれて、弾幕を避ける。
「とにかく、近づけなければいいから!」
垂は朔に言うと、膝の上のライゼをぎゅっと抱きしめた。
「つらくなったら、いつでも言えよ」
「うん、そしたら、回復頼むね?」
ライゼは一瞬垂を振り返ってにこりと笑うと、再び前を向き、垂の胸に背を預けた。
(大丈夫、垂さんが一緒に居るんだから、怖くないもん!)
砲台がぐるぐる動くのも、ちょっと遊園地の乗り物みたいだし、となるべく精神状態を良い方向に持って行こうとする。
一方、もう一台の『光龍』では。
「ほらほらあんころ餅! 『SPリチャージ』してやるから、きりきり働いて林田様のお役に立つですぅ!」
ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が、隣に座る緒方 章(おがた・あきら)のすねをがんがん蹴っていた。二人がけのベンチシートに、章を挟んでパートナーの林田 樹(はやしだ・いつき)と三人で無理やり座っているのだが、樹と章がくっついて座っていないといけない関係で樹の隣には座れず、不機嫌なことこの上ない。
「ちょっとからくり娘、気が散るから止めろってんだよ!」
《冠》装着中の章は《冠》の棘が食い込んでいる不快感もあって、思わず怒鳴り返す。
「……二人ともやめろ! 戦闘中だぞ!」
樹が叫んだ。
「むぅ……」
「はい……」
ジーナと章は不承不承黙る。樹ははあ、とため息をついて、『光龍』のコントロールに意識を集中した。そして、あることに気付く。
(む……私の意志では広角射撃や十字砲火はできないのか……?)
『光龍』では狙いをつける砲手と発射のスイッチを押す人間が別になっているわけだが、そういった技能は発射コントロールの生徒ではなく、砲手の方が使わないと効果がないようだ。
「こっちも、壱号機と同じように広角射撃だ!」
樹は砲手に指示を出す。
「うーん、今ひとつ『最強!』っていう感じはしませんね……。実戦投入したばかりだし、こんなものなのかしら」
相変わらず『光龍』の記録映像を撮影している吸血鬼アマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)は、浮かない顔で首を傾げた。
「だからと言って、そのようにぐいぐい迫って行っては怪我をします!」
英霊ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)は、カメラを持って『光龍』に近付いて行ってしまうアマーリエをへっぴり腰で引き止めた。
「何を言っているんです、戦場の真実は、撮影者自ら硝煙の中に身を置かなくては撮影出来ないものなんですよ! あなたも、助手としてついて来たのだから、ちゃんと仕事をしなさい!」
だが、アマーリエはロドリーゴを振り切って前へ出ようとする。
(余一人でアマーリエ殿を抑えるのは至難の業、恨みますぞミヒャエル殿……)
相変わらず明花にはりついている(と言っても、目的は明花自身の監視ではなく、明花を利用しようとする者が彼女に近付かないかを監視することに移っていたが)パートナーのミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)の顔を思い浮かべ、ロドリーゴは心の中で愚痴を吐く。
高速飛空艇は、しばらく機銃によるヒットアンドアウェイを繰り返していた。が、生徒たちの抵抗が激しく戦況が膠着すると、奥の手を出して来た。手榴弾による爆撃である。
「ぎゃーっっ、爆弾っ!」
兵士Aは、自分が座る御者台に落ちて来た手榴弾に悲鳴を上げた。
(勘弁してくれよぅ、輸送任務だから楽勝じゃなかったのかようっ!)
「ちっ!」
兵士Bが、とっさに手榴弾を路肩に向かって放った。手榴弾は路肩に落ちる前に空中で爆発した。あたりに小石や土が飛び散る。本当に間一髪だ。
「うわぁ……これは予想が外れちゃいましたねえ……」
別の馬車の荷台でそれを見た牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は口の中で呟いた。
「敵は積荷を手に入れに来ると思ってたんですけど、破壊しに来ましたか……そうですか……」
「メモリープロジェクターで一台分くらい映像を出しても、ここまで無差別に攻撃されたらあまり意味はないね」
パートナーの機晶姫シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)がアルコリアを庇いながら淡々と言う。
「結局、普通に遠隔攻撃するしかないですよねえ」
アルコリアはシーマの肩越しに、高速飛空艇に向けてドラゴンアーツを放つ。
「どれ、竜の魔力をお見せしましょうか」
ドラゴニュートランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が、迫って来た高速飛空艇にアシッドミストをぶつけた。そこへさらに、シーマが六連ミサイルポッドでミサイルを叩き込む。
「てえいっ!」
英霊リアド・ボーモン(りあど・ぼーもん)も正月の残りのカチカチになった餅を思い切り投げつけた。畳み掛けるような攻撃を嫌ったのか、高速飛空艇はいったん上昇、離脱する。
「む……一発だけではあまり装甲に影響はありませんでしたか」
ランゴバルトが唸る。そこへ、上空に飛来した別の高速飛空艇が手榴弾を落として来た。
「くっ!」
アルコリアはドラゴンアーツで手榴弾を吹き飛ばした。が、そこへさらに別の高速飛空艇が突っ込んで来る。
「うわああ、車懸りかよ!」
リアドが悲鳴を上げた。
「とにかく、粘りましょう! 正月の餅のように!」
アルコリアはパートナーたちを励ます。一方、
「うわああああん、何なのこれー!」
トラックの荷台に光学迷彩で隠れつつ、弾幕を張っていた福の鼻先にも手榴弾が落とされる。何とか空中で命中させることが出来たが、爆風で光学迷彩のシートが吹き飛ばされ、福は白黒逆パンダの着ぐるみの白の部分まで真っ黒になった。
「守り切ったら、絶対永谷に、ヒラニプラの街のホテルのランチバイキング奢らせるー!!」
学食の食事じゃわりにあわないっ!と福は叫ぶ。
「おや、パンダの悲鳴が聞こえましたね」
永谷のもう一人のパートナーであるファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)は、ふと後ろを振り向いて言った。
「……福!」
タワーシールドを掲げて皆を機銃掃射から守っていた永谷は、思わず身を翻して駆け出そうとしてしまった。が、ファイディアスは永谷の肩を掴んで引き止めた。
「なに、悲鳴を上げているうちは大丈夫でございましょう。もし致命傷であれば、永谷も無事では済まないはず。福が怪我をしていたら、後でわたくしが癒して差し上げますよ。この輸送部隊を無事に本校に届けることが自分の任務だと、永谷は言っていたではございませんか?」
「……そう……だよな」
永谷は唇を噛んで、盾を構え直した。
(持ちこたえてくれ……福!)
「こりゃあ、機銃で脅して蹴散らして、その間に荷物を持って行こうっていう攻撃じゃないぞ!」
荷物に弾丸や手榴弾が当たってもお構いなしの攻撃の苛烈さを見て、亮司が悲鳴を上げた。
「でも、ここで荷物を捨てて行ったら、俺たちは何一つ得るものがない。足の速いトラックだけ先に行かせたら、残りが袋叩きだろうし」
永谷は亮司に言った。
「だよなあ……。とにかく、皆で学校を目指すか! 奴らの機銃も、弾丸を無限に積んでるわけじゃないだろう。何とかしてしのいでいれば、そのうち弾丸が切れる」
亮司は、弾幕を張って敵を牽制しながら進もうと周囲の生徒たちに呼びかけた。しかし。
「う……何か、疲れてきた、かも……」
『光龍』壱号機のライゼが呟くように言った。SPタブレットを口に入れてもらえば元気は出るのだが、集中力を保つのが難しいのだ。
「思ってた以上に集中力を使うな、これ……」
垂も眉を寄せている。
「倒れる前に、撃つのをやめた方がいいんじゃないのか。戦線を離脱したくても、こんな岩山の中の一本道じゃどうしようもないし」
ハンドルを握っている是空が、右に左にと細かくハンドルを切って機銃掃射を避けながら言う。
「そうだな……ライゼ、もういい」
垂はライゼの頭から《冠》を外した。ライゼは大きく息をついて、目を閉じる。
「頑張ったな。……さてと、俺はもうちょっと頑張るか」
ライゼの頭を撫でてやって、垂は朔と席を交替した。明花に頼んで据え付けてもらった機関銃の照準をのぞく。
「絶対に、皆で無事に学校までたどりつくぞ!」
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